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COMIC-MAN  作者: ゴミナント
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見知らぬ街の歴史

この物語はフィクションです。そして、多分そろそろストックが切れます。ですので、これからは毎日では無く二日に一話くらいのペースを目指していきたいと思っています。それでも宜しければ、今後もお付き合いいただけますよう。

 警察署署長室。三条警部補は気を付けの姿勢のまま署長と副署長と向かい合っていた。

「すると…なんです。この街に、国際テログループの幹部が潜伏している可能性があると?」

「可能性ではありません。潜伏していることは既に確認済みです」

「そんな…」

 署長と副署長はそろって弱り果てた顔をして顔を見合わせていた。こんな平和な田舎町で、そんな面倒な事態が起こるなんて想像すらしていなかったのだろう。

「それは事実なのですか?何かの間違いとか…」

「そうです。聞いたこともありませんよ。『JACK』なんてテログループ」

「本来であれば国家機密ですからね。一般市民には知られてはいけない危険なグループです。そして、この男がこの街に潜伏中の幹部です。コードネームは『キャプテンZ』」

 渡された書類の中に挟まれている写真に写るのは、駅で和也を助けた謎の外国人だった。

「では、確保するのを手伝えと?」

「いえ。その必要はありません。この男はあまり派手な行動はしない…ですが、恐らく何かしらのテロ行為の指示を受けている可能性が高いです」

「テロ?テロですと?日本の、それもこんな田舎町に…」

 三条警部補の言葉を聞いた署長が乾いた笑い声を上げる。

「最早テロは、日本においても対岸の火事ではありません。二か月前、この男が訪れたヨーロッパのとある田舎町は、生物兵器によるテロで姿を消しました。同じことをここでも目論んでいないと言い切れますか」

「そ、そんな…」

「で、では直ちに緊急配備を?」

「その必要はありません。間もなく到着する我々公安課が用意した特殊チームが対処します。貴方方にはその間のバックアップと、市民の安全確保を頼みたい」

「は、はあ…そう言うことであれば…」

 田舎警察の二人組は自信の無さそうな顔で頷く。三条警部補はそんな様子でよくもまあ警察官を続けてこれたな、と言う想いで微かにため息を付いた。

「で、ですが大丈夫なのですかな?もしも万が一、その特殊チームがテロリストを取り押さえられなかった場合は…」

 この街がどうなるのかどうか不安、と言うより、これ以上最悪の状況になってほしくないと言う想いがありありと見て取れる署長の言葉に苦笑いを浮かべつつ、三条警部補は頷いた。

「ご心配なく。助っ人も居ますのでね」



「昨年卒業した水城さんの取材ですか…?もしかして、天川学園の新聞部?」

「ああいえ、まあ…それっぽい物ではありますね。それで、取材はしても?」

「ええもちろん。何せ自慢の卒業生ですからね」

 そう言う女性の教頭先生の言う通り、職員室の一角には堂々と水城さんの写真とトロフィーが飾られていた。地方大会から全国大会まで、ありとあらゆる大会の優勝トロフィーをコンプリートしてみせている辺りからして彼女のスペシャルっぷりが見て取れる。今まで碌な実績の無かった田舎中学にしてみれば正に自慢の卒業生なんだろう。

「それで、何をお聞きになりたいんですか?」

「ええっとですね…まあ、その、言いにくいかもしれませんが、彼女の家族について」

「えっ…?」

 その言葉を聞いて顔が真っ青になる教頭。本人も言ってた通り別に秘密にしていた訳じゃないけれど、それでもやっぱり周囲にしてみれば触れられたくない部分ではあるんだろうな。

