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COMIC-MAN  作者: ゴミナント
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打ち合わせ…ってなんかドキドキする

因みに、この物語の殆どの登場人物の名前にはある一定の法則があります。

「おお来たな。早速だが見せてくれるか?」

「お願いします。前に直すように言われたところは全部直したつもりです」

「今更敬語はいらんよ。十年以上の付き合いだ」

 ズバット編集部の重鎮立花吾郎。父さんの担当編集でもあった人で、父さんが死ぬよりも前から俺のことを気にかけてくれてた恩人でもある。

 そんな人が読んでいるのは『超力探偵PSY』。探偵ものだが、基礎設定として主人公は超能力者であり、被害者の声が聞こえるのだ。その為、犯人やその動機は現場に現れた時点でわかってしまう。主人公はそれを元に証拠を集め、犯人を追い詰めるのだ。

「うん。やっぱり中々上手くかけてるじゃないか。前に言った超能力者って設定が最初しか出てこないってのも、最後に犯人の抵抗を超能力で取り押さえてるって形で解決してる。絵も最初は暗めで犯人確保と同時に明るくするって手法も新しいな」

 じっくり読んでいた立花さんが漫画から目を離さずにそう言って思わず小さくガッツポーズ。まあ前に見せた時も最初は褒めて、次に色々問題点を言って来た。つまり、上げて落とすのは漫画編集者の得意技だ。これで心をへし折られる新人も少なくないと聞く。

「だがやっぱり、トリックが在り来たりだな。何というか、目新しさがない」

 やっぱりきやがった。まあ、そこは書いていても思ったしなぁ。

「一応、これは超能力推理がメインと思って書いたから、トリックは殆ど二の次なんです。犯人の動機とか、全然意味がないミスリードキャラの小ネタとか」

「そりゃそうだ。今時目新しいトリックなんか思いつかんのもわかる。だがな、犯人と動機が最初に分かるってのは、読者には刑事コロンボみたいな倒叙推理モノと思わせるんだ。それなのにトリックが二の次じゃ、いくら設定が斬新でも読者が飽きてしまう」

「うぐっ…」

「それに絵も推理モノの絵じゃない。特に殺人現場のシーンはこれじゃあリアルすぎて少年誌に載せられないぞ」

「一応…直したんですけどね…」

「馬鹿、グロイってのは血や内蔵が見えるからグロイんじゃないんだ。遺体の血色の悪さとか表情とか、そういった者を全部加味してグロイと感じるんだ。大体高校生がこんなもん書いてるんじゃない。一体どこに取材したんだ?」

「病院や大学の研究室ですよ…漫画を書くにはリアリティが一番大事ってM県S市に住む理想の漫画家さんが…」

「二度とそんなとこ行くな!全く、親がいないからって好き勝手しすぎだ」

 ある意味俺の親代わりでもある立花さんはそう言って殺人現場のシーンで色々『ヤバイ』部分をマジックで黒くバツを書いた。俺は少々グレートじゃない気分で原稿を返してもらう。まあ確かに、ちょっと少年誌に乗せることも考えればまずい表現が多かったかもしれない。

 まあこうなれば、良ければ別冊の新人雑誌に掲載も夢と散ったと考えた方がいいか。確かにこっちも張り切りすぎたかもしれない。

「まあ、なんだ。確かにこれじゃあ載せられないが、良かった部分も多いぞ。特にクライマックスの犯人確保のシーン。下手なバトル漫画よりも迫力があった。やっぱり、これをメインに書いたほうがいいんじゃないか?」

「それは…」

 バトル描写がいい。これは今まで漫画を見せるたびに何度も言われてきたことだった。確かに漫画を書いている時も、バトルシーンのあたりは書いていて楽しいし丸ペンの動きも早い。一度バトル漫画を書いている先生のところにアシスタントのバイトをさせて貰った時にも、その先生に特に教えることはないなんて言われたこともあった。

 だけど俺が書くバトル漫画は、どうしてもヒーロー物になってしまうのだ。えげつないダークなバトル物を書こうとしたが、気がついたときにはダークヒーロー物になって、そして下書きを終えてもう一度見返してみたらただのヒーロー物になっていたりするのだ。

「まあ、すぐにジャンルを決めろとは言わん。どのみち、学校を卒業するまでは連載はしないと言う約束だ。後三年のうちに、一番君にあっているジャンルを探してみるといい。読み切り掲載も、何も今回がラストチャンスってワケじゃない。次の二ヶ月後の本誌でも読み切りチャンスだってあるんだ。君なら一週間もあれば三十二ページ書ききれるだろう」

「ありがとうございます…ちょっと、考えまとめてみます」

 そう言って原稿をカバンに詰め、落ち込んだ気持ちを抱えて編集部を出る。エレベーターを待つ途中、親父が書いたヒーローがポーズを決めてこっちを見ている気がした。

 思わずいーっと舌を出し、逃げるようにエレベーターに入っていくのだった。




 夜。行きつけの定食屋でジュースを片手に敢え無く没になってしまった漫画を読み直す。自画自賛ではあるが、やっぱりイイと思う。が、立花さんに言われたダメな部分に納得してしまった。これではもうこれを直してもう一度、と言う気にはなれない。

「バトルが上手い、かぁ…」

 それはつまり、俺の中ではヒーロー物を書けと言っているのと同義だ。

「今時ヒーローなんか流行るかよぉ…」

 六年前、親父が週刊少年ズバットに連載していた『THE HERO』。空前の大ヒットとなり、新参故に苦戦していたズバットの発行部数のゼロを三っつくらい増やした上に、あちこちでヒーロー物は大ブームになった。

