本当に好きな人は あなた
恭介の怪我も治り、ホッとする真優だったが、突然、恭介に告白される。
戸惑いを隠せない真優。
恭介の真剣な想いに、1ヶ月だけお試しで付き合うことになったけど!?
お試し期間で付き合い始めて2、3日が経った頃。
「校門の所にイケメン発見ー!!」
帰りのホームルームが終わり、帰ろうと千紗と昇降口へ向かっていると、周りの子達が、騒いでいるのが聞こえてきた。
「ちょっと、イケメンだって!見に行こう」
「千紗には澤谷君がいるでしょ?」
千紗が目の色を変えて、あたしに言うものだから、呆れた顔で千紗を見る。
「あはは……。そうなんだけど、イケメンにはよわいんだよね~。奏多君には内緒ね」
「もぅ~、仕方ないなぁ~」
あたしは、溜め息混じりに言う。
あたしと千紗が、外へ行ってみると、校門の所に人の群ができていた。
その中にいた男の子が、こっちを振り向くなり、大きく手を振った。
「真優ちゃんー!!」
あたしに向かって、元気に手を振る、その男の子は品川君だった。
周りにいた子達が、一斉ににあたしの方を振り向いた。
「品川君……!」
どうして、ここに品川君がいるの!?
学校にいるとは思わなかったから、驚きもいいとこだ。
「どうしたの?品川君」
「一応、付き合い始めたんだし、一緒に帰ろうと思って」
品川君は、照れながら応える。
「ちょっと、何?あんたたち付き合い始めたの?」
あたしの隣で、目を丸くしながら、千紗が驚い顔をさせた。
「まだ、奏多には言ってないんだけどな」
品川君が、すました顔で応える。
「そうなんだ?だから、奏多君、何も言ってなかったのかぁ~。それにしても、品川君のこと嫌ってた真優が、よく付き合う気になったよね~」
意外そうに、千紗はあたしの方をチラッと見る。
「あ、あのね、千紗。付き合い始めたって言っても、お試……」
話している途中で、急に品川君があたしの肩を掴んだ。
「俺達、寄るところがあったんだ!湯沢さん、ごめんね。独りで帰って」
「いいのいいの、あたしのことは気にしないで。2人とも、仲良く帰って。また、明日ね!真優」
千紗は、ニヤニヤしながら手を振った。
学校が見えなくなった頃、品川君はあたしの肩から手をはなした。
「どうして、千紗に本当のこと言わないの?千紗のあの様子だと、澤谷君にも言うかもよ」
期限つきで、付き合い始めたと言えば、奏多にも誤解されなくてすむのにー。
「何?奏多に知られるとまずいことでも、あるわけ?」
「いや、あの……そういう訳じゃ……」
あたしが、お試しで付き合おうが、今の奏多には関係ないことなのに、なんでこんなにこだわってるの?
「真優ちゃん。やっぱり、奏多のこと好きなんじゃないの?」
「ち、違うから!それより、どうして、また、下の名前で呼ぶわけ?」
「一応、彼女なんだし。名前で呼ぶくらい良いかなと思って。だから、真優ちゃんも」
「……そんな、急に言われても」
あたしは、困った顔で品川君から目を逸らした。
「ま、段々でいいけど」
「……」
お試しだし、名前で呼ぶ日がくることなんてあるのかな?
