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COMIC-MAN  作者: ゴミナント
16/75

刑事・降臨

特撮ヒーローには必ず必要な存在。それはやけに首を突っ込んでくる刑事である。

 あの戦いから少しは気力を取り戻せたらしい天竜寺が立ち上がる。が、すぐにまた顔を真っ赤にして座り込んでしまった。

「お、おい。どうしたんだ…」

「…どうしよう…」

 涙をポロポロと零しつつ蹲る天竜寺。一体何が起きたんだ?この短い間に、また選択肢をミスったのか?

「…下着…買い忘れちゃったぁ…」

 本日で通算三日目となる下着。そう言えば、昼食ってから買う予定だったのにその前にオカマブラザーズが襲ってきたんだった。

 その程度、とも思ったが、まあ俺でも同じ下着を三日間なんて嫌なんだし、女子の天竜寺にとっては地獄の苦しみなんだろうなぁ。

「しょうがない。今から買いに行くか…」

「いいの?」

「しょうがないって言ったろ?」

 そう言って促し、天竜寺の準備を待って靴を履く。まあ、待つといっても出かけて帰ってきたばかりだからそんなに時間はかからなかったが。

 だが玄関のドアを開けると、ちょうどそこにどっかで見たことあるような顔がノックしようと手を伸ばしたところだった。

「おおっと失礼。そっちから開けてくれるとは思わなかった…と、そっちの方は?」

「え、ええと…誰、でしたっけ?」

 どっかで見た顔ではあるんだが。ただ、相手が天竜寺グループの刺客ならマズイ。よりにもよって天竜寺と一緒に住んでる家を探り当てられたことになる。

 思わず懐の原稿用紙に手を伸ばしかけるが、その前に目の前の男が懐から黒い手帳を取り出した。

「覚えてません?警察ですよ。刑事課の千葉。天竜寺氏の事件の時に貴方に事情聴取しましたよ?」

「ああ、そう言えば…」

「ちょっと確認したいことがありましてね。お時間いただけないでしょうか」

 千葉と名乗った刑事は本心を掴ませない薄ら笑いを浮かべる。このタイミングで確認とは一体何か。ただ、確認したいことがあるのはこっちも同じだ。ただ問題は、後ろの残念な女の子だ。

「それならこっちもお願いがあります。いいよな?天竜寺」

「え?あ、うん」

「ほう…?」

 お願いすることを考えれば連れて行かないわけにもいかないしな。その分余計な説明が増えるが、まあそこは俺の想像力で何とかするさ。

「まあ色々と聞きたいことはありますが、まずは署の方まで来ていただけますか?」

 千葉に促され、俺と天竜寺は千葉が乗ってきたらしい車に乗る。流石にパトカーで連れて行こうなんて無粋なことはしないらしい。

 警官らしく丁寧な運転で警察署に向かう。途中の信号待ちで、ようやく千葉が口を開いた。ここは幹線道路だし、それ以上にやたら入り組んでいる交差点だから信号待ちがやたら長いことでも有名だ。

「さて、まずは事情をお伺いしても?」

 やっぱりか。被害者の娘と第一発見者がひとつ屋根の下で暮らしているのをスルーするわけがないしな。

「先ほどのお願いと連動した事情があるんですよ」

 何か言おうとする天竜寺を無言で諌めて口を開く。君が口を開いたら余計なことばっか起きるんだからここは黙っててくださいよ。

「以前の事情聴取でお話した、博士を襲ったオヤジ狩りですが、彼女が言うにはこの四月から天竜寺グループで現社長の元で働いているメンバーだそうです」

「そのあたりはこちらでも掴んでいるよ。警察だって無能じゃないんだ」

「分かってます。ただ、そのメンツが彼女の世話役を任されているんですよ。で、困った天竜寺が俺の所に泣きついてきたんで、取り敢えず家に匿ってるんです」

「えっと…お世話に、なってます!」

「…異純異性交友だけは避けろよ。こっちも暇じゃないんだ」

 やっぱり傍目にはデキてる様に見えるんだろうなぁ俺ら。

「で、そっちの要件っていうのは?」

「そりゃ、こっちの天竜寺さんが博士の遺品を見せて欲しいそうで」

 こら、すぐ横でえっ?て顔すんじゃないよ。肘でつついてそう合図すると、天竜寺もやっとこっちの意図が分かったのかうんうん頷き始める。ほんと、大丈夫なのかこの子。

「確か、お父さんの手帳と日記が残ってましたよね?」

「ええ。少々、その…血液で見辛くなっていますが」

「…大丈夫です。どうしても、知りたいことがあるんです」

 微かにスカートの裾を握り締める天竜寺。こういう所は結構強い女の子なんだよな。

「何を知りたいか…は教えてくれないんでしょうね。捜査にもあまり関係なさそうだ」

「ええ。お父さんが最後に何を考えていたか知りたいんです」

「そのくらいなら私が便宜を図りましょう。その代わり、お嬢さんが調べている間は君に色々と改めて事情聴取させていただきたい」

「そのくらいなら構いませんよ」

 少々厄介かもしれないな。もしかしたら、目の前の刑事は思っていた以上に出来る奴だったのかもしれない。当たり障りのない、それでいて矛盾の無いストーリーを考えなければ。

