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COMIC-MAN  作者: ゴミナント
54/75

中等部のマドンナ

二部作じゃなくなっちゃった。三部作になっちゃった。まあでも、いいですよね?

「ふえーい!ちょっと休憩ーっ!!」

 ルリの号令で一斉に手を止める女子バドミントン部員たち。施設改修が始まっている天川学園だが、優先されるのは高等部で、中等部はまだしばらく待たないといけない。お蔭で体育館は女子中学生で満たされているとは思えないほどの汗臭さだった。

「あっつー…!!」

 水筒に入ったスポーツドリンクを呑みつつ、体操着の胸元を引っ張って風を入れるルリ。しかし、同じことをしている後輩たちの胸元がチラリと見えてしまう。

(ま、また…!?)

「あれ?どうかしたんですか?」

「い、いやー別に…チッ!」

 一学年下はおろか、新しく入って来た新入りの胸の膨らみも大きくなっていく。中一の時から成長が止まってしまったルリにしてみれば面白くないことこの上ない。

(なんで!?私だって、毎日頑張ってるのに…!!)

 皆に気づかれないようにコッソリと自分の薄い胸を見てため息をつくルリ。ネットや雑誌で調べた様々な方法を試して早一年。その間、同学年はおろか下級生にも負け始めているこの現実は如何ともしがたい。

 そんなこんなでがっくりと項垂れていると、隣に同じクラスの部員が座って来た。城咲アヤ、中等部から入って来た第一次転入組で、クラスになじめなくて困っていた彼女を助けてからの付き合いだった。

「お疲れさま、ルリ」

「アヤぁ…」

 思わずうるうるとした目で見つめるも、すぐ顔の下に目を向ければ中学生とは思えないほどに発達した胸が見える。思わず全身をわなわな震わせるルリだったが、当の本人は首を傾げるばかり。

「どうかのしたの?さっきから元気ないけど…」

「お主がそれを言うかぁ!!このデカメロン!!」

「きゃっ!?」

 頭に血がのばったルリが思わず掴み掛る。そして改めて触ってみて忌々しいサイズ差を実感し、更に涙目になるルリ。

「何よ何よ!!そんなデカくたっていいことなんか何もないじゃん!!むしろ邪魔じゃん!?ミントンのラケット振るとき明らかに邪魔じゃん!?その分体重だって増えるじゃん!?なのに自慢してるの!?してるんでしょ!?してるって言ってぇ!?」

「あっ…は、激しいよ、ルリ…」

「喘ぐなぁ!!こっちは真剣なんだよぉ!!アヤと言いヒカリさんと言い、一体何食ってそんなに…!!」

 血涙を流さんばかりに激高してアヤを押し倒すルリ。しかしアヤは頬を染めるばかりで抵抗せず、下級生たちはその様子に、自分も巻き込まれまいと休憩を切り上げそそくさと練習に戻り始める。

「何でよぉ!!何だって私だけ止まるのよーっ!!」

「べ、別にいいじゃない。ね?下着のサイズだって毎月変わるとお金かかっちゃうし…」

「毎月ぃ!?今毎月っつった!?この貧乳を嘲笑ったかぁ!!」

「そんな訳じゃ…ひゃあんっ!?」

 男勝りなルリの悲痛な叫び声と、バドミントン部全員が受けるべき因果を一身に引き受けるアヤ。その二人のエロい声に練習中の部員たちがムズムズしてくる中、とうとう我慢の限界に達したルリが頭を抱えて叫ぶ。

