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COMIC-MAN  作者: ゴミナント
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完成!そして…

ここからが本当の地獄だ…

 放課後。生徒指導室でお茶を飲みつつ漫画を書くなか、暇になった誠が冷やかしに来ていた。

「まーたやっちまったな。しかもあんな大勢の前で…」

「反省してまーす」

「ネタが古いな。結構堪えてるのか?」

 長い付き合いとは言え、何年か前のスノーボーダーのネタを使ったからってそこまで心を読まれるもんなのか?でも確かに、やり過ぎたのも事実だしな。

「まあいいや。やっちまったことはしょうがない。中等部の頃だってそれなりにやってこれたんだし、取り敢えず今はこの漫画を完成させよう。せっかく新品の丸ペンまで買ってもらったんだ。やれるだけやるさ」

「いいねえ。新しい玩具買ってもらっちゃってまあ」

「そうさ。だから吹き出しの所の台詞頼むわ」

「だからってなんだ。繋がりが分かんねえよ」

 ぶつくさ言いながらも既に絵は完成したページを取り出し、下書きの文字に合わせてボールペンで台詞を書いていく誠。アシスタントのしては仕事量は少ないが、ロハでやってくれるなら上等だろう。俺もさっさとこのページを完成させなければ。

「それにしても、お前がヒーロー物書くなんて珍しいな」

「まあな。ちょっと本気で親父を超えてみたくなっちゃってさ」

「…そりゃ凄い。それに…」

 気になるところで言葉を止める誠。気になって手が止まっちゃうじゃないか。

「なんだよ。無理だってか?」

「いいや。それにしても調子が良さそうじゃないか。手が早いのは知ってたが、たった三日で原稿にペン入れまで進めるなんて最速じゃないか?」

「そうだな…もしかしたら、実は昔からこれを書こうと思ってたのかもな。すっげー自然に頭の中にアイデアが沸き上がってくるんだよ。ペンだって早いし、出来上がった絵も今までは段違いに生き生きしてるんだ」

 原稿用紙の中で、俺のヒーローがポーズを決めてヒーローに変身する。一ページ丸々使って気合を入れたその絵は、今までの自分の絵と比べて明らかにレベルが違った。

「今まで、意地張って中途半端な奴ばっか書いて来たよ。小難しい探偵ものやら、恋愛ものやら書いてきたけどさ、やっぱり俺にはヒーローものが合ってるよ」

「そーだな。まだ途中だけど、今までのよりずっと面白いぜ」

 この漫画に全てを込める。これでダメなら、俺は多分親父を超えることなんて出来ないんだろうな。

「さて、残り三十ページだ。今日中に後一ページはやるか」

 今日は水曜だから、このペースで行けば月末までには完成するだろう。なにか邪魔が入るかもしれないが、教師の妨害など知ったこっちゃない。俺は、俺の書きたい漫画を書くだけだ。

 そう決意し、俺は次の原稿を机に広げる。まだ新品の丸ペンは今日も絶好調だった。




 二週間後の金曜の放課後。結局あの食堂の事件からGWを目前にした今日まで何事もなく過ぎ、今日も元気に生徒指導室に篭って漫画を書き進めていく。今日はアシスタントに滝先生が来てくれたから、簡単な背景も手伝ってくれるから作業の進みも中々早い。おかげで最後のページにまでたどり着いていた。

「そう言えば、二週間前の食堂の件だが…」

「げっ…」

 そういやあれから何も言われてないな。まさか、ここで何かお達しがあるとは。

 まさか、今更になって教頭がお礼参りに来るとか無いよな?