「実を言うと、彼女から既にある程度の事情を聞いてはいるんですけど…でもやっぱり、本人の視線だけだと偏りもありますし…」

「そうですか…なら、あの子の実家がどう言う所かもご存じで?」

「ええ。元々この辺の地主だったってことと、まあ…良い噂が聞こえないってことくらいは」

 ここに来る途中で郷土博物館に行って確認したところ、水城家はどうやら江戸時代以前からこの辺りの土地を管理してきた名家だったらしい。博物館ではその程度の情報しかなかったが、暇してる掃除のおばちゃんからここ最近の情報をレクチャーしてきた。

 おばちゃん曰く、太平洋戦争以前、当時の家長が日露戦争から戻ってきたあたりからおかしくなったらしい。当主が戦争で気が触れた、との噂が小さい村の中で流れたことで立場を失った水城家は、当時の村人たちへの当てつけか、過剰な程に権限を求めだすようになったらしい。

 男子が生まれれば様々な武術を叩き込んで警官や軍に送り、女子が生まれれば都市から強い男子を婿に取らせると言うことを繰り返していく内に、いつしかこの辺りの治安は水城家の人間が牛耳るようになっていった。

 しかし、戦後の都市開発でここが街になり、外からの人間が増えたことでその時代も終わり、またここ何世代かは女子しか生まれなかったこともあって現在の水城家の暴走は街中で噂になっているとのことだった。

「田舎独特の嫌な歴史ですよ。この村だって一歩間違えたら大参事になっていたかもしれません」

「…その歴史が今もこの街に根を張っている、と?」

「ええ。ですけども、その歴史と水城家があるからこうして彼女が実績を残してくれもしたのですから。何とも言えませんよ」

 複雑そうな顔でトロフィーと表彰状を見つめる教頭先生。そう言えば、その問題の家に今頃滝先生は一人で行っているはずだが、まあいいか。それにこの街の事情はこれで大体理解できたわけだが、本題はこれからだ。

 なぜ、水城さんはスランプに陥ったのか。そのヒントは間違いなくこの街にあるはずだ。

「彼女、剣道をどう思っていたんでしょうかね?本人にも良く分からなかったって答えられちゃって」

「さあ…言ってはいけないかもしれませんが、あの家族ですからね。本当は剣道なんか見たくも無かったのかもしれません。なまじ才能があったから…」

「でも、彼女はこの中学で剣道をやれたことが嬉しかったって言ってましたよ。ここで剣道をやる意味が持てた、と」

「それは…?」

 きょとんとしている教頭先生に、俺が水城さんから聞いた話を聞かせる。最初はびっくりした顔をしていた教頭先生だったが、すぐに哀しそうに目を伏せた。

「…なんとまあ。そんな理由、悲しすぎるじゃないですか」

「それはそうなんですけどもね…でも、彼女の剣道に対する思いは俺たちが思ってるよりもずっと複雑みたいで。その辺りを調べていきたいんですけども…」

「そう言うことなら、私よりも剣道部の顧問だった先生に聞いてください。それと…彼女の居た道場の師範にも。あそこの師範は気難しい人ですけど、水城さんの家族たちよりは話の通じる人ですから」

「分かりました。そう言うことなら…」

 そう言って礼を言い、明日の午前中にまた剣道部の顧問の先生に話を聞きたいことだけお願いして中学を後にする。

「収穫は…あんまりないな。ま、ここの歴史は漫画に活用出来るかもしれないし…」

 スケッチブックとスマホの録音画面を交互に見つつ呟く。チラリと腕時計を見ると、まだ滝先生との待ち合わせの時間には早かった。まあそう言うことなら取材を続けよう。今日と明日の午前中しか時間は無いのだから、例の道場の師範の話を聞きに行くか。

