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COMIC-MAN  作者: ゴミナント
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不穏な影

 誠がいそいそと恋人のルリを迎えに行く姿を見送りつつ、俺は改めて新作のアイデアをまとめていく。

 やはり次はもう少し主人公たちの年齢設定を低くした方がいいかもしれない。前作は大学生と言う設定だったから、超科学に触れる展開を自然に出来た。だが、少年誌で主人公を大学生にするのはちょっとピントがずれていたかもしれない。精々高校生か、いっその事おっさんくらいに大人にした方が自然だろう。

 ただ、その二択になるとやはり高校生の方が書きやすいな。使い古された設定ではあっても、気軽にイベントや出会いの展開を作れる学校設定は便利だ。

「おーし。じゃあまずは主人公から描いてみるか。まずは…」

 原稿用紙にペンを入れようとしたその時、相談室のドアがノックされた。なんだ、タイミングの悪い。

「あ、どうぞ。開いてますよ」

 漫画から目を上げたヒカリが応えると、ドアが開いて上級生の女子が遠慮がちに入って来た。確か、初等部時代から天川学園に居る女子剣道部の二年生だったかな。以前剣道部の取材で会ったことがある。

「え、えーと?ここ、相談室だよね?漫研じゃなくって…」

「相談室ですよ?暇な時は漫研ですけど」

「あ、そう言うこと…」

 先輩はちょっと遠慮がちにソファに座る。こうなってしまうと漫画の続きはまた後になってしまうが、これも滝先生との約束だから仕方ない。

 ヒカリと並んで座り、先輩が少し迷った顔で口を開いた。

「実は、ウチの剣道部に腕の立つ新人が今年入ったのよ。貴方たちと同じ一年生なんだけど、知らない?」

「一年生…転入組ってことですか?」

「ええ。C組の水城さくらって子なんだけど、何だか最近様子がおかしくって」

 先輩に言われ、ヒカリが何やらタブレットを操作しだす。そして名前を検索すると、なんと学校で補完されている彼女のデータが表示された。

「これ、どこで手に入れたんだ?」

「おじいちゃんから。学内で怪しい奴が居たらこれで調べろって」

「個人情報保護法はどうしたんだよ。ったく」

 ぶつくさ言いながらもタブレットの情報を確認する。

「水城さくら、一年C組所属。中学は長野の公立で、中学剣道で優勝の実績から天川学園にスカウト。現在は女子剣道部に所属、か。これ以上は知らなくていい情報だな」

 実家と現住所に携帯の電話番号やメールアドレス、更には詳しい身体データまで書かれていた。これ以上読むのはマナー違反だろう。

「それで、様子がおかしいって言うのは…?」

「最近練習に身が入っていないのよ。練習中にボーっとしたり、ひどいときには道着を忘れたりしちゃって。お蔭で毎日顧問の先生が怒鳴りっぱなしなの。これじゃあ練習にならないし、何より本人があれじゃあ剣道部としても面倒なことになるの。何とかしたいけど、先生には頼れないしで…」

「ここに来た、と。念のために聞きたいですけど、虐めやら僻みで足を引っ張てる奴が居るとかじゃあないんですか?」

 先輩は意外そうな顔をして首を横に振った。こういう時のセオリーとして、この人が知らないだけと言う場合もあるから信用はしきれないな。

「分かりました。じゃあ本人に会えますか?それと、部活にもちょっと顔を出したいんですが」

「さくらちゃんは今日休んでいるみたいですし、部活の皆の了承も欲しいんで、明日位にまた来るわ」

 そう言って先輩は相談室を出ていった。その後ろ姿を見送って、俺たちは二人体制での初めての依頼に少し緊張していたことに気づいて全身の力を抜いた。

「女子剣道部かぁ。私、剣道って見たことないんだよね。向こうじゃ日本人ってだけでやってるみたいな誤解を受けたことあるけど」

 ヒカリがしみじみとタブレットの情報を見直しながら呟く。相変わらず気楽だな。

「それにしても、剣道部期待のエースの不調の謎か。まあ荒っぽいことにはならないだろ」



 翌日、先輩から呼び出しを受けて俺たちは女子剣道部の見学に行くことになった。一応、虐めやらが裏にあるかないか分からない為、名目上では俺が次の漫画の題材を探しに取材に来たと言うことにした。

「よくそんな言い訳が通ったね。女子の部活に男子が取材なんて」

「昔から何回かやってるからな。この学校の部活の殆どとは顔見知りばっかりだ」

「私も二回くらい君の取材を受けたからね。初等部から居る面子は、いつ君がさくらちゃんの取材に来るかって思ってたけど…」

 既に道着に着替えた先輩が苦笑いしながら答える。この人、腕はそれほどでもないけど、面倒見がいいからって中等部時代は主将やってたっけ。

 まあそれはともかく、一部の見知らぬ顔から怪訝そうな顔をされつつ顧問に挨拶。事前に先輩から本当の話を聞いていたらしい。胡散臭そうな顔で邪魔だけはしないように、とだけ言ってすぐに指導に戻っていった。

「さてと。まずは情報収集だな」

 本当なら取材のポーズの為にも、部活動をしている所をスケッチしているべきなんだが、口下手なヒカリにそれを任せたら面倒なことになりかねない。

 出来る限りヒカリが変なことを言わないよう細心の注意を払いつつ、出来る限り多くの部員に話を聞いていく。最近の調子、新しく身に着けた技術、対戦校の戦力分析。そして本題の期待のエースについて。

