ヒーロー復活!!
敵の罠で弱体化して敗北→復活は当たり前。
思わず今まで蓋してきた物が口から出てくる。俺があの日、博士の代わりにヒーローとして蘇ったあの日からずっと心の中で抱えてきた思い。なんで俺が、こんなことしなきゃいけないんだよ。
確かにあの日、博士が死ななきゃならなくなっちまったのは俺のせいだ。だけど、だからと言っていきなり体を化物にされて、その上で命懸けでヒーロー活動を続けなきゃいけない理由なんか無いだろ?漫画書くための取材体験だなんて無理やり納得させてきたけどさ、たった一度の選択ミスでここまで苦しまなきゃいけない理由はなんだって言うんだ?
「誰か教えてくれ…俺は、どうしてこんなことしなきゃいけないんだよ…!!」
こんなこと言ったってダメなんてこと分かってる。けど、もう限界なんだ。いつ何時、何が襲って来るかわから無い恐怖も、戦うことへの恐怖も、痛みも…。
「…お前が一体何と戦ってきたのかは俺は知らん。だけどな、俺にはお前の助けを待ってる声が聞こえるぞ」
「その声が一番怖いんだよ…背中にズシッとのしかかってきて、歩くたびに足を引っ張ってきやがる。これが、ヒーローやるってことの重さだってことくらい分かってるけどさ…」
これが、ヒーローでいる為の条件だというのなら、俺はヒーローでなんか居られない。
「そうだ。だがな、その重さはヒーローだけが背負ってるものじゃない。誰だってどんどん重たくなる重しをぶら下げて生きていくんだ。それを放り投げるのは楽だがな…一度でも捨てたら二度と拾えないんだぞ」
滝先生の言葉に、脳裏に浮かぶ最後の瞬間の天竜寺の姿。このままでは、アイツはグループによってどんな目に合わされるか分かったもんじゃない。多分、情報を取り出した上で殺されるかするだろう。
アイツが殺されるのか。それは、やっぱり嫌だな。
「お前の心はまだ完全に折れちゃいないはずだ!お前の目は、まだ負け犬の目をしちゃいないぞ!」
「かもなぁ…」
歯を食いしばって立ち上がる。ダメージはまだ抜けきっていないが、心に刺さったトゲは抜けた。俺は負け犬になんかならない。天竜寺も、俺の元の体も人生も全部をあいつらから取り返して、あいつらの泣きっ面を全世界にネットで配信してやる。
「滝先生、車で来た?」
「おお!行くか?」
「まずは学校に寄ってくれ。天竜寺グループ本社ビルはその後だ」
「なんだかよく分からんが、よしきた」
近くの駐車場に止められた滝先生の車に乗り込み、学校に向けて走り出す。待ってろ、俺は今度こそただのヒーロー気取りじゃなくて、本当にヒーローに変身してやる。
目を開ければ、真っ白な天井。背中の感触は冷たくて硬い。それどころか、手足が動かせない上に口も開けれない…!?
「起きたか?」
「そうみたいね。準備も整ったし、ちょうどいいわ」
お母さん、いや現社長の声と、あのコウモリ男の声。そうだ、私はあいつらに捕まったんだ。
「うっ…!?」
何とか体を動かそうとする。だけど、硬いベッドに気を付けのポーズで固定されていて全く動かせれない。首も口に嵌めさせられている猿轡ごと拘束されていて動かせない。
「始めてちょうだい」
「いいのかい?時間をかけてしっかり取り出したほうが確実だし、それに途中で廃人になってしまうかもしれない」
「構わないわ。この娘に情がある訳でもないでしょうに」
「データ回収に支障が出るかも、と言っているんだがね」
恐ろしい会話が聞こえてくる。私の頭の中にあるデータを回収しようとしているのは分かるけど、この人は明らかに私を苦しめる気だ。
逃げなきゃ、とは思うけど、体が一切動かせない。何とか身動ぎするくらいで、まともな抵抗なんか出来ない。
そうこうしているうちに、コウモリ男が私に無理やりヘルメットみたいなものを被せて来た。ヘルメットのバイザーが下げられて、私の目の前に起動画面みたいなものが流れ始める。
「では開始だ。脳内に刻まれた無意識下のデータを電気ショックを通じて電気信号化させる装置だ。相当な苦痛だと思うが、恨むならば君の義理の母上を恨むんだな」
コウモリ男がそう告げる。
助けて、葦原君。
そう心の中で叫ぶと同時に全身を熱くて鋭い何かがかき乱した。
「――――――――――っ!?!?!?!?!?」
「ああ…いい気味…」
声にならない叫びすら力ずくで押し込まれ、微かな身動ぎでしか激痛を表現できない姿を目の前にうっとりと呟く天竜寺サクヤ。コウモリ男ことバッディ・カーチスはそんなサクヤを不思議そうに見つめる。
「サクヤ。君にそんな趣味があったとは知らなかったな」
「ええそうね…けど、あくまでコイツ限定よ。あんなにも憎かったこの娘が、私の幸せの為の踏み台として苦しんでいる…こんな幸せはないわぁ」
恍惚の表情で電流の強さを操作するサクヤ。サクヤの指先一つで動きを変えるヒカリの姿を見て更にサクヤは興奮していく。バッディはその姿に微かに冷や汗をかいた。
「なぜそこまでこの娘を?」
「決まっているでしょ。この娘ったらね。お母さんが欲しいんですって。私が子供の頃から何一つ手に入れられなかった物を全部持ってるくせして、私に母親役をやれなんて…我が儘じゃなくって?」
