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COMIC-MAN  作者: ゴミナント
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変身不可能!?いや可能!!

変身は男のロマン。色んなパターンを網羅していきたいものです。

 天竜寺を連れて公園まで走る。まさか、このタイミングで襲って来るとは。お陰でオヤジの頃からコツコツ集めてきた貴重なコレクションが全部灰になっちまったじゃねーか。

 だけど、それ以上に変身用の原稿用紙を全部失っちまうとは。こんなざまでヒーローとは。

「ちょっと待ってろ」

 木の陰に天竜寺を隠し、落ちていた木の枝で地面にいつもの絵を書く。慌てている上に道具も道具だから線が震えてまともな絵が書けないが、今はこれしかない。

「頼む…!!」

 近くの川のせいで若干ぬかるんでいる地面に書いた絵に手をかざす。ナノマシンが起動し、俺の手が輝いた。行ける、これなら…!!

「変身完了!!…何箇所か思ってたのと違うな…」

 変身出来たものの、あちこち簡略化されてどことなく弱そうに感じる。って言うかいつもの体に激ってくるエネルギーを感じられない。これでどこまでやれるのか。

「逃げても無駄だ。私たちからは逃げられない…!!」

 声が近づいてくる。やるしかない。天竜寺を背に木陰から飛び出し、トカゲとコウモリの二体の前に立ち塞がる。

「逃げるかよ。お前ら倒せば全部終わりなんだよ…!!」

 そう。こいつらを倒してしまえば後はフランスに行って体を直してもらうだけなんだ。ラスボスはさっさと倒してハッピーエンドと行こうじゃないか。

「おらっ!!」

 取り敢えず動きが鈍いトカゲ野郎を狙い殴りかかる。半分機械みたいな外見に違わず、殴りつけた途端金属音が鳴り響いた。コイツ、硬いな。

 思わず舌打ちした瞬間、トカゲ野郎は右腕のバズーカをゼロ距離で突きつけてきた。マズイ、と思うより早く腹部に衝撃と高熱が襲ってきて吹き飛ばされ、設置されていた鉄棒に直撃してしまう。

「いっつぅ…!!」

 手で掴む棒の部分がひしゃげ、地面から重しのコンクリごと左右の柱が抜けて鉄棒が倒れる。鉄棒で背中と肘を思いっきり痛め、ズキズキと重たい痛みが走り続ける。

「くそぉ!!これでも…!?」

 左腕にあるはずのガントレットに手をかざすが、そこには何もない。しまった、書き忘れた。これじゃボードブレードを使えない。

 ふらつく足を何とか抑え、再びバズーカを構えるトカゲ野郎を見据える。こんな状態で必殺技を放ってもどうなるかは分からないが、それでも今はこれしかない。

 トカゲ野郎がバズーカを発射すると同時に膝のバネで前方向に跳躍。バズーカの弾を空中で回避し、すれ違いざまに渾身のパンチを叩き込む。この技が決まれば、少なくとも一体は…!!

「どりゃあああああああ!!」

 後方で爆発が起こり、その勢いも手伝って高速でトカゲ野郎に接近していく。後少しでパンチが当たるタイミング。拳を握り、腕を引く。

「遅いな。スピードは大したことなさそうだ」

「コウモリぃ…!?」

 いきなり目の前にコウモリ野郎が現れ、次の瞬間俺は公園の反対側まで吹き飛ばされていた。クロスカウンターが俺に叩き込まれた、と理解した頃には、コウモリ野郎の蹴りが俺の腹に叩き込まれる。

「ごはっ…!?」

「パワーもスピードもガードも甘い。所詮は非正規品のナノマシンか」

 首根っこを捕まれ、公園のフェンスに叩きつけられる。これはマジでヤバイ。痛みとかダメージとかスタミナ不足とか以前に、全然力が出てこねえ。

「葦原君!!」

 声のした方を見れば、既にトカゲ野郎が天竜寺を捕まえている。助けを求められているのか、それともヒーローのピンチに悲鳴を上げているのか。どっちにしろ、このままじゃ済まさねえぞ。

「ヒーローも終わりだな。残念ながら君の漫画は連載まもなく打ち切りだ」

「ちげーよ…こっからテコ入れで逆転するんだよ!!」

 最後の力を振り絞ってコウモリ野郎の腕を掴みあげ、そのまま前蹴りでコウモリ野郎を振り払う。そして着地と同時に駆け出し、全力疾走からのジャンプでトカゲ野郎目掛けて飛んだ。

「伏せろ!!」

 俺の声が聞こえたのか、天竜寺は咄嗟にトカゲ野郎を振り払ってしゃがみこむ。トカゲ野郎は掴み上げようとはしたが、それより先に俺の飛び蹴りで吹っ飛んだ。

「逆転開始だ。悪いが、新ヒーローデザインはこれはこれで有りらしいぜ」

「そうかな?」

 コウモリを振り返るが、既にそこには誰もいない。一体どこだ!?