「こうなったら、今日こそアンタの身体の全てを調べ上げてやるっ!!それで、それでぇーっ!?」

 そこに来て、ようやく体育館の入り口でどうすればいいのか分からず立ち尽くしている誠に気づいた。

「あ、どうも…」

「あああああああああああっ!?」

 よりによって彼氏に、寄りにもよって一番見られたくない光景を見られたショックで悲鳴を上げたルリは飛び上がり、そして逃亡した。

「あ、おーい…ルリちゃーん?」

「誠先輩、ごめんなさい。ルリを呼んでくれって頼まれてたのに…その、予想以上にルリがハッスルしちゃって」

「い、いやぁ…むしろ、俺の彼女があんな暴走してたとは…なんか、すいませんね」

「謝られること、ないですよ。だって、ルリは私の大事な友達ですから」

 頭をかく誠に、アヤは満面の笑顔でそう返す。そんなことをされては何も言えない誠に、アヤは可愛らしく小首をかしげて尋ねる。

「それで…一体、ご用件は?」

「あ、ああ。実はな、高等部で部活中の女子を狙った事件が起きてな。それで、こっちにも被害が出てるんじゃねーかって来てみたんだが…」

「事件?もしかして、盗撮ですか?」

「おお。それだ。もしかして、ここにもか?」

「いえ。私は知りませんけども…」

「え?盗撮って、ほんと…?」

 誠の言葉に釣られ、女子バドミントン部の部員たちが続々と集まって来る。

「誠先輩!私、実は更衣室で視線を感じて…!!」

「お、まじか!場所は!?」

「こっちです…!!」

 二年生の女子に誘われ、誠は初めて体育館の女子更衣室の中に入る。

「やっべ。役得だぜ…!!」

「え?何か言いました?」

「い、いや?それよりも、視線を感じたってのは、もしかして…」

 思わずニンマリしてしまうのをこらえつつ、誠は奥の窓に填められた曇りガラスに近づく。やはり、ここにもこちら側からでも見えるくらいのサイズの虫が…。

「って、なんじゃこりゃ!?」

 しかし、窓を開けてみると誠は予想外の光景に腰を抜かす。なんとそこには、あのカメラが付いた虫型ドローンが大量に止まっていたのだ。擬態用にポスターを全部で背負い、まるで黒のテープで止めたかのように見せかけていたのだ。

「キモッ…!!こんなの、まともな神経してねえぜ」

 女子たちも気味悪がって入り口まで逃げ出す中、嫌々ながらもその虫の群れを引っ掴む誠。どうやらもう動かないらしく、ポスターをはがしただけでボロボロと落ちていった。

「うへえ…ルリ、虫得意だけど、流石にコレはなぁ…」

 ゴキブリすらも素手で掴むルリにすら見せるのをためらう虫天国に顔をしかめる誠。その時、誠のスマホに着信が入った。

『誠か?』

「か、和也!お前!俺が今どんな思いしてるか分かってんのか!?」

『知らん。それよりも、成果はあったか?』

「あったよ!見えねえだろうけども、今俺の目の前にウジャウジャ居るんだよ!例の虫が!!」

『目の前に?今どこだ?中等部の校舎か?』

「ルリの居るミントン部の更衣室だよ!なんだってここだけこんなにも…!!」

 地面に落下した虫たちを見下ろしつつ、誠は今からもう食欲が失せていくのを感じながら吐き捨てる。しかし、肝心の和也は一切そんなことなど気にせず続けて来た。

『誠、ルリは居るか?』

「あ?ま、まあ色々とあって今は居ねーよ。それがどうかしたか?」

『実は、ヒカリの爺さんに頼んでドローンから出てる電波の行き先と届けられたデータを調べて貰ったんだが…どうやらデータは10分前までは今お前が居る場所に送られていたらしいんだ。だからその更衣室を現在進行形で使かってる奴で、今はどっかに移動してる奴が犯人の可能性がある。心当たりをルリに聞きたかったんだが…』

「え…?」

 まさか、ここに犯人が?

