本当に好きな人は あなた
元カレの奏多が千紗の彼氏だと知り、複雑な気持ちで、2人を見つめる真優だったが、千紗に奏多の友達の恭介を紹介される。
でも、見た感じチャラ男そのもの。
あまり、乗り気じゃない真優だったけど、恭介に2人だけで逢いたいと言われて、逢うことにしたけど……!
翌日ー。
次の時間が移動教室なので、あたしと千紗は廊下へ出ると、
「真優ー。品川君と何処に行くか決めた?」
いきなり聞かれて、あたしは驚いた顔で千紗を見た。
「ど、どうして知ってるのー!?」
内緒話くらいの声で話していたのに、まさか聞こえてた?
「奏多君が品川君に聞いたみたいなんだよね~。デートするってことは、真優も品川君のこと満更でもなかったりして」
「べ、別にそんなんじゃないから!それに、デートってわけじゃないし。向こうがどうしてもって言うから、仕方なくー」
「ふ~ん」
千紗はニヤニヤしながら、あたしを見る。
「……」
絶対、あたしが、品川君に好意を持ってると思ってるよ~。
あたしは、小さな溜め息をついた。
品川君には、まだメアドを教えていないから、待ち合わせ場所は奏多と千紗を通してもらい、待ち合わせ場所は映画館の前に決まった。
約束の日、待ち合わせ場所へ行ってみると、品川君が映画館の前で女の子達と楽しくお喋りをしていた。
「彼女が来たから、またね~」
あたしに気がついて、品川君は女の子達に手を振った。
やっぱり、チャラい。
あたしが、品川君に近づいていくと、あたしの方をクスッと笑うと、一目散に女の子達は逃げて行った。
ななな何なの?今の笑いはーー!?
「あの子達と映画観た方がよかったんじゃないの?」
あたしは、イヤミたらしく品川君に言う。
「石井さんと映画を観たいんだけど。それに、あの子達には興味ないし」
品川君は、すました顔で言った。
「……」
本当なのかな?さっき、随分と楽しそうに話していたみたいだけど。
あたしは、面白くない顔で品川君を見た。
「映画、始まるから中に入ろう!」
あたしのことなんてお構いなしに、品川君はあたしの腕を掴んで、映画館の中へ入った。
「コメディと恋愛とホラーか~。どれがいい?」
品川君は、映画のジャンルを見ながら聞いてきた。
「……恋愛で」
「恋愛もの好きなんだ?」
「悪い?」
こんな事、言うと可愛げがないのはわかっているけど、どうしても憎まれ口をたたいてしまう。
「悪いとかじゃなくて、石井さんに合ってるなと思って」
「……」
そんなこと言ってくれるなんて、思ってもみなかった。
「もうすぐ、始まる時間だ。行こう!」
品川君は、ポップコーンを買うと、あたし達は中へ入った。
恋愛ものって言っても、ラブコメディみたいな感じで、笑いありの中に恋が芽生えるみたいな感じで、結構、面白く観られた。
「面白かった!」
映画が終わると、あたしと品川君は、口を揃えた。
へぇ~。意外と気が合うんだ?
「お腹空いたな~。あそこの店に入って、何か食べないか?」
品川君に言われて、あたしは映画館の前にあるカフェに目をやった。
確か、千紗と一度だけ入ったことがある。
あのカフェのパンケーキがふわふわで、凄く美味しかったことを覚えている。
品川君と一緒にカフェへ入ると、窓際の席に座った。
「何にしようかな~」
メニューに目を通しながら、悩んでいる品川君の顔を見ると、無邪気な子供のようだ。
「石井さんは、何にする?」
「あたしは、パンケーキ。品川君は?」
「奇遇だね。俺も石井さんと同じ物なんだ」
品川君って、もしかして甘党!?
パンケーキを食べている所なんて、想像もつかない。
少し経って、注文したパンケーキが来ると、
「俺、甘いものに目がなくて」
そう言いながら、美味しそうに口に頬張った。
「……」
またまた、意外な一面を知った気がする。
「どうした?食べないのか?」
あたしはハッとして、慌ててフォークでパンケーキを刺すと食べ始めた。
「あ~、美味しかった!」
あたしは満足そうに、お店を出た。
「本当、旨かったな~」
一緒に店から出てきた品川君も、満足そうな顔をしている。
それにしても、品川君とこんなに気が合うとは思わなかった。
品川君もそう思ったなか、
「今日、改めて思ったんだけど、俺達、気が合うなー」
意外な顔で、あたしを見る。
「そ、そんなのたまたまだよ……」
奏多の時は、こんなに気が合ったことってあったかな?