「テコ入れで人気上昇は一時だけだ。歴史がそれを証明している」

 あちこちから襲ってくる見えない小型の影に全身を痛めつけられる。これは、博士が殺された時のあの攻撃。なら、やっぱりあれはこいつだったのか。

 全身をくまなく攻撃してくる大量の影。もしかして、これは小さいコウモリか?だけど正体が分かったところで周囲に手を振り回すくらいしか対抗手段が思いつかない。

「チェックメイトだ。最初の路線を貫くべきだったな」

「何を…っ!?」

 声がした、と思った瞬間には目の前にコウモリ野郎が現れ、強烈なストレートを叩き込まれていた。

「うわあああああああ!!」

 まるで車にはねられたかのように体が浮かび上がり、公園のフェンスを突き破って川に落ちる。周囲に大量の水が撒き散らされ、変身解除させられた俺はずぶ濡れになりながらやっとの思いで立ち上がるも、すぐに川の流れに飲まれて倒れてしまう。

「く、そぉ…」

 負けてたまるか。俺は、まだ…。

 必死に手を伸ばすが、やがて俺は意識を失い川に流されていった。




「そんな…」

 意識を失い流されていくヒーローを目の当たりにし、ターゲットは力なく座り込んだ。好都合だな、これでもう抵抗する気力も残ってはいまい。そもそも抵抗されたところで無駄だがな。

「ふん。連れて行け」

 半分機械のリザードに命令すると、リザードは何も言わずにターゲットを無造作に掴み上げて車に戻っていく。イマジネーターの最大の弱点である個人の意志や思想をコントロール出来ないことを改善するべく、強化も含めて改造したリザードは、命令こそ素直に聞くようになったが、その代わり元の姿にも戻れず自己意識すら喪失してしまった。この辺はまだまだデータ不足か。まあいい。必要なデータを持つターゲットは確保したのだ。後は、邪魔者を完全に抹殺することのみ。

 私の意思で動くコウモリ。コイツに奴を追わせ、試作のナノマシンごと血液を頂くとしよう。火事場の馬鹿力もあってのことだが、かなりの性能だった。吸収すればどれほどのバージョンアップが期待できるか見ものだ。

 コウモリを飛ばそうと手を伸ばすが、強化された聴覚にパトカーと消防のサイレンが聞こえてくる。予想外に早いな。

「ちっ…今見られるのはまずいか」

 まあいい。あれだけのダメージと川の流れだ。生き延びれるはずがない。

 車に乗り込み、走り出す。後ろではリザードによって気絶させられたターゲットが手錠をかけられ、ガムテープで口を塞がれた上でダンボールに入れられていた。その仕事を終えたリザードの方は、ピクリとも動かずヒーローショー用の着ぐるみの役に入り込んでいる。

 見事なものだ。私も人に戻るとしよう。

 車を走らせ、一路天竜寺グループ本社ビルへ。今夜で仕事は終わりだな。




 負けた。完膚なきまでに叩きのめされた。変身に必要な原稿は全て燃やされ、恐らくあそこに残されていた天竜寺は今頃捕まっているだろう。

 どうすればいい。やっぱり俺にはヒーローは重荷だったんだろうか。思えばあの日、俺が博士の研究所を訪ねなければ、俺がこの戦いに巻き込まれることは無く、このヒーロー役も博士がやり遂げていたんだ。

 天竜寺は結構ファザコンだし、彼女を守るヒーローは俺じゃなくて博士の方が良かったはずだ。博士が戦っていれば、こうやって俺みたいに負けて無様にも彼女を攫われるようなことはなかったんだ。

 そう、俺は弱いんだ。ただの漫画家志望の高校生が、分不相応にヒーローなんて…。

「おい!!葦原!!しっかりしろ!!」

 声?聞き覚えのある声がする。そうだ、この声は…。

「うっ…ゲホッ!ゲホッ!!」

「葦原…!!気がついたか…!!」

「滝…先生…」

 いきなり目の前に現れた滝先生。周囲を見渡せば結構見覚えのある景色。子供の頃から良く来る川辺の休憩所だ。

「焦ったぜ。今日のお前らの様子が気になって見に来たら、何というか、色々とすげえことになっててよ」

「すげえことって…どこから見てたんで?」

「お前が天竜寺を守るために変身して、あの不審者が変身して。で、お前が負けて…川に落ちて、俺が助けた。ははは、まるで全然現実感がねえや」

「全部見られてたのかよ…」

 この上なくズタボロで、みっともないヒーロー気取りのガキの姿が現実を突きつけられる瞬間を見られていたとは。

「取り敢えずいろいろ聞きたいとこだが、今はそんな場合じゃねえな。あの警察に連絡しねえと。葦原、あの連中は一体何なんだ?天竜寺を連れてっちまったが…」

「あいつの実家ですよ。家出した挙句に男と同棲は認められないってさ」

「何馬鹿なこと言ってんだ?真面目な話だぞ!?」

「ほぼ事実ですよ。アイツが実家に居られないって俺の所に来て。で、一応庇おうとしたけど結局連れ戻されちまった。ぶっちゃけ俺たち校則違反でしょ…」

 間違ったことは言ってない。でも、滝先生は当然だけど納得いかない。ずぶ濡れの俺の肩を掴んで困惑したように聞いてくる。

「一体どうしちまったんだ?お前はそんな情けない顔する奴じゃないだろう?」

 情けない顔、か。確かにそうかもしれない。だけど、俺だって一杯一杯なんだよ。

 思い余って咄嗟に近くの石を広い自分の左腕に叩きつける。俺の力で叩き込んだ石は皮膚と血管を突き破ってかなりの勢いで血が溢れ出す。

 呆然とそれを見ていた滝先生も、流石にポケットからハンカチを取り出してきた。

「お、おい!?お前、漫画家志望だろ!?」

「…漫画家志望っつったってさぁ…」

「は…?」

 見る見るうちに傷が塞がり、血液が乾いていく。もう何度目かになる、俺の体の異常性を確かめるだけの作業。この三日間、天竜寺が眠っている間に何度も丸ペンであちこち突き刺し、その度に一瞬で癒えていく傷口を見つめ続けていた。

「俺もう人じゃないんだよ!何なんだよ変身とか怪人とかさぁ!?確かにどっちも漫画で書いてきたさ!だけどそれって、俺の空想の中だけでやるべきだろ!?目の前に出てきちゃダメだろ…!!」

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