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小雪が行く!  作者: 優也
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小雪、出陣。

 なんとかミリィちゃんを宥め、ミリィちゃんはどこから取り出したのかわからないイチゴショートケーキとアールグレイティーを先程ボタンが置いてあった机に置いて、木製の足の長い椅子に腰掛け2人でティータイムとした。


 イチゴショートケーキのクリームとイチゴが口に入り、滑らかで上等な甘味とイチゴの爽やかで癖のない酸味が口内を満たすと、ココがゲームの世界だと忘れそうになるほどの多幸感に包まれる。


「あっ!説明を……」


 急に思い出したかのように、ミリィちゃんは声をあげ、そのまま項垂れてしまう。


「すいませぇん、聞かれてたご質問への返答と残りの説明、してませんでしたぁ……」


 先程までは満面の笑みでショートケーキを頬張っていた表情から一変、いまにも泣き出してしまいそうな声と雰囲気を出してしまうミリィちゃんに、気にしないでと声をかけて続きを聞こうとするも、フォローされてしまいました……といよいよ泣いてしまうかのような声に変わる、案外ナイーブなミリィちゃん。


「で、教えてくれるかしら?」


「あっ、はい……まずは私が普段居るところについてです。お話をする前に、これを腕に装着してください」


 そう言って、これまたどこから出したかわからないけど、腕時計のような物を取り出して、私にそれを渡す。言われるがままに私はそれを左手首に巻きつけると、視線をミリィちゃんへと戻す。


「はい、ありがとうございます。ではその腕時計のようなものについてからの説明をします」


「お願いします。これはなんなのかしら?」


 一呼吸置くミリィちゃん。


「それは、仮想現実空間ホログラフィック腕時計型端末機……長いので、これをVRフォンと呼んでます。これがあれば、ステイタスチェックやフレンド登録された方の通話、それに私を呼び出すことなど、様々な事が出来る便利アイテムでふ!」


 最後の最後に舌を噛んだのか、胸を張ってキメようとしたミリィちゃんが悶絶している。


 大丈夫?と聞くと、だいじょうぶれふ……と、少し涙を流しながらそう返事をもらう。


「しょして、ふだゃんわりゃしはこにょおへやにいましゅので、さきほどょはいってましぇんでしたが……」


「む、無理しないで!痛いの治ってからでいいから!」


 プロ根性なのかどうかはわからないけど、全然まわっていない呂律を酷使するミリィちゃんを制する私。無理して言われても、何言ってるかわからないので、少し待つ。


 しばらく待つと、痛いのがおさまったのか、申し訳ありませんとしっかりした呂律でそう言ってきたので、続きを待つ。顔は、恥ずかしかったのか、真っ赤だ。


「こほんっ、では改めて。私は普段、この部屋で待機しています。先程詳しくは言ってませんでしたが、私はクエストに着いて行く事ができます。まあ、ソロ限定と言われるクエストのみとなりますが」


「ソロ限定?まあどんなのかはなんとなくわかるけど、そんなのもあるのねー。ますます面白そうね」



 ソロ限定クエストは、チームを組んでする程ではない比較的簡単なクエスト、主に採集や調理、制作、配達などを対象としていると、ミリィちゃんは続ける。


「これで私についてと、VRフォンについての説明は粗方ですが終わりです。そして、次がかなり大事な説明となります」


「大事な……なんなのかしら?」


 一呼吸置き、ニヤリと笑うミリィちゃん。


「それは、スキル!スキルについての説明です!スキルは、私の存在意義(レゾンデートル)と言っても過言ではありません!」


「へ、へえ……」


 机をばんっと両手で叩き、ぐいっと私に顔を寄せて、少し荒い鼻呼吸をしているミリィちゃんに気圧される。


「スキルとは、小雪さんのプレイヤースキルにブーストをかける物で、そのスキルの取得については、私達サポートAIに一任されてますっ!」


「プレイヤースキルに……条件を満たしたら覚えるとかでは無いのね、スキルって」


 ふふんと鼻をならすミリィちゃん。


「そこが、このゲームの一番のミソです!せっかくのVRゲームですが、日常生活を送る上で持っているスキル、活用したいじゃないですか!普段営業を頑張っているサラリーマンさんや、会社を経営している社長さん、学生さんなら、部活や勉強の能力などなど、それらの能力をこのゲームで適切なスキルに変換し、初期スキルとしてプレイヤーさんにスキルを与えるのが私達、サポートAIです!」