 次の方針を立てて歩き出す。するとその時、ふと嫌な気配を感じてしまった。

「まさか…」

 内ポケットに隠しておいた原稿用紙を取り出し、気配のする方向に走る。案外近く感じるが、果たしてどこか。

 周囲を見渡しながら走っていると、ふと大き目の日本屋敷が目に付いた。気配はここにある。

「ここか?っと、偶然だな…」

 看板を見てみれば、目的地として選んでいた水城さんの昔の道場だ。気配は道場の中で、耳をすませば悲鳴のような声も聞こえてくる。

「探ってる余裕はないか…さてと」

 原稿用紙に目を通し、視界を通じて反応したナノマシンが発する熱で全身を炎が覆う。そして炎を振り払うと、俺の姿はコミックマンへと変貌していた。

 そのまま道場に駆け込むと、そこには道着を着た老人がカミキリムシのようなイマジネーターと、その周囲を囲む覆面を被った男たちに囲まれていた。

「神野龍一郎!!我々と共に来てもらおうか!!」

「ば、化け物め!!貴様らに従うくらいならば、死んだ方がマシだ!!」

「死なれては困るのだ!どれ、気絶してもらうぞ!!」

「待て!!」

 俺はボードブレードを右腕から取り出し、全員に聞こえるように大声で叫ぶ。

「なにぃ!?貴様は、バットを倒したイマジネーターだな!!一体何のつもりだ!!」

「決まってるだろ!お前らが襲ってるその人たちの味方をするんだよ!!」

「ええい、正義の味方気取りめ!思い知らせてやるぞ!!」

 カミキリ野郎の号令で、覆面を被った男たちが一斉に襲い掛かって来る。それぞれ武器を構えているが、剣やナイフやサイレンサー付きの拳銃ばかりだ。どうやら街中なのでそれ程派手な武器は持ってこれなかったらしい。

「キシャアアアア!!」

 全身を覆う頑丈な鎧が銃弾を弾き、直接襲って来た戦闘員のナイフや剣をボードブレードではじき返していく。そして返す刃で戦闘員の背中や胸の辺りをぶった切り、倒れた戦闘員が黒い泡状の液体に変わって蒸発していく姿を見た。

「一体この戦闘員は何だ!?人間ベースじゃないのか!?」

「そんなこと、俺が知るか!!」

「だよなっ!!」

 カミキリ野郎の一撃を躱し、ヤクザキックで蹴り飛ばす。そして道が開かれたのを確認し、傷ついた師範らしきお爺さんの元に走る。

「大丈夫ですか?」

「お、お前は…一体…?」

「そう言うのは後!とりあえず、今は貴方の味方だと覚えてくれ!!」

 師範さんを背に、今度は右腕をカミキリムシの顎っぽい電動丸鋸に変えたカミキリ野郎を迎え撃つ。

「このカミキリカッターの威力を見ろ!!」

「見たくないっ!!」

 殺意の籠った右ストレートを前に、俺は水城さんから教わった剣術を見よう見まねで実践してみる。両腕でしっかりと剣の柄を握り、腕では無く肩と手頸で剣を振りぬく。

「その構え…!!」

 後ろで師範さんが何やら言っていたが、そんなことは一切気にせずボードブレードを振りぬいた。

「ガアアアアアッ!!」

 無心で振りぬいたボードブレードは、カミキリ野郎の電動丸鋸をバッサリと斬り落とし、さらに右肩の辺りに食い込んでいた。しかし、そのまま真っ二つに、と言う訳にも行かなかった。

「ええい!!」

 カミキリ野郎は痛みに耐えるような仕草をしつつ、背中に昆虫の羽根を出現させる。

「あ、逃げる気だな!?」

「違う、勝負は預けた!!」

「同じだろ、テメエ!!」

 カミキリ野郎が羽ばたき、その風圧で俺たちは身動きが取れなくなる。特に俺がどけば、後ろの怪我した師範さんが危ない。

 そうこうしている間に、カミキリ野郎は姿を消していたのだった。

「逃げ足の速い奴だぜ。全く…」

「お前は…一体?」

「ああ、まあ、忘れてくれ。夢か幻の類だよ。俺は。じゃあ!!」

 そう言い残して、俺もボードブレードに乗って飛び去る。これ以上、あそこに留まる理由もないしな。

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