それから、1週間が過ぎた頃。
お試しで付き合い始めてから、1回目のデートは水族館へ行くことになり、品川君と駅で待ち合わせをすることになった。
「やばっ!遅刻」
デート当日。寝坊して、急いで待ち合わせ場所へ行くと、先に品川君が待っていた。
「真優ちゃん。こっちこっち!」
あたしに気がついて、品川君が、手を振った。
「はあはあ……ごめん!遅くなって」
あたしは、息を切らせながら品川君に謝った。
「俺も今、来たとこだから、気にしないで」
品川君は、笑って応えてくれた。
「それじゃ、行こう!」
品川君はあたしの手を握ると、走り出した。
あたしは、品川君に促されながら、一緒に走り出した。
駅の階段を駆け上がって行くと、ホームに電車が到着していた。
「急ごう!」
あたしと品川君は、慌てて電車に乗り込んだ。
電車のドアが閉まり、直ぐに動き出した。
「はあはあ……間に合ったー」
品川君は、ふーと一息つくと車内を見渡した。
休みのわりには、車内は空いていた。
「あそこに、座ろう」
空いてる座席を見つけて、あたしと品川君は、座ることにした。
「品川君。ごめんね、急がせて」
寝坊しなければ、忙しい思いもせず、こんなに息を切らせることもなかった。
「また、謝る!気にしなくていいって言っただろ?」
品川君は、あたしの頭を軽くポンと叩いた。
「それより、まだ品川君なんだ?」
シュンとしながら、寂しそうな顔をする。
そんな、品川君にキュンとしてしまう。
「す、すぐには無理って言ったでしょ?」
あたしは、つい可愛くない態度をとってしまう。
「そうだった。待ってるって、約束だったもんな」
苦笑いしながら、あたしの顔を見た。
2人で話しているうちに、電車は到着して、あたしと品川君は水族館へ向かった。
「結構、混んでるな」
水族館に到着して中へ入ると、どの水槽にも人が集まっていて、人と人の隙間から見る感じだ。
これじゃ、見れない!!
あたしは、ふーと溜め息をついた時だった。
「10時30分から、イルカショーを行います……」
館内にアナウンスが流れてきた。
時計を見ると、10時10分を回った所だ。
「これじゃ、見られないし、少し早いけど、今からイルカの方に行って並んでない?」
あたしが提案すると、品川君も賛成してくれた。
さすがに、親子連れと、カップルが一組ずついるだけで、余裕で並ぶことができた。
イルカショーの開演時間の頃には、観客席が沢山の人でいっぱいになった。
久し振りに見るイルカショーは、華麗なジャンプで目が釘付けになる。
観客席からは、わぁー!っと歓声が上がった。
前の方に座っていたあたし達は、イルカのジャンプで水しぶきが勢いよくはねて、水しぶき除けに配られたシートが水浸しになってしまった。
「冷たーい!」
あたしと品川君は、2人で顔を見合わせると、思わず笑ってしまった。
「真優ちゃん、大丈夫?」
品川君に声をかけられて、あたしは髪を拭きながら顔を上げた。
品川君の髪にも水しぶきがかかって、男の子なのに凄く色っぽく感じて、見とれてしまう。
水も滴るいい男とは、このことだ。
「真優ちゃん?」
品川君の顔が急に近づいて、あたしの心臓がドキンと跳ね上がる。
「あ、あたしは大丈夫だから、品川君も拭いたほうが……」
慌てて、自分のハンカチを差し出した。
「ありがとう」
ハンカチを受け取ると、吹き始めた。
「……」
そんな品川君を見ながら、ドキドキしてしまう。
落ち着け~!何、ドキドキしてるのよ。
必死に心臓の鼓動を落ち着かせた。
「そ、そろそろ、見ていないコーナーに行こう!」
あたしは、パッと席を立ち上がる。
「そうだね、そろそろ行こうか」
あたしに促されて、品川君も思い立ったように立ち上がった。
ペンギンやアザラシ、他にも色々な種類の魚を見た後は、お土産コーナーへ。
「あ、これ綺麗!」
あたしは、一つのストラップに目が止まった。
ペンギンの形をした色がついたガラス細工になっていて、光の加減で所々、赤や青に光って反射している。
欲しい~!
色違いのペンギンもある。
でも、よく見ると、カップルで持つと永遠に幸せになれるストラップと書いてある。
何だ……。カップル専用かー。
でも、買おうかな?