 慎ましい胸をこれでもかというくらい張っているミリィちゃん。しかし、そこまで言ってから、少しだけさみしそうな表情を浮かべ私を見る。


「しかし……その、現実世界で、えと、……あまり結果を出せていない人。そういった人は、あまり加護がないかもしれません……ですが!」


 悲しそうな顔を、真剣な物へと変え、それから満面の笑顔になる。


「私達は、それらも含めてサポートします!」


「ゲームの世界だけではなく、現実世界でも結果的に成長させる。それが、それこそが、私達サポートAIです!」


 精神世界ともとれる、VRゲームの世界。そこで、本気で応援してくれる存在こそが、サポートAIということなのだろう。なる程、テレビで話題になるほどのゲームというのは、伊達では無いのね。改めてそう思った。


「ではでは、いきなりですが、小雪さんの過去の実績、それを小雪さんの脳内からスキャンさせていただきます。あ!勿論、個人情報は完全に保護されてますので、安心してください!運営でも、国で許可を得た人しか閲覧の権限がありませんので!」


 簡単に言えば、現行で犯罪を犯していた場合、この時点で発覚するということなのだろう。そう思うと凄まじい技術だ。国で許可を得た人というのは、恐らく警察などと深く繋がった人物なのだろうと私は察した。


 むむっと声をあげ、目をつむるミリィちゃん。それを目の前の紅茶入りのカップを啜りながら待っていると、五分程で完了しましたと口と目を開くと、笑顔で私を見る。


「小雪さんの過去の実績を赤裸々にしちゃいましたよー?」


「い、言い方なんとかならないかしら?」


 むふふー、と、イタズラな顔で私を見やる彼女は、意地悪を言うかのようにそう言ってきた。


「冗談ですよ、過去にも現在も犯罪歴無し、特に悪い事もしてませんクリーンな小雪さん」


 そう言って笑顔になる彼女。少し意地悪だなって思ったけど、よくよく考えれば、このスキャンで、あまりないかもしれないけど、主を失う事もあるのだろう。それに、軽犯罪、言うなれば信号無視やスピード違反など、そういったことを叱ったり嫌ごとを言ったりもしないといけないのだろう。


 それらを考えると、ミリィちゃんが心から喜んでいるかのようにも見えた。


「取得スキルですが、これまた面白い生活をされてきたんですねー、小雪さん。全て戦闘特化型でした。それも、並ではとれないようなものばかりです」


 厳選して、五つをスキルに変換したと彼女は続ける。


「スキルのネーミングは小雪さんが考えると質素な物になりそうなので、私がカッコ良くつけちゃいました!ではご覧ください!」


 机の上に紙を出して、それに何かの名前を書いていくミリィちゃんは、それを私に見せる。効果は書いてないけれども、ネーミングで大体わかる。それらのネーミングは、


「えーと……"斬鉄"と"抜刀瞬歩"、それに……"ホークアイ"、"偏差射撃"……そして」


「小雪さんの必殺技ですね、そのまんま取り入れさせて貰いました。でもこれ、剣道と関係ありますか?」


「抜刀術は剣道とは関係無いわね、抜刀は剣術、居合道よー」


 剣道で抜刀なんてしようとして手を竹刀に触れさせよう物なら、その時点で反則一回だ。


 AIといえど、全知では無いことに、少し安心のようなものを抱く。彼女らは、この世界(ゲーム)で生きているんだ。そう実感した。


「それでは、これで全ての説明を終わります。道具や武器はVRフォンで取り出し可能、交換可能、収納可能ですので、うまく使って下さい!」


「あら、そうなの。えっと……」


 VRフォンに手を触れると、映像が目の前に現れ、道具、武器、スキル、フレンド、サポート呼び出し、ログアウトとあるので、武器と書いてある文字に手を触れると、所持しているのだろう武器が目の前に浮かび上がった。


 刀を手に取り、それを腰に差そうと思ったけど、帯が無いので差しようが無い……と思っていたら、磁石についているかのように、歩きやすい位置で鞘が固定された。勿論、抜刀できるように動かす事もできた。



「まずはギルドカードを作りに行ってください。まあ、この後お孫さんと会うようなので、お孫さんを頼ったらなんとかなると思いますよ!」


「まぁ、そこまで見てたのね、ミリィちゃんのえっち」


 ミリィちゃんの頭をコツンと叩くと、痛く無いだろうけどその部分をさすりながら、ごめんなさーいと言うミリィちゃん。


「その扉を開け、一歩あるくとワープします。その先はギルド本部と繋がってますので、慌てないようにしてください。きっとすぐにお孫さんが現れますよ、恐らく!」


「居たらいいのだけれどねー、なんにも言わずに来ちゃってるし。まあ、居なかったら居なかったでなんとか頑張ってみるわ」


 待っていると言っていたとはいえ、なんにも言わずに来ていることに一抹の不安を抱きながら扉に手をかける。


「小雪さん!」


 そして、


「はぁい?」


「いってらっしゃい!」


「……行って来ます!」




 私の冒険が、始まった。









「あっ、最後のスキル、不知火(しらぬい)ってどういう原理でしているのか聞くの忘れてたなぁ……まぁ、いっか!」






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