「一応、お咎めなしだ。教頭先生にも非はあるしな」

「一応って何です?確かに言いすぎた気もしないでもないですけど」

 明らかに言い過ぎだったよな、あの時の俺。まあ頭に血が上ってた自覚はありますよ、ええ。

「まあむしろ教頭先生の方が処分されたよ。半年の減給だとさ。知らなかったとは言え、生徒の親を目の前で貶すのは問題行為だからな」

 そうか。ならいっそのことクビにして欲しかったが、まあそこまでは望むまいて。

「だが気をつけろよ?教頭先生はしつこいからな。多分、これから三年間色々と絡んでくるだろうな」

「切り札は、残しておいて正解だったみたいですね」

 スマホに録音された教頭による暴言の数々。最悪の場合、これを使って教頭を黙らせるしかないだろう。出来れば使いたくないが、まああのおっさんになら良心は傷まないな。

「あの人、漫画は下らないって言ってましたけど、やっぱり俺は漫画が好きですよ。文字だけや、絵だけじゃ伝わらないことってあると思うんです。けど、漫画なら…」

 最後のページのラスト。ヒーローはボロボロになってヒロインを守りぬくが、ヒロインがヒーローを探す間にヒーローは姿を消す。そして主人公の名前を呼ぶヒロインの姿で漫画は完結する。

「いいじゃないか。この漫画、面白いぜ。それ以外の褒め言葉はいらないだろ?」

「ありがとうございます!」

 アシスタントも勤めてくれた滝先生と握手し、俺は完成した漫画の原稿を一枚一枚眺めていく。どれもこれも、俺の魂が込められた一枚だ。

 これを誰に見せようか。このまま立花さんの所に持っていこうか。

 その時、脳裏に最近見慣れた博士の顔が思い浮かぶ。立花さんの前に見せる相手が居たようだ。

「もう下校時間だ。今日は帰れ」

「はい。また、来週」

「おう。また来週な」

 滝先生に促され、俺は原稿をカバンに入れ学校を出る。向かうのは自宅でもズバット編集部でもなく、博士の研究所だ。

 徒歩で二十分。途中のコンビニで小腹を満たす為の菓子パンを買い食いしつつ研究所に向かう。人通りの少ない都心から少し離れた地区だから、毎晩騒がしくしても怒られないと自慢していたっけ。

 やがて研究所の前までたどり着いたが、妙な胸騒ぎがする。見るからにいつもと研究所の様子が違う。なぜか扉が開け放たれているのに、中の様子が見えないほど暗いのだ。

 博士はやたらと防犯にこだわっていて、ここの住所も誰にも教えるなと何度も言われてきたほどだった。なのにあそこまで無防備に扉が開けっ放しになっているなんて。

「博士!どうかしましたかー!!」

 取り敢えずいつでも警察に連絡できるようスマホの用意だけはして研究所に入る。中は明らかに荒らされた跡があった。靴箱の引き出しまで全部開け放たれているのは尋常じゃない。

「博士!?」

「ダメだ!!来ては…いけない!!」

「うおっ!?」

 博士の声が聞こえた、と思った瞬間、目の前に何かが現れた。そして次の瞬間には視界が横向きになっていた。

 倒れてる、と分かった時には既に生暖かい液体が俺の腹部から漏れ出していた。

「和也君…!!」

 痛いとか感じないけど、視界が歪んでいる。だけど、俺の腹を突き刺したでっかいサソリの尻尾がハッキリと見える。こんなサソリが居たのか?

「貴様…!和也君にまで手をかけるとは…!」

「今更死体が一つ増えたところでどうということはない!後始末とはそういうものだ!!」

「誰だ、お前…」

 どんどん力が抜けていく中で、俺は確かにサソリを見た。いや、正確にはサソリではない。まるで身体をサソリと半分こしたかのような男が、赤黒い俺の血で染まった尻尾を振るっている。