「ありえねーだろ。ここ、俺が言うのも変な話だが、女子更衣室だぜ?」

『同性の盗撮画像に興奮する特殊性癖を持った奴が居るんだろ。取りあえず、データ受信先を追いかけたいから、お前はそっちで…』

「きゃああああああ!?」

「ルリ!?」

 その時、ルリの悲鳴が聞こえて来て誠は思わず走り出した。スマホの向こうで和也が何か言っているらしいが、そんなことなど気にしていられない。悲鳴の聞こえた方向からして、多分場所はルリが落ち込むとよく行く体育館の壇上脇の控室だ。

「ルリ!!」

 控室に駆け込む誠。そして、そこで誠は気を失ったルリと、ルリを抱きかかえるアヤの姿を見た。

「お、お前!?」

 ルリの親友で、言いたくはないけどルリよりもずっとスタイルも顔もイケてる中等部のマドンナ。城咲アヤが、ルリを抱きかかえたまま何の感情も見せない顔でこちらを睨んでくる。その状態に一瞬凍り付く誠だったが、すぐにアヤは憤怒の表情で誠を睨むと、大量の虫が誠に襲い掛かって来た。

「な、なんだこりゃ!?お前、こんなことしてルリをどうするんだ!?」

 虫の攻撃に顔を覆いつつ、必死に叫ぶ誠を無視して姿を消すアヤ。残された誠は、全身を鋭い爪や翼で斬りつけられていった。

「うぐぅ…!?る、ルリぃ…!!」

 必死に手を伸ばす誠。しかし虫はそんな誠の腕すらも食いちぎろうと歯を立てた。

「うわあああああああ!!」

 腕が嚙み千切られると言う痛みに絶叫する誠。しかし、それでも手をひっこめることなく先に進もうとする。全てはルリを救いたいと言う一心で。

 そして、その心が通じたのか誠の手を誰かが掴み、虫たちの囲いの中から引きずり出した。

「おわあっ!?」

 少々乱暴に引っ張られて床に倒れ込む誠。しかし、それでも助けられたと感じて礼を言おうと顔を上げ、そして助けてくれた相手に気づいて息を呑んだ。

「うえっ!?な、なんじゃあ!?」

「なんじゃってなんじゃ。助けに来たヒーローだよ」

 そこに居たのは、コミックマンに変身した和也だった。しかし、見た目は完全にヒーローだからか誠は正体に気づかず、おびえたように後ずさる。その様子に肩を竦めつつ、和也はあくまでコミックマンとしてボードブレードを引き抜く。

「確か、こうやってたっけな」

 前に見た特撮ヒーローの戦闘シーンを脳内に思い浮かべ、ボードブレードが炎に包まれる光景を想像する。イマジネーターは想像力を具現化する存在なら出来るはずだ。

 そして、俺の予想通りボードブレードが炎に包まれる。

「はあっ!!」

 炎に包まれたボードブレードを振りぬき、タイプ相性で不利な虫たちは一瞬で燃え尽きていく。俺はその光景を見届けた後、ボードブレードごと炎を消して入って来た窓に向けてジャンプする。これ以上、ここに残る必要は無さそうだ。

「ま、待て!待ってくれよ!!」

 しかし、暫く呆然としていた誠が声をかけて来た。俺としてはこのまま立ち去った方が余程いいんだろうけども、友人を騙していると言う後ろめたさのせいか足が止まった。

「なんだ?礼なら求めてないぞ」

「ち、ちげーよ!お前、アイツを追うんだろ!?」

「まあ、あの変態から助けを求めてる奴が居るからな」

「だったら、俺も連れて行ってくれよ!!助けを求めてんのは、俺の彼女なんだよ!!」

「…そうか。まあだからと言って連れてはいけねーよ。必ず助けるから、信じて待ってろ」

 これ以上は巻き込めない。これは俺達の問題に、こいつらが巻き込まれただけだ。ルリは絶対に助けるし、これ以上苦しませて堪るか。

「じゃあな。気持ちだけは伝えとくよ」

 俺はそれだけ言い残し、ボードブレードに乗って空へと飛び去って行くのだった。

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