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COMIC-MAN  作者: ゴミナント
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コンドルと蜂

デストロン怪人はなぜ怪人二体を同時投入するのを止めてしまったんだろう?V3が最初苦戦していた理由はそれだと思うのですが…

 襲いかかってくる働き蜂もどきたちを次々と加減したパンチやキックで払い除け、天竜寺を連れて通路を突き進んでいく。ここは三階だから、逃げるには一階まで降りなくてはいけない。ただ、ナノマシンの気配は明らかに一階で待ち受けている。天竜寺を連れている以上、下手に飛び込むわけにはいかない。

「きゃっ…!!」

「天竜寺!!」

 気を抜いた瞬間にも敵の手が天竜寺の肩に触れる。クソ、こうなったからには、使いたくなかったけどあれしかないか。

「天竜寺、掴まってろ」

 ボードブレードを出し浮遊させる。そして周りの敵を払い除けて天竜寺を抱き上げ、ボードブレードの上に乗って上空を飛行していく。こうすりゃ働き蜂もどきたちには手は出せまい。ただ、天竜寺が今にも落っこちそうな不安定な足場で頑張っていることを考えれば、やっぱりこの手はあんまりいい手とは言えなかったかもしれないな。

「ちょっと我慢しろよ。このまま外に出るからな」

「大丈夫。信じてるから…」

 素直に全身を俺に預けてくれる天竜寺。これくらいやって貰えるんならば、ヒーローやってる甲斐があるってものだ。

 一気にボードブレードで屋上駐車場まで上がり、そこで一旦天竜寺を降ろす。