「死にゆく小僧に冥土のみやげも無いだろう。このまま研究所ごと焼き払って終わりだ」

 ふははは、と高笑いを上げて部屋を出て行くサソリ野郎。追いかけるか逃げるかしようとしたが、身体は言うことを効かない。

 カバンの中にある俺の漫画を思う。畜生。俺がこのヒーローだったら立ち上がれるのに。

 有り得ないことだと分かっている。だけど、こんな非現実に巻き込まれたんだから、それくらいのボーナスがあってもいいじゃないか。俺はまだ、俺の書いた漫画を一人の読者にも読ませちゃいないんだ。

「和也君…」

「博士…!?」

 博士の声が聞こえる。ぼうっとする頭をなんとか持ち上げて声のしたほうを振り向こうとするが、それより先に何かが俺の首筋に刺さった感触があった。正直腹の痛みがハッキリしてきて、今更首に何か刺さったとしても本当に刺されたかどうかも良く分からないし、そもそも痛みが麻痺し始めてる気がする。

「すまない…だが、生き残るのなら私より君だ。過酷なことを強いているのはわかっているのだが…」

「何を、言ってるんです?」

 次第に意識がハッキリしてくる。いや、それどころか痛みがどんどん引いていくし、腹から溢れ出てる血が止まり始めている!?

「博士!?」

 気が付けば立ち上がれるほどにまで回復している。だけどその代わり、目の前でさっきの俺以上に傷ついた博士の姿があった。

「なんだよこれ…!!どうなってるんだよ!?」

 貫かれたはずの腹の傷はもう塞がり、体中から力さえ湧いて出てくる。なのに目の前で博士はどんどん衰弱していく。こんなのっておかしいだろ…!?

「私が、開発していたナノマシンだ…君にも見せた、想像力をエネルギーに変える機能の発展型、想像力を糧に肉体を強化し、変化させる」

「そんなもの、なんで…!!」

「天竜寺グループは、この技術を海外の軍需産業に売り渡そうとしていた…私は、それを阻止し平和的に使う技術を完成させるために日本に逃げてきたが…」

 咳き込む博士の口元から血が溢れ出る。こんな馬鹿げたことなんかないだろ。俺はただ、博士に俺の書いた漫画を読んでもらいに来ただけなんだぞ!?

「博士、この薬、残りはどこにあるんです!?」

「ふふふ…これが最後のナノマシンさ…」

「そんな…!!じゃあ、俺の為なんかに死ぬつもりなんですか!?」

 こんなこと、あってたまるものかよ。それに、そもそも俺が今日ここに来なければ博士は自力でなんとか出来たってことじゃないか。

「元々私の体力じゃ戦えまいて…」

 どんどん力尽きていく博士を前に、俺は必死に傷口に綺麗そうな布を押し付けて血を止めようとするが、博士は乾いた笑い声を上げて俺の手を取る。

「最後の頼みだ…娘を、守ってくれ。あの子は私とアカリの…」

「博士!?」

「最後の…宝…」

 その言葉を最後に、博士は動かなくなった。

 どうして、こんなことになってしまったんだ。こんな、こんなことになるなんて誰が想像できるって言うんだ。確かに俺は、漫画のためには実際に体験出来ることはなんだってやるつもりだった。だけど、こんな風に人が死ぬ所なんてもう二度と見たくなかったのに。

 知らず知らずのうちに涙が溢れる。母さんに、親父に、博士。なんでみんな、俺の目の前で死んで行くんだよ。

 気が付けば、周囲に火の手が回りだした。さっきの怪人が火を放ったのだろうか。

「…せめて、遺体だけでも守らねーと…」

 こんな形で会いたくはないだろうけど、せめて死に顔だけでも天竜寺さんに見せてあげたい。だけど大人一人を担いで燃えてる研究所から脱出して、その上であのサソリ野郎を追っ払うか巻くかしないと。

「くっそ…せめて俺が、こいつだったら…」

 カバンの中から漫画の原稿を取り出す。表紙の一枚に描かれたヒーローの姿。俺がこんなふうにヒーローになれさえすれば―――。

 その時、原稿用紙を掴む俺の手が輝きだした。

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