あらん限りの憎しみを込めて電流を最大出力にし、ヒカリはついに激痛のあまり悲鳴すらあげられなくなる。
「そろそろ止めたまえ。致死量ギリギリと言うのはあくまで死なないギリギリであって絶対に死なないと言う訳ではないのだよ」
「そうね…まだ、役に立つんだから…」
データを殆ど搾り取られ、虚ろな目で天井を見上げるヒカリ。電流で無理やり温められた全身から湯気が立ち、まるで体内の水分が蒸発したかと思うほどの有様だった。
その姿を満足げに見つめるサクヤの耳に内線電話のコールが届いた。
「はい、もしもし?なんの用かしら?」
『えーと、お嬢様の担任の滝と言う教師からお電話です。何でも、少々口外できないことでご相談があるとか…』
思わず顔をしかめるサクヤ。まさか、今夜の出来事を知られていると言うのか。ならばさっさと口封じしなくてはいけないが…。
「繋いで頂戴」
まずはどんな要件か聞いてからだ。もしかしたら、あまり関係ないことで電話してきたのかもしれない。もしそうなら余計な墓穴を掘りかねない。
『あーもしもし?私、天川学園でヒカリさんの担任をやらせてもらっている滝と言う者ですが』
「ええ聞いていますよ。一体何のご用で?」
『実はですね?そちらのお嬢さんが家出した挙句ウチの男子学生と不純異性交遊していると言う噂が警察方面から聞こえてきましてね?こちらとしてもあまり公にしたくないってわけでしてね?』
関係していると言えば関係しているが、してないと言えばしてない。ただ、確かにこちらとしても公にしたくはない話だ。ここで突っぱねるわけには行かないか。
「分かりました。お話できますか?」
『ええ。実はもうお宅の本社ビルの結構近くまで来てまして。今夜中に直接お話できますかな?』
「…仕方ありませんね。では、警備員に話はつけておきますので地下駐車場東口にある裏口から入ってきてくださいますか?その先は警備員に伝えておきます」
「申し訳ございません。それでは後ほど」
電話を切り、滝先生はスマホをポケットに入れる。目の前にはもう天竜寺グループ本社ビルがそびえ立っている。
俺は学校の相談室に置いておいた新作漫画のラストページの原稿を片手に運転席の滝先生を睨んだ。
「話はつけておいた。これで入れてもらえる算段は付いたぞ」
「もしかしなくてもさ、ウチの男子生徒って俺?」
「当たり前だろ。ほかに誰が居る」
グウの音も出ない。まあ確かに自分でそう言ったんだけどさぁ。
「じゃあ行くか。原稿はそれでいいのか?」
ラストが書かれた原稿を指差す滝先生。いいのか?ってのはどう言う意味だろうか。
「いいですよ。元々書き直す予定でしたから」
半分嘘で半分本音を言う。このラストは結構気に入っているし、あの時の俺の全てが込められていた。だから、力を出し切るためにはこの原稿が一番いいと思った。
ただ、今はもっと気持ちのいいハッピーエンドを書きたいと思っているから、この原稿はもう要らないんだ。
「お前がそれいいなら別にいいけどな。お、見えてきたな」
地下駐車場に侵入し、東口の近くに小さく書かれた役員用の裏口の看板を見つける。電話で言っていた通り、警備員がこっちをじろりと見つめていた。ちらりと見れば、扉の鍵は既に空いている。
「先生。ありがとうございます。後は、俺一人で何とかしてみせます」
「バカ野郎。ここまで来たらもうちょい首を突っ込ませてもらうぞ」
俺の静止を聞かずに車を降りる滝先生。慌てて追いかける俺をよそに、滝先生は自信満々な顔で歩き続ける。やたら前からガタイはいいな、とは思ってたけどさ、なんだってそこまで…。
「どうするんです?素人でしょ?」
「俺はこう見えてもな、オヤジが元FBIの捜査官だった繋がりで格闘技は自信があるんだぜ。っと、アンタが社長の言ってた案内役か?」
「そうだが、こいつは?」
「お嬢さんのお相手さ。反省させるためにも連行させてもらってるのさ。これからどうすればいい?」
「…まあいいさ。通路をまっすぐ進んでいけば役員フロアに直行するエレベーターがある。それに乗って一番上まで行ってくれ。そこで迎えが来る」
「ありがとうよ。せて行くぞ、不良少年。たっぷり反省させてやろう」
熱血教師ドラマの不良を無理やり連行する体育教師、いった風情で引っ張られていく俺。不審げに見てくる警備員の視線が痛い。
警備員さんの言ってたエレベーターに乗り、役員フロアに向けて登っていく。
「さてと、どうでるかな?」
「監視カメラありますね。まあ、もうバレてるでしょうね」
口にはしていないがナノマシンの気配も近い。滝先生のリアクションを待たずして懐から原稿を取り出し、変身。滝先生が驚く間もなく、エレベーターが止まり、扉をこじ開けてあの半分機械のトカゲ野郎が襲ってくる。
「悪いな。水落したヒーローはパワーアップして帰ってくるのが常識なんだよ」
「ぐえっ!?」
こっちも準備が出来ていた。飛び込んでくる時には既にボードブレードを突き出しており、トカゲ野郎はロクな攻撃すらできずにボードブレードで貫かれ、爆発した。
「ひょええええ…」
滝先生を庇って爆発の勢いを背中で防ぐ。けど、やっぱり先生は来ない方が良かったよな。
感想待ってます。




