本当に好きな人は あなた
記憶を失ったまま退院した真優。
せっかく、奏多と逢えたのに、千紗と付き合っていたなんて信じられず、無理に奏多とデートの約束をした真優だったけどーー!?
「奏多!早く、中に入ろう」
クリスマスイヴの日。
約束通り、奏多と遊園地デート。
あたしは子供のように、はしゃぎながら、奏多の腕に手を回した。
奏多と遊園地に来るなんて、何年ぶりだろう。
あの時は、途中でどしゃ降りの雨が降ってきて、全部の乗り物には乗れなかった。
乗り物の中でも、1番人気の観覧車にも乗れなかった。
よく、マンガや映画とかである、頂上に来た時にキスすると、その人と永遠に幸せになれるジンクス。
今日は、天気予報では晴天って言っていたし、雨は降らないはず。
あの時できなかった夢を果たしてみせるんだから!!
とりあえず、観覧車は一番最後にとっておくことにしよう。
「奏多!ジェットコースターに乗ろう!!」
あたしは、グイグイ奏多の腕を引っ張った。
「わ、わかったから。そんなに引っ張るなよ」
奏多は、少し困った顔でジェットコースターに乗る。
あれ?そういえば奏多って、ジェットコースター苦手じゃなかった?
そんなこと思っても、もう遅い。ガタンと揺れると、次第にスピードを上げて行った。
「ごめんね、奏多ーー」
ジェットコースターから降りると、ひとまず近くのベンチに座わると、あたしは奏多に謝った。
「ん?」
奏多は、キョトンとした顔で、あたしを見る。
「奏多、ジェットコースター苦手だったでしょ?」
「俺が?」
「うん。ジェットコースターに乗って奏多、気分が悪くなったことがあったでしょ?確か、奏多が少しでも、気分が良くなるようにと思って、自販機でジュースを買ってきてあげて……」
あたしは、一つ一つ思いだそうとした時、
「ーー真優。それは、ジェットコースターで気分が悪くなったのは恭介だよ」
奏多が、何故か品川君の名前を口にした。
「品……川君?」
奏多は、大きく頷いて見せた。
「つい、この間。俺達と千紗と奏多で4人で遊園地に来てたんだ。それで、真優と恭介はジェットコースターに2人で乗ったんだ」
「2人で……?」
想い出そうとした時、突然、頭の中にズキンと痛みが走った。
また、病院にいた時と同じ痛みだーー。
頭を押さえながら、うずくまった。
「真優!?」
驚いて、奏多があたしの肩に手をやった。
「す……少し休めば……大丈夫だから」
あたしは、奏多に心配かけないように、微笑んだけど、顔が引きつってしまう。
「真優ー。ベンチに少し、横になろう……」
「うんー」
奏多に言われて、横になると、奏多は冷たいジュースを買ってきてくれて、それをおでこに当てて冷やした。
それから、何分経っただろう。
すっーと痛みが消えて、ゆっくりと身体を起こした。
隣を見ると、奏多がこっくりしながら、居眠りしている。
ずっと、そばにいてくれたんだ?
何だか、胸がキューンとしてしまう。
「奏多、起きて」
あたしは、奏多の肩を軽く叩いた。
「ん……真優?気分はどうだ?」
「うん。大丈夫」
あたしは、笑顔で応える。
「良かった。そろそろ、お昼かー。昼飯、食べようか?」
近くにあった柱時計を見ながら、奏多はベンチから立ち上がった。
「か、奏多。あたし、お弁当作ってきたから、一緒に食べよう」
「料理苦手な真優が?珍しいな~」
奏多は、驚いた顔であたしをみる。
卵焼きも満足に作れないあたしにとって、朝早く起きて作ったことが奇跡に近い。
でも、見た目も味も保証はできない。
あたしと奏多はテーブルのある所へ移動すると、お弁当を広げた。
唐揚げと卵焼きは黒焦げだけど、食べれるよね?
