さすらいは戦いのあとで
本格的に物語がスタート!遅すぎぃ!!
自分の部屋に戻ると、警官たちが車に戻ったのを確認し、新しく原稿に俺のヒーロー『コミックマン』を描き、懐にしまう。そしてひっそりとトイレの窓から外に出る。しばらく人通りの多い道を歩いていけば、ナノマシンの気配と言うべき物を感じて視界の端にこっちを睨んでくるあのサソリ野郎の変身前を捉えた。
目で場所を変えるよう告げ、そのままお互い距離を取りつつ人影のない寂れた神社に向かう。
「いい度胸だな。まさか、一度殺されなかったからって今度は倒せるとでも思っているのか?」
「倒すさ。ここでお前を倒さなきゃ、またどこかでお前は人を殺すんだろ?」
「ヒーロー気取りか?そういうの、今時流行らねえんだよ!」
「だろうな。ま、こういう時はこんな台詞言うのがヒーローだろ?漫画で書くときの参考になる」
そう。これはあくまで取材みたいなものだ。俺は今からヒーロー漫画を書く漫画家として、ヒーロー活動の体験をさせてもらう。こんなことが出来るのは俺だけってな。
「ほざくなよガキ!」
サソリ野郎が変身し、鋏と尻尾の針を構えてこっちに近づいてくる。
「ありがたく思えよ。ただの悪党から、俺の漫画の敵役にしてやる」
懐から一枚の原稿を取り出し目を通す。視界を通じて全身のナノマシンが漫画を認識、オーバーヒートを起こした指先が原稿を燃え上がらせる。燃え上がった炎は形を変え、漫画のヒーローの鎧になって俺の身体を包み込む。
「今から俺は、コミックマンだ。ヒーロー、やらせてもらうぜ!」
そう叫ぶと共に駆け出し、ジャンプの勢いを乗せた飛び蹴りを決める。いつもよりずっと高く、早く、強く放った飛び蹴りはサソリ野郎を背中の甲羅ごと吹き飛ばす。
「て、てめえ!!」
「効いちゃいないみたいだが、ちったあビビったかサソリ野郎。殴られる恐怖って奴を知りやがれ」
「ぶっ殺してやらぁ!!」
サソリ野郎の尻尾の毒液が飛び散り、俺はそれを避ける。既に半分崩れかかっていた石の狛犬が溶けた。
さっき戦った時も思ったが、やはりこいつも結構やばい能力を持ってる。だけど、博士は想像力を力に変えれるって言っていた。なら漫画家志望の俺が想像力でこんなサソリ野郎に負ける訳が無いんだ。
想像するんだ。俺がこいつに勝つ戦いを!
「おいおい罰当たりなことすんなよ。祟られたらどうすんだ?」
「そんなこと、オレが知るか!!」
再び尻尾から毒液を発射し、俺はボードブレードを盾にして防ぐ。やっぱりあの尻尾が邪魔だな。
ボードブレードの力で一気に上空まで飛び上がり、相手の視界が消える。そして着地と同時にサソリ野郎の腹に前蹴りを決める。吹き飛ばされたサソリ野郎はこの神社で一番でかい木の幹に叩きつけられる。
「やりやがったなぁ!!」
今度は鋏と尻尾の針で交互に斬りかかってくる。それをバックステップで回避し、最後に神社の賽銭箱を足場にして飛び上がり背後に回り込む。そして向こうが振り返るよりも前にボードブレードを取り出し尻尾を切り落とした。
「危ない物振り回してるんじゃねえよ!!」
再びボードブレードでサソリ野郎の背中を切り裂く。流石な硬さで微かな切り傷しか出来ないが、それでも向こうにとっては厳しいんだろう。危ない叫び声をあげながら振り返り、二つの鋏を振り回してきた。
片方はボードブレードで受け止めるが、もう片方が俺の首目掛けて迫ってくる。咄嗟にボードブレードを手放して距離を取ると、サソリ野郎はボードブレードを後ろに投げ捨てた。よく見ると少し離れたあたりでボードブレードは粒子になって消えて、俺の左腕のガントレットに再び戻ってきている。どうやらある程度離れたりしたら自動的に戻ってきてくれるらしい。これは設定してなかったな。
「殺してやるぅ!!俺は、俺は強いんだよぉ!!」
「だったら、俺はお前よりもっと強い!!」
突き出された鋏をターンで避け、その勢いのままにハイキックを叩き込む。顔面にモロに当たり、サソリ野郎は吹き飛んで空っぽの賽銭箱に硬い甲羅をぶつけた。
派手な音を立てて壊れた賽銭箱の残骸を踏みつけ立ち上がるサソリ野郎。だがかなり効いたらしく足元がふらついている。なら今のうちに武器は没収させていただきますかね。
再びボードブレードを射出し、サソリ野郎を突き飛ばす。そしてそのまま俺も飛びかかると、まずは右の鋏を掴んで聞きかじった柔道の要領で背負投げをする。地面に叩きつけられたサソリ野郎が呻く。その隙を逃さず、自由に飛びまわっていたボードブレードを操作して掴んだ右腕の鋏を付け根の当たりをひき逃げで切り落とさせた。
「うぎゃああああああ!!」
「危険物振り回してんじゃないよ!」
奪った鋏を投げ捨て、そのままボードブレードを手に持ち左の鋏を真正面からたたっ斬る。片方だけなら結構あっさりやれるもんだ。