「そうかな?たまたまとは思えないけど?」
「……」
「石井さんって、意外と素直じゃないんだな」
少し強い口調で言った品川君だけど、よく見ると目は、笑っていた。
今日、2人でいて、最初逢った時の印象と違うことに気づかされるなー。
「ま、そんな石井さんでも俺は好きだけどね」
「そ、そんなおだてたって何も出ないんだから!」
少しでも好感が持てたなんて、やっぱり勘違いだったのかも。
「本当のことなんだけどなぁ。もっと、石井さんのこと知りたくなったって言ったけど、ますます君に興味が出てきたよ」
「……」
そんなこと言われても、困ってしまう。
「行こう、石井さん!」
急に品川君は、あたしの手を掴んで、走り出した。
「ちょ、ちょっと、何処に行くの!?」
品川君に手を引っ張られながら、ついて行く。
辿り着いた所は、ゲームセンター。
「まだ、時間あるし、思いっきり遊んで行こうぜ?」
「し、仕方ないなー」
たまには、こういうところで遊ぶのも悪くない。
品川君と中へ入ると、夢中で遊びまくった。
あたしの好きなゲームはUFOキャッチャーだけど、取れた試しがない。
あ!あのストラップ可愛い~。
あちこち見ていくと、ひとつのUFOキャッチャーの中に積み重ねてある、ブサイクな顔の犬に釘付けにされる。
「石井さんって、ああいうのが好きなんだ?」
品川君は、驚いた顔であたしを見た。
「ブサかわな所がいいんじゃない!」
ついついテンションが上がってしまう。
お金を入れると、早速取り始めた。
でも、すぐに落ちてしまい、2回目も挑戦したけど、結果は同じだった。
コツを掴めば取れるかも知れないのに~!
「貸して、俺がやる」
そう言うと、品川君が代わりにやり始めた。
1回で取れるはずがないと思ってバカにしていたのに、操作しながらストラップ掴むと、みるみるうちに上げて行く。それも、
2個一緒に穴の中に落とした。
「凄~い!!」
あたしは、思わず声を上げた。
「はい」
出てきたストラップを取り出すと、品川君はあたしの手にのせた。
「2個もとるなんて、凄い!」
「いや、たまたまだから……」
自分でも驚いた顔で、口に手をやった。
「あたしは、1個あれば十分だから、こっちは品川君にあげる」
「じゃあ、貰っておこうかな」
品川君に断られるかと思ったら、すんなり受け取ってくれた。
「石井さん。また、俺とデートしよう」
帰り際、品川君はまた、あたしを誘う。
「どうしようかな……」
そりゃあ、今日は楽しかったけど、映画館の前に独りでいるだけで、女の子達が品川君に寄ってくるのが、わかった。
別にあたしと遊ばなくても、他にデートする彼女が、いくらでもいそうだ。
「今度、千紗と澤谷君で4人で遊ばない?」
「何だよ。俺と2人じゃイヤなのか?」
「あ、ほら。みんなで遊んだ方が、もっと楽しいと思うし……」
「それって、俺と2人じゃ、つまらないってことかー」
「ち、違うから!今日、品川君といて楽しかったし……」
あたしは、慌ててブンブン首を振る。
「ふーん。もしかして、まだ、俺のこと信用できないとか?」
急に、品川君が顔を近づけてきた。
ち、近っ!!
あたしは、慌てて顔を背けた。
「ま、いいや。石井さんのことがもっと知ることができれば、ダブルデートでも」
品川君は、あたしから離れると背を向けた。
びっくりした~!キスされるかと思った!!
でも、どうしてそんなに、あたしのこと知りたいわけ?
「ねえねえ、昨日のどうだった?」
翌日、学校へ行くと千紗が興味本位にあたしに聞いてきた。
「どうって?」
「やだなぁ~!品川君とのデートに決まってるじゃない」
千紗は、あたしの背中をパシッと叩いた。
「イタタ……。デートじゃないんだから、そんなこと聞かれても……」
叩かれた背中に手を伸ばすと、顔をしかめた。
「でも、品川君が真優とデートするって言ってたって……奏多君がー」
「……」
奏多、そんなことまで千紗に話してるのか……。
「あたしは、品川君みたいな人が千紗の彼氏になったほうが思うけどな~」
「冗談やめてよ!あんなチャラ男」
「そうかな?奏多君の話では、モテるけど本気で好きになった子としか付き合わないって、品川君が言ってたんだって」
「……」
ふーん、意外と一途なんだ?