「奏多の好きな卵焼きも作ったの。食べて!」
あたしは、卵焼きをフォークに刺すと、奏多の口まで持っていった。
「い、いいよ。自分で食べるからー」
奏多は、慌てて横を向く。
「前は人目も気にせずできたのにー。今更、恥ずかしがることないじゃない」
「いや、そうじゃなくてーー」
「あ、そっか!見た目が悪いか」
そうだよね。こんな黒焦げじゃ、食べる気がしないよね……。
あたしは、気が抜けたようにフォークを置いた時だった。
近くのホットドック移動販売のお店の列の中に、品川君と千紗ちゃんが一緒に並んでいるのが見えた。
「奏多ー。ねえ、見て!品川君と千紗ちゃんがあそこにいるよ」
あたしに言われて、奏多は驚いた顔で2人に目を向けた。
「もしかして、あの2人付き合ってるのかな?」
「……」
奏多は、黙ったまま2人を見つめたままだ。
奏多もどうして、千紗ちゃんがと付き合ってるなんて言ったんだろう。
あたしは少し考えているうちに、ピーンときた。
そっか!きっと、千紗ちゃんに頼まれたのかも。
品川君って、モテそうだし、ヤキモチ妬いてもらおうとしたのかも知れない。
いくらヤキモチ妬かせたいからって、人の彼氏を使わなくてもいいのにー。
でも、これで納得。学校で、あたしと話してくれないのは気まずいだけだったのかも。
品川君と千紗ちゃんが、ホットドックを買って歩いてきた。
あたし達と目があって、向こうは少し戸惑った様子だ。
「品川君と千紗ちゃん。偶然だね!」
あたしは、2人の所に歩み寄った。
「あ、うん。そうだねーー」
何だか、千紗ちゃんと品川君の反応がぎこちない。
声かけたのマズかったかな?もしかして、付き合っていること秘密にしていたかったとか?
「ごめん、デートの最中に邪魔しちゃって……」
「えっ、違う違う。デートじゃないから!」
千紗ちゃんが、首をブンブン振る。
「やだなぁ~。そんなに恥ずかしがらなくてもー。2人が付き合ってることは、誰にも言わないから。ね?奏多」
後から来た奏多は、少し様子がおかしい。
「奏多?」
「か、奏多!俺、奏多に話があったんだ」
品川君が、慌てた様子で奏多を連れ出した。
2人は、こそこそ何か話している。
「ーー?」
どうしたんだろう?あたし、変なこと言ったかなー?
「真優ー。何か勘違いしてるみたいだけど、あたし品川君と付き合ってないから」
2人を気にしていたら、千紗ちゃんが、溜め息混じりに言った。
「またまた~。そんなこと、言ってぇ~」
「真優、早く想い出してよ。真優が付き合ってるのは、品川君なんだよ。だから、真優達のことが気になって、尾行してたんだから」
「えっーー」
尾行って……ずっと、あたし達のことつけてたの!?
驚いた顔で千紗ちゃんを見たけど、次第に嫌な気持ちでいっぱいになった。
「お待たせ!奏多と話したんだけど、これから一緒に遊ぶことになったから」
品川君が、元気よく言う。
「えっ、奏多はそれでいいの!?」
あたしは驚いて、奏多を見たけど、
「せっかくだから、みんなで遊ぼう」
と、平然とした顔をさせた。
「……」
どうして?せっかくのデートが台無しになっちゃうんだよ?
お昼をすませると、あたし達は遊園地を回ることにした。
「真優ちゃん。一緒に観覧車に乗らない?」
品川君が誘ってきたけど、あたしは首を振る。
観覧車は、奏多と乗るって決めてるのに、他の人と乗るなんてできない。
「いいからいいから」
品川君は、あたしの背中を押しながら、観覧車の方へ向かった。
「あ、あたしは奏多と一緒に乗りたいの!」
奏多に助けを求めようとしたけど、奏多は千紗ちゃんと仲良さそうに、先に観覧車へ乗るのが見えた。
「ーー!!」
どうして?千紗ちゃんと一緒に乗るのーー!?