「もうこれで武器は無いな!」
「畜生ぉぉぉぉぉ!!」
尻尾と両腕を失い、自暴自棄になったのかサソリ野郎は体一つでタックルしてきた。どうやらもう勝負は決まったも同然みたいだな。
タックルにカウンターパンチを決め、地面に転がるサソリ野郎を見据えて一歩左足を引く。そして深く腰を落とし、格段に強化された膝のバネを使い一気に飛びかかる。
「でぃやあああっ!!」
すれ違う一瞬のうちに渾身のパンチを叩き込む。全身全霊のスピードを込めた必殺技、エアリアルブラスター(仮)だ。
土くれを巻き上げながら地面に着地した後ろで爆発するサソリ野郎。お約束だが、なんでだろうな。
振り返ればそこには人間に戻ったあのサソリ野郎。見た感じ、やっぱりその辺のDQNを拾って来てエージェントとやらにしたんだろうか。まあ、もうあまり関係ないけどな。
本来なら首筋に手を当てて脈を取るんだろうけど、強化された俺の聴覚ならちょっと意識を集中させれば心音くらい離れていても聞こえる。これなら、命に別条はないだろう。それにナノマシンとやらの気配も感じない。もしかしたら、もうこいつは戦えないのかもしれない。
変身を解き、視界が元の高さと解析度を取り戻す。
「ふっ…さてと、どうするかな」
取り敢えず、ロープで縛ってメッセージカードでも添えてどこか目立つところに置いていくかな。
これが、俺が変身して蛇野郎を倒すようになったキッカケだった。
ちなみにこの翌日には、新聞に小さく博士が強盗に殺されたと書かれた記事が載っていた。第一発見者、つまり俺の証言ではまだ犯人らしき人物は今のところ特定されていない。まあそれほどセンセーショナルなニュースでも無いわけだ。天竜寺グループの一族ともなれば、余計な詮索されないようマスコミに圧力だってかけてるかもしれない。つまり、たかが一学生にマスコミも興味を示していないわけだ。
ちなみに、俺が倒したサソリ野郎は危険ドラッグ使用の容疑で逮捕されたらしい。まあ、『この男、危険薬物使用犯』とだけ書いたメッセージカードだったし、それ以外は悪目立ちするから書けなかったしなぁ。
取り敢えず、社会の現状の把握はこんなもので十分か。次は、昨日の戦いと今朝にかけての実験と調査による俺の体の現状だ。
まず、博士は想像力をエネルギーに変える研究をしていたが、実際のところはナノマシンなんてオーバーテクノロジーを完成させていたわけだ。その上、体を変化させるほどのナノマシンを、あんな豆電球一つ点けるか点けないかで揉めてた所から一ヶ月と経たずに完成させれるわけがない。
なら、やはり元々このナノマシンか、それに近い物は完成していたと考えるべきだ。博士も死ぬ間際に、これを平和利用する技術を完成させるまでは身を隠すしかなかったと言っていたのだし、多分このナノマシンを悪用しようとする連中の元から博士は技術を奪って逃げてきた。だけど見つかり、博士の研究は奪われてしまった。サソリ野郎の言動からして、ナノマシンそのものは博士も全て奪えなかったのだろうが、それでも博士のオリジナル技術は奴らにとっては失いたくなかったんだろう。
そして、博士は最後に俺にこのナノマシンを投与した。多分、最初は自分自身に投与する予定だったんだろうけど、俺が巻き込まれてしまったせいで博士は自分の命を諦めざるを得なかったんだろう。
ならこの命は、博士の最後の願いを叶える為に使わなければ。元の体に戻るのはその後でいい。そもそも今の段階では元の体も糞も無いのだし。
恐らく、連中はこれからも襲って来るだろう。サソリ野郎を助けに来たもう一人も居るし、ナノマシンのサンプルを奪ったと言うことは、今後は新型ナノマシンで生まれた怪人が量産される可能性もある。
まずは、敵の正体を探らなければならない。目星はついているっちゃあついているのだが、天竜寺グループがそこまでやるほどの組織なのかと言う疑問がある。
日本の企業が、あんなぶっそうな物を開発する時点で中々無理のある話だし、何よりなんの躊躇もなく実戦投入してくるやり方をするだろうか。やはり、海外の武器商人当たりが本丸なのではないだろうか。まあ、本当にそうならこっちから手を出せるわけがないのも事実だけども。
考えをまとめる意味も込めて漫画を書き続けていたが、気が付けば土曜日が終わる頃には殆ど上の空だったのにやらなきゃいけない部分は全部終わっていた。流石は俺。自分の漫画家としての本能の成せる技だな…。なんて冗談はさておき、燃えてしまった漫画の原稿の再現は完了した。変身する時、どうやら俺の書いた漫画のヒーローになる為には毎回一枚ずつヒーローが書かれた原稿を消費しなくてはいけないらしい。ってあれ?サソリ野郎は何もなしで変身してたよね?
考えても答えは出ない。まあ、気にしてもしょうがないか。多分、ヒーローだからだよ。
感想待ってます。