「品川君、真優のこと気に入っているみたいだし、デートしてあげればいいのに」
「ん……でも、品川君と逢う時は、澤谷君と千紗と4人でじゃダメかな?」
「いいけどー。奏多君にも聞いてみるね」
千紗は、仕方なさそうに溜め息をついた。
ごめん、千紗。付き合う人は慎重に選びたいんだ……。
奏多と自然消滅してから、少し臆病になっているのかも知れない。
千紗が奏多に聞いてから何日か過ぎてのことだった。
自分の部屋でくつろいでいた時、携帯の着信音が鳴り響いた。
画面を見ると、奏多からだった。
「もしもし……奏多?」
あたしは、思わず名前を呼んでしまった。
「真優?どうして、俺だってわかった?……もしかして、俺のアドレス消してなかったのか?」
奏多に聞かれて、あたしの胸がチクンと痛む。
「や……やだなぁ~。そんなはずないじゃない。奏多が電話するって、千紗から聞いていたからー」
とっさに、嘘をついてしまう。
「俺、真優に電話するって、千紗に言ったかな?」
電話の向こうで、奏多は考え込んでいる。
「そ、それより、何か用?」
「恭介のことなんだけど」
「……品川君がどうかしたの?」
「恭介のこと、少し考えてみてくれないかな?」
「ど……どうして、奏多にそんなこと言われなきゃならないのよ?」
「あいつ、ああ見えて、好きな子ができたら、凄く大切にすると思うんだ。だから、真優のことも……」
友達を想う奏多の気持ちは、伝わってくる。
その反面、元カノにそんなことを言う奏多は、どんな顔をしているのだろう?
「……品川君に告白されていないのに、どうして話がそこまでいってるの?」
あたしは、ギュッと手に力が入った。
「友達の勘で、何となく分かるんだ。恭介、真優のことが好きなんじゃないかー」
「ごめん!今は誰とも付き合う気ないから」
奏多の言葉を遮るように、あたしは口を挟んだ。
「……真優が彼氏作らないのって、俺のせい?」
「ーーー」
そうだよ!って言ってやろうかと思ったけど、何とかその場で気持ちを抑えた。
「俺のせいなのに、聞く方がバカか……」
「奏多……」
「ごめん。とりあえず、恋愛感情なしでもいいから、恭介と仲良くしてあげてくれないかな?」
「いいけどー」
「今度の休みにでも、千紗と恭介を誘って何処か出かけよう」
「うん……」
奏多の提案で、休みの日に出かけることに決定した。
休日ー。
千紗の提案で、新しくできたカフェのお店に、奏多と品川君で行くことになって、駅近くの公園で待ち合わせだ。
もうすぐ12月というせいか、公園も木や植え込みなどクリスマスの飾り付けの準備が始まっていた。
「少し早く来ちゃったかなー」
ちょうどいい時間に、家を出てきたつもりでいたけど、まだ誰も来ていない。
「真優!遅くなってごめん」
でも、少し待っていると、千紗が慌てて走ってきた。
「あれ?奏多君と品川君はまだ来てないんだ?」
千紗は、2人の姿が見えないので、キョロキョロ見渡した。
「うん。まだみたい」
「奏多君にしては珍しいー。デートの時は、いつも待ち合わせ場所には先に来てるのに」
「えっ、そうなんだ?」
あたしは、驚いた顔で千紗を見た。
あたしと付き合っていた頃は、あたしの方が先に待ち合わせ場所に来て、後から奏多が遅れてきたのにー。
あたしと千紗が話していると、2人のガラの悪そうな男の子があたし達の近くに寄ってきた。
「ねえねえ、君達。暇なら、俺達と遊びに行かない?」
独りの男の子が、あたし達に話しかけてきた。
「ごめんなさい。あたし達、今、彼氏と待ち合わせしているので……」
あたしと千紗は、男の子達から逃れようと、歩き出した。
「少しくらい、いいじゃん!」
男の子達は、あたし達の前に立ちはだかると、腕を掴んできた。
何てしつこい人達なの!?
「離して!!」
あたしも千紗も、手をふりほどこうとしたけど、ビクともしない。
誰か助けて!!
助けを求めて、周りの人に目をやったけど、見て見ぬ振りをして知らんぷりだ。
「ごめん!遅くなって」
その時、奏多と品川君があたし達を庇うように立った。
「彼氏の登場か?」
独りが、ジロッと奏多と品川君を睨みつけた。
良かった!これで諦めてくれるよね。
そう思ったのに、
「ちょっと、彼女達、借りてくぜ」
相手の人達に、あたしと千紗の肩を掴まれると、連れて行かれそうになった。
「誰が、いいって言った!?」
奏多が相手の男の子の腕を掴
んだ。
品川君も、あたしに絡んでいた男の子につかみかかった。
「何だ!やるのか!?」
相手の男の子達は、奏多君と品川君の顔を殴り始めた。
「ど、どうしようー!真優。奏多君達、ボコボコにされちゃう」
千紗は、泣きそうな顔でオロオロするばかりだ。
助けに入っても、力じゃ負けてしまう。
そうだ!駅の近くだし、駅前の交番に行ってお巡りさんを呼んでこよう!