迷った顔で見ていると、
「真優ちゃん。欲しいの?」
品川君があたしの様子に気がついて、顔を覗き込んだ。
「う、ううん。只、見てただけ……」
あたしは、慌てて別のお土産コーナーへ向かった。
でも、欲しいと思ったような物はなく、結局、何も買わずに水族館を出た。
帰りの電車の時間まで、まだ、少し時間があったので、あたしと品川君は駅のホームのベンチに座り、電車が来るのを待った。
「真優ちゃん。何も買わなかったでしょ?これ、プレゼント」
品川君は、水族館の包み紙をあたしの前に差し出した。
あたしは、包み紙を開けてみると、あのペンギンのストラップが入っていた。
「……これ、欲しかったストラップ」
あたしは驚いた顔で、品川君を見る。
「真優ちゃん。それ、欲しそうに見てたでしょ?だから、付き合い出した記念に、俺も買っちゃった」
そう言って、もう一つの色違いのペンギンのストラップを見せた。
「付き合い出した記念って……。あたし達、まだ正式に付き合っていないのに」
「いいのいいの。そんな堅いこと言わないで!記念品だと思ってくれればいいから」
品川君は笑って、そう言った。
「ありがとう……」
ここは素直に受け取るとしますか。
「良かった~。受け取ってくれて」
品川君は、ホッと胸をなで下ろした時、電車がスピードを落としながらホームに入ってきた。
電車に乗ると、あたしと品川君は次のデートの約束をして別れた。
「珍しく、鞄にストラップつけてる!」
翌日ー。
学校へ行くと、千紗が興味津々にあたしの鞄をに目をやった。
前に一度、鞄につけていたストラップをなくしたことがあったので、しばらくつけないようにしていたけど、光に反射するペンギンが綺麗で、つい鞄につけてきてしまった。
「なあに~?もしかして、品川君からのプレゼントだったりして」
千紗はニヤニヤしながら、あたしの顔を覗く。
「ん……まあ、そんな感じ」
あたしは、曖昧な応える。
「いいなぁ~、真優はー。仲良さそうで」
「仲良さそうでって?千紗だって、澤谷君と仲良いじゃない」
嫉妬するくらい仲が良いのに、どうしてそんなこと言うんだろう。
「だって、奏多君。最近、忙しいとか言って、全然、逢ってくれないんだよ。もうすぐ、クリスマスだって言うのに」
千紗は、ぼやきながら寂しそうな顔をした。
「でも……バイトが一緒なんでしょ?その時、逢えるじゃない」
確か、本屋さんのバイトで、奏多と知り合ったんだよね?
「それがさぁ~。奏多君、バイト辞めちゃったんだよねー。家の事情とか言ってたけど……」
「……」
あたしと付き合っていた頃も、部活や学校で忙しいとか言って、逢えなくなって自然消滅したのを思い出す。
「どうしようー。別れようなんて言われたら」
千紗が心配そうにしていたけど、その悩みも放課後には一気に吹っ飛んでしまっていた。
帰る支度をして、昇降口を出て正門に向かって歩いて行くと、奏多が正門の入り口に立っているのが見えた。
「奏多君!!」
千紗は嬉しそうに、奏多の所へ駆け出した。
「どうしたの?今日、約束してたっけ?」
「なかなか、千紗に逢う暇がないから逢いに来た」
奏多の言葉に千紗は、嬉しそうに抱きついた。
「……」
なによ!?あたしの時は逢いにもきてくれなかったのにー。
昔のことを思い出して、ついムッとしてしまう。
「奏多君、見て!これ、品川君から貰ったんだって」
千紗は、あたしの鞄についているストラップを奏多に見せた。
「恭介に?」
奏多は、驚いた顔であたしを見る。
「あれ?奏多君。まだ、品川君から聞いてないの?真優と付き合い始めたって」
千紗に言われて、奏多は驚いた顔であたしを見る。
奏多の様子からすると、まだ、品川君から聞いていないみたいだ。
「恭介、何も言ってなかったから、知らなかったー」
「あたしもこの前、やっと、品川君から聞いたんだ~」
「そうなんだ?」
奏多が意味ありげに、あたしをチラッと見る。
「真優、ごめん!今日は、独りで帰ってくれないかな?」
千紗は、甘えたように奏多の腕に手をやった。
「う、うん。また、明日ね」
笑顔で2人に手を振った。
少し経ってから、あたしも歩き出した。
さっきの奏多の顔、何か言いたそうだった。
何か気になるなー。
そんなことを思いながら、横断歩道を渡ろうとした時、バイクが猛スピードで、こっちに向かって走って来た。
キキッーーー!!
一瞬のうちにバイクが近づいてきて、あたしの身体は激突で激しい痛みに変わり、頭の中が真っ白になった。
そして、そのまま気を失ってしまった。