 それから先は、ちょうど信号が変わり車が走り出したことで無言のままだった。そして十分くらい夕暮れの町並みを眺めていると、捜査本部のある警察署に到着した。

 千葉刑事が受付で色々と手続きをした後、俺たちは遺品保管庫に通された。

「ここの四番の箱に入っているのが天竜寺氏の遺品です。自宅は燃やされてしまったのでほとんど残っていませんが、財布と携帯に手帳と日記を所持していました。恐らく、手帳か日記のどちらかに重要な情報が書かれているのではないか、と思いましたが…」

 見つからなかったという事か。まあ、博士も多分不特定多数に分かるようにはしていないだろう。

「ありがとうございます。後は、一人で調べてみたいです…」

「ええ。では、時間は三十分だけでお願いします。私たちは隣の部屋に居ますので…」

 千葉刑事に促されて保管庫を出る俺。一瞬だけ振り向けば、赤黒く染まった日記をゴム手袋をした天竜寺が涙をこらえながら手に取っている姿が見えた。

 済まない。どんなに辛いことかは俺には理解してやれないけど、多分これは博士の一人娘の君にしか出来ないことだと思う。変わってやることは出来ないけど、俺はせめて俺に出来ることをやってやるさ。

「…大事に思ってるか?」

「博士に頼まれたんです。彼女を守ってほしいって」

「そりゃあ責任重大だ」

 そう。責任重大すぎて、心がポキッと折れちゃいそうなんだよな。

 そんなことを思いながら、千葉刑事に保管庫の隣の小さい部屋に通される。見た感じ取調室ってわけじゃなさそうだ。本格的に疑われてるってわけじゃなさそうでホッとする。

「さてと。まずは天竜寺博士の研究についてだ。君は想像力をエネルギーにする研究と言っていたし、実際手帳と日記にもそう書かれていた。だが、本当にそれだけだったのかな?」

「少なくとも俺に教えてくれたのはその研究だけです。頭にヘルメット付けて、豆電球を点灯させれるかなんて実験を手伝わされました」

「なら一体強盗…いや、天竜寺グループは何を狙ったと思う?」

 ついに天竜寺グループって言っちゃったよ。まあ捜査本部でも既に目をつけられているんだろうし、天竜寺と一緒に居ることの説明で俺もグループの関与を疑ってることはこの人も分かっているんだろう。

 それにしても、俺はここでどう答えるべきか。まさか注射一本でお手軽に怪人とヒーローを作れるナノマシンを作ってました、なんて言える訳もなく。かと言って知らぬ存ぜぬで通せるとは思えない。この人絶対に逃がさないとか言いそうな目してるもの。

「…前はあくまで噂だと思ってたんで言わなかったんですが、天竜寺が教えてくれましたよ。天竜寺グループの現社長は国外のマフィアや軍需産業と繋がってるらしいです。博士はその研究をグループに任せられなくなって逃げた、ってポロっと愚痴ってましたが…」

「天竜寺サクヤの裏の繋がりに関してはこちらも把握している。だが、証拠がない」

 なるほど、大体分かってきたな。多分警察は大まかな事情は既に掴んでいるんだ。だけど、ナノマシンを初めとした細かい事情や確証が無いからもう一度俺の話を聞きに来たんだろう。この千葉って刑事が俺の態度に疑問を持っているのも理由の一つかもしれないが。

「ついさっき起きたショッピングモールの事件、あの時現場で君を見た警官が居た。もしかしたら、君は天竜寺グループが何をやろうとしているか知っているのではないかな?」

 ここでいきなり切り札投入かよ!思わず視線が揺れる。しかもそれを明らかに千葉刑事に見られてるし。

「保護された一般市民の血液から薬物反応は出なかったが、薬物中毒の初期症状のような症状をした者が居たな。もしかしたら、天竜寺氏は想像力とやらの研究で何らかの薬物か、それに近い物を使っていたのではないかな?」

「…博士は無実ですよ。違法薬物なんて使っていない」

 それしか言えない。マズイな。このままじゃ逃げられそうにない。予定では天竜寺が日記と手帳を調べ終えるまで時間を稼ぐだけのつもりだったのに。

「博士の研究を元に、天竜寺グループが兵器転用を目論んでいるのは間違いないです。ショッピングモールの事件は、恐らくそれの性能実験の一環です」

「その研究が何か、と言うのは教えてくれないのかな?」

「無理ですよ。知らないもんは答えられませんから」

 嘘はついてない。俺自身、この力が一体何なのか分かっていないんだから。

 千葉刑事もこれ以上は問い詰めてくることは無かった。容疑者でもないただの学生相手に本気で取り調べすることは出来ないだろうし、これ以上問い詰められても答えられない、と言うことをわかってもらえたのかもしれない。

「…そろそろ三十分ですね。彼女を迎えに行きましょうか」

 千葉刑事はそう言って立ち上がった。

 そして俺は保管庫から泣きはらして真っ赤になった目をした天竜寺と合流し、そのまま千葉刑事の運転する車に乗って家まで帰った。最後、千葉刑事は暗に俺たちに監視を付けると言い残して警察署に戻っていった。これからは少し面倒なことになるかもしれないな。

「…今日はもう寝ようぜ。飯は作っておくから、シャワーでも浴びてこいよ」

「そうする…」

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