「千紗、ちょっと、待ってて!」
「真優!?」
千紗に呼ばれたけど、あたしは急いで交番に向かって駆け出した。
あたしが、お巡りさんを呼んで来ても、まだ、ケンカは続いていた。
「お巡りさん!あそこです!!」
「君達、止めないかー!!」
お巡りさんは、笛を鳴らしながら駆け寄って行った。
「チッ!このくらいにしとくか」
男の子達は、慌てて逃げて行った。
「こらー!!待ちなさい」
お巡りさんは、慌てて2人を追いかけて行った。
奏多と品川君を見ると、頬を殴られて赤く腫れ、唇も切れているみたいだ。
「奏多君!大丈夫!?」
千紗が心配そうに、奏多の所に駆け寄った。
「俺は、大丈夫だから。それより、千紗は大丈夫?何もされなかった!?」
奏多は、心配そうに千紗を見た。
「うん、大丈夫。それより、唇、切れてる……」
千紗が奏多の唇に手をやろうとした時、奏多は千紗を抱き締めた。
「良かった!千紗が無事で」
奏多の言葉に、あたしは何だか、無性に腹が立った。
あたしだって、被害にあっているんだから、少しは心配してくれてもいいのに!!
あたしは、ムスッとしながら、奏多を見たけど、すぐに品川君の方へ目をやった。
「品川君、助けてくれてありがとう。ハンカチ濡らしてくるから、顔、少し冷やしたほうがいいかも……」
「これくらい、平気だから。それより、お巡り呼んできてくれて助かったよ」
「あたしには、あれくらいしかできないから……」
お巡りさんを呼んで来なかったら、こんなケガではすまなかったかも知れない。
「それより、今日は中止するしかないね……」
楽しみにしていたけど、2人ともこんな傷だらけの顔で行ったら、お店の人もびっくりしてしまう。
「そうだよね……。2人ともケガしてるし、手当てしないと」
千紗も心配そうに口を開く。
「あそこにベンチがあるし、とりあえず座って手当てしない?」
あたしは、近くのベンチを指で指した。
あたし達がベンチに向かって歩き出そうとした。
「ーーッ!!」
品川君が、急にあたしの肩によろめいた。
「品川君!?」
あたしは、驚いて品川君を見る。
「何でもないから」
そう言った品川君の表情が、ひきついていた。
「でも……」
「本当に、何でもないから」
あたしの心配をよそに、品川君は歩き始めた。
でも、足をケガしているのか、引きずりながら。
「真優、品川君ー!!」
先にベンチに着いた千紗が、呼んでいるのが聞こえてきた。
「もしかして、足……ケガしたの?」
「あいつらに、ちょっとな……。でも、このくらい平気だから」
品川君はそう言ったけど、責任を感じてしまう。
ベンチに着くと、品川君の足を見ると、パンパンに腫れていた。
品川君は、平気なんて言ったけど、かなり痛いはずだ。
「随分、腫れてるし病院に行ったほうがいいんじゃない?真優、付き添ってあげなよ」
品川君の腫れている足を見て、千紗はあたしに言う。
「うん……」
助けてくれたのに、このままほっとくわけにもいかない。
結局、お店は次回に行くことになり、あたしは、品川君と病院へ行くことに予定が変更になった。
「捻挫だけど、腫れも酷いから、完治するまで3週間はかかる」
病院へ行くと、先生はレントゲンの画像を見ながら、淡々と結果を伝えた。
3週間……。結構、腫れていたから治るまでに時間がかかるってことか。
「んー。とりあえず、足に負担をかからないようにすれば、治りが早くなるから」
そう言って、先生は看護士さんに松葉杖を持ってくるように指示をした。
松葉杖を借りると、廊下の待合室の椅子に座った。
「品川君、本当にごめんね。あたしのせいで……」
何て言ったらわからず、謝ることしかできない。
「いいよ、謝らなくても。自分でやったことだし」
「でも、これじゃ、治るまで不便でしょ?あたしが、品川君の助けになるから!何か、やってほしいことがあったら言って」
治るまで、ほおっておくのも考えたけど、それじゃ、ますます、責任を感じてしまう。
「そんなに、責任を感じてるんだったら、帰りだけでもいいから、学校まで迎えに来てもらおうかなー?」
品川君は、意地悪そうにあたしの顔を覗いた。
「どうして、あたしが……」
他校の生徒が行くと目立つし、学校に行く以外にはないわけー?
「助けになってくれるって言ったよね?」
品川君に、少し意地悪そうな目つきで見られて、ドキッとしてしまった。
もしかして、品川君ってドS!?
「わ、わかった。明日、学校が終わったら迎えに行くね……」
あたしは、慌てて言い直す。
「よかった。何かと荷物もあるし、手伝ってくれると助かるよ」
品川君は、にっこりと微笑んだ。
荷物って……。助けが必要なほどあるのかなー?
自分で言ったことだから仕方がないけど、明日から、品川君にこき使われそうだ。