 しかし得られた結果は散々だった。

「成果ないな…」

「みんな、最近様子がおかしいしか答えないしね…」

「おまけに、一応彼女のロッカーとか調べたが、こっちも成果なし。何かしらの嫌がらせや妨害を受けていた形跡が一切ないと…こー言うときのセオリーはこれだろ、全く」

 お約束を破られ意味も無く苛立ちを感じつつ、俺はアイデアノートにまとめた部員たちの証言をもう一度読み返してみる。どれもこれも没個性的で、具体性も無い。ナノマシンで強化された聴覚で心音を確かめたが、彼女の名前を出された時点で変化があった部員も居ない。これは虐めの線は無いと言うことでいいだろう。

 だが、そうなると原因は一体なんだ。ただのスランプなら、俺たちの手が出せる話じゃないぞ。

「こうなると、本人を確認するしかないね。今日も休みなのかな…?」

 ヒカリの言う通り、今日の女子剣道部に期待のエースは不在だった。これで二日連続でサボり。スランプに陥ったスポーツマン(?)が練習をいきなりサボるのは定番だが、こうなると色々と面倒だ。いきなり顔も知られてない俺たちが会いに行くわけにもいかないし。

「こうなったら、放課後に先輩と一緒に会いに行くか。それで本人のスランプ確定なら、悪いけどこれ以上は面倒見切れないって言うしかな…」

「遅くなりました!!」

 その時、聞いたことのない声が道場の入り口から聞こえて来た。振り返れば、そこにはタブレットに写っていた女子が竹刀を背負って道場に駆け込んできていた。噂の水城さくらさんだ。

「水城?今日は来ないかと思ってたぞ」

「すみません!!ちょっと立て込んでて…もう大丈夫です!!」

「そう?なら、さっさと着替えて来なさいよ」

 快活そうな顔の通り、元気一杯に更衣室に走っていく。その途中で俺たちを見て怪訝そうな顔をしてみせたが、すぐに更衣室に入っていった。

「話と違って、なんだか元気そうですね」

「ええ。一昨日まではあんな暗かったのに…」

 ヒカリに言われ、先輩が思わず首を傾げる。それほど劇的な変化なら、この二日間の間に余程のことがあったんだろう。

 どことなく釈然としない思いを抱えていると、依頼主である先輩が駆け寄って来た。

「ごめんね。中途半端に付きあわせちゃって」

「ま、問題が無くなったんならこのまま彼女に取材して帰りますよ。ちょうど新作の構想が出来てた頃だし」

 ちょうど道着に着替え終えた水城さんを見て答える。

 所詮は高校生の日常。そんな劇的なことが起こるはずがないんだから、相談室の活動も無駄骨くらいでちょうどいい。

 そんなことを思いつつ、練習に参加した水城さんをスケッチしていく。成程。基礎練習から見ても、基本動作がどれも美しいのが分かる。その上反射神経もすばやく、竹刀を振る速度もすばやい。わざわざ学校が長野から呼ぶだけのことはある。

「水城、実は漫研?が取材に来てるんだけど、アンタちょっとインタビュー受けて来なさいよ」

「え?でも、私、やっと練習に来れたのに…」

「私達はもうみんな受けたのよ。アンタだけよ。受けてないの」

 ふと、先輩がこっちに気を利かせたのか水城さんを俺たちの所まで引っ張って来た。水城さんは戸惑っている様子だったが、先輩に背中を押されて俺たちの前に立った。

「ど、どうも。私が…」

 その時、水城さんは一切表情を変えることなく、竹刀を俺に向けて振り下ろした。

「え!?」

 咄嗟に素手で掴む。派手な音が出たが、それほど痛い訳じゃなかった。

「ど、どうしたの!?」

「わ、私…なんで…?」

 竹刀を握っていた水城さんが、震える手で後ずさる。女子剣道部中が凍り付く中、俺は竹刀を握りしめたまま立ちすくむよりほか無かった。

「何でって…こっちが聞きたいんだが」

「ご、ごめんなさい!!気が付いたら、手が勝手に…!!」

「手が勝手にって…」

「ごめんなさい!ごめんなさい!!ごめんなさい!!」

 戸惑う俺たちをよそに、水城さんは泣きながら道場を走り去っていく。その背中を見送るよりほかない俺たちは、全員がポカンとした顔のまま立ち尽くしていたのだった。



 水城さくらは、一人走り続けていた。あの時、漫研から来たという男子を見て、気が付くと竹刀を振り下ろしていた。

「どうしちゃったのよ。私…!?」

 一切身に覚えがない自分の変調。なぜ見覚えすらない男子相手に、自分の生きがいでもある竹刀を振り下ろしてしまったのか。

 思わず自分の両手を見つめるさくら。あのスランプからやっとの思いで抜け出せたというのに、どうしてこんなことを。

「まさか、あの薬…!?」

 真赤蘭大学病院で注射されたあの薬。合法的かつ、一切問題のない形で身体機能やメンタルを強化してくれる夢の薬。あくまで治験だから、問題がればすぐに連絡するようにと番号を渡されていた。

 慌てて電話するさくら。電話に出たのは、大学病院で薬を打った男だった。

『いかがなされましたか?』

「あ、あの!!あの薬のせいで、いきなり人を殴りそうになっちゃった!!こんなの絶対にダメですよ!!早く中和剤を…」

『ああ。そのことですか。それには及びませんよ。だって…』

「え…」

 ドクン、とさくらの中で何かが目覚めた。携帯電話を取り落とし、コンクリの地面で悶える。

『もうそろそろ効果が出る頃ですからね。それでは、これからも実験にご協力をお願いしますよ。水城さくらさん?』

 電話の声を最後に、さくらの意識はぷっつりと途切れるのだった。

感想待ってます。

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