ツキンとあたしの胸に突き刺さる。
「俺達も乗ろう」
「か、観覧車じゃなくて、あれ乗るから」
あたしは、ジェットコースターの方を指差し。
「品川君。乗りに行こう!」
あたしは、品川君の腕を掴むとジェットコースターの方へ歩き出した。
もぅ!いい。あたしだって、品川君と仲良くして奏多に嫉妬させてやるんだから!!
そう思っていたのに、奏多は相変わらず、千紗ちゃんと仲良く、あちこちと乗り物に乗っていた。
そんな中、ジェットコースターを乗った品川君の方は、降りた後、気分が悪いのか、ベンチでぐったりしてしまった。
「品川君、ごめん!そう言えばジェットコースター苦手だったんだっけ?」
「ーー!!もしかして、想い出したのか!?」
品川君は期待に胸を膨らませた顔で、あたしを見た。
「奏多から聞いたの……」
「何だー。そっか……」
それを聞いて、品川君はがっかりした顔でベンチにもたれかかった。
「あ、あたし何か飲み物買ってくるね」
あたしは、近くの自販機へ向かった。
ジュースを買って品川君の所へ戻ると、品川君の手にジュースを渡した。
「サンキュー」
ベンチから起き上がると、ジュースを受け取ろうとした時、品川君のズボンのポケットからスマホが、ベンチの上に滑り落ちた。
「あ、それ……」
品川君のスマホについているストラップに、目が止まる。
色違いだけど、学校の鞄についていたペンギンのストラップと同じだ。
「あ、これ?憶えてないかな?真優ちゃんとデートで水族館に行った時、色違いで買ったんだけど」
あたしが、ストラップに気をとられていると、品川君が説明してくれた。
「ーーー」
何も憶えてないー。デートしたってことは、本当に品川君と付き合ってたんだ……?
「何だよ恭介。また、乗り物酔い?」
奏多が呆れた顔で千紗ちゃんと戻ってきた。
「悪かったな……」
品川君は、ムスッと唇を尖らせた。
品川君って、子供みたいな所もあるんだ?
……あれ?前にも同じこと思ったような気がする……。
ズキンーー!!
また、頭に鈍い痛みが走った。
「次、どうする?」
少し気分が良くなったのか、品川君がベンチから立ち上がった。
「そろそろ、お土産買いに行かない?」
千紗ちゃんが提案したけど、あたしは動揺を隠せないでいた。
まだ、奏多と観覧車も乗ってないんだよ?それなのに、お土産なんて買いに行けない。
あたしは、拳に力を入れると、奏多の手を掴んだ。
「ごめん!奏多と乗りたい物あるから乗ってくるから、先に行ってて!!」
あたしは、奏多を連れて走り出した。
「ま、真優!乗りたい物ってなんだよ?」
奏多は、あたしの手を振りほどくと立ち止まった。
「観覧車……。奏多と2人で乗りたかったのに、どうして、千紗ちゃんと乗ったりしたの……?」
「それは……千紗が彼女だからかな」
「今更、そんなの酷いよ!そんなに、千紗ちゃんとがいいなら、どうして、今日来たのよ!?」
あたしは、嫉妬で感情が高ぶった。
「真優に、早く想い出してほしいから、来たんだ」
「あたしのこと邪魔だから、早く想い出させたいだけなんでしょ……!?」
あたし、品川君の彼女だったんだよね?だから、記憶が戻れば、奏多のこと、しつこく追い回したりしないと思っているんだ。
きっと、そうだよーー。
「真優のこと邪魔なんて、思ったことない。でも、早く想い出して元に戻ってほしいだけだから」
何よ……そんなに記憶を戻したいわけ!?
「そんなに、記憶が戻ってほしいなら……奏多が想い出させてよ!!!」
あたしは、泣き叫びながら奏多の腕を掴んでた。
「できることなら、協力したいけど、一つだけ条件があるんだ」
「条件ーー?」
「恭介にも協力してもらうことが条件かな」
「……」
記憶を失う前は、品川君と付き合っていたみたいだし、協力してもらうのは当たり前なのかも知れない。
「わかった……」
あたしは、渋々呟くように応えた。
「良かった~」
奏多はホッと安心したように、溜め息をついた。
それからというもの、休日には3人で逢う日が多くなった。