 だが漫画だけでなく、特撮に小説にまで波及したヒーローブームは、その第一人者である俺の親父の急死によってあっけなく幕を閉じた。『THE HERO』第一部の完結と新主人公による第二部の連載を告知し、その間の小休止として数年ぶりの休暇を取った親父は、俺と母さんを連れて旅行に行った先で事故にあった。高速道路の隣を併走していたトラックが居眠り運転をしてぶつかってきたのだ。

 その時の記憶はハッキリと覚えているが、思い出したくはない。ただ今でもたまに夢の中で、俺を庇ってトラックが載せていた廃材に身体を貫かれた母さんの姿と、母さんの身体でズレた廃材の先が俺の右頬をザックリと切り裂いた瞬間の痛みが襲ってくる。

 この事故で母さんは即死。俺と親父は生き残ったが、親父は右腕に麻痺が残った。

 そして事故から一週間後、親父は自殺した。

 遺書の代わりに置いてあったのは、線が震えて何が書いてあるか分からない漫画の原稿だった。

 そんなことを考えていると、店の扉が開いて見知った顔が入ってきた。

「ただいまー…ってなにやってるんです?センパイ」

「おおルリか。ミントン部の練習か?誠とデート帰りか?」

「…体操服着てるんだから部活だって分かるでしょ?ホント、漫画以外に興味がないんだから…」

 この定食屋『あずま屋』の一人娘にして、ウチの中等部三年。そして何より我が親愛なる学友犬飼誠の彼女、東ルリ。一応、天川学園に入学する前からの付き合いで、世間一般が言うところの幼馴染だ。まあ漫画やラノベみたいにお互い恋仲になるなんてことは最初からないのだが。

「そーだ。お前からも俺の漫画になんか意見してくれよ。誠のやつ素っ気なくてさぁ」

「超力探偵なら春休みに読んだでしょ?おとーさん!注文も取らずに居座ってるこの漫画家崩れ追っ払っていい?」

「あーそうかい!もういい!帰って取り敢えずなんか書く!!」

 荷物をまとめ、ジュースの代金だけ置いて出て行く。何というか、ルリを相手にしているとワケもなく後ろめたく感じてしまう。やたら距離が近いから、なんとなく誠に悪い気分がしてしまうのだ。

 あずま屋を出てそのまま大通りを通り過ぎる。昔住んでいた自宅はこの近くにあったが、一人で住むには広すぎることもあって売り払ってしまった。だから今は親父が使っていた仕事場で暮らしている。漫画を書くには困らないし、何より親父が残してくれたいろんなジャンルの漫画や小説が置いてある。

 そんな現自宅兼仕事場だが、結構大きめの川沿いのちょっと人目につきづらい道を通らないと行けない訳で。俺も定期的にガラの悪い方々に絡まれることもありまして。だから、今目の前で見かけない中年男が五人のガラの悪い連中に襲われているのもあまり珍しくない光景でしてね。ええ。

 どうするかなぁ。襲ってる方も襲われている方もこの辺じゃ見ない顔ばかりだけど、目に付いた以上は見て見ぬ振りはできない。つーかおっさんと目があったし。しゃーない。

 スマホのカメラ機能の設定を替え、あえてフラッシュと音を最大に設定してDQNたちを撮影する。

「な、なんだてめえ!?」

「えーなんだ君は?と言われてもな。取り敢えず、変なおじさんではない。うん」

「は?ふざけてんの?」

 考えてた決め台詞その一はダメか。真似したくないし、そもそもダサい。次の漫画の主人公の決め台詞は別のにしよう。

「あ、そーだ。その人の味方。これでいいや」

 あ、これちょっといいかも。次の主人公の決め台詞はこれに…ってヒーロー物じゃん。でもまあいいか。取り敢えずは、相手にも見えるようにわざとらしくスマホを操作して電話に切り替えて110番。それなりに距離が空いていたから、向こうも俺を潰して止めようって訳にもいかないだろう。

「くそっ!!お前ら、行くぞ!!」

 リーダーっぽい派手なピアスをした男の合図で早々に悪者っぽい連中が尻尾を巻いて逃げていく。まいったな。暫くは夜道に気をつけておかないと。

「大丈夫っすか?」

「ああ。助かったよ、ありがとう」

 中年男はしっかりと抱きしめていたカバンの無事を確かめるとホッとため息をつく。相当大事な物が入っているらしい。

 それにしても、この辺じゃ見かけない顔だが、それ以上に着ている服が高級品だ。こんな服着た中年男がこんなところに居るのは初めてじゃなかろうか。

「なんだってこんな所に?あんなのが多いってこと、知らないんで?」

「ああ。この辺に来たのは久しぶりだったからね…随分変わったもんだ」

「幹線道路が出来て、あっちがメインになりましたからね。じゃあ、俺はこれで」

 懐かしげに周囲を見渡すおっさんはほっといて立ち去ろう。こういう人の話は大体やたら長いのが古今東西の常識だ。

「待った。お礼させてくれないか?」

「いいっすよ別に。ここらじゃあれくらい日常茶飯事ですから」

「じゃあせめて名前を教えてくれないか。このままじゃ私は寝覚めが悪い」

 そんなこと言われてもなあ。まあ、それくらいいいか。

「葦原。葦原和也」

「葦原だって?君、あの和也君かい?」

「は?」

 なんだ?いきなり馴れ馴れしくなったぞこのおっさん。だけど、なんとなくその顔に見覚えがあるような気もしないでもなくなってきた。

「ああでも最後に会ったのは十年以上前だし、覚えていないか。仕方ない。私は天竜寺隼人。君の父葦原猛の高校時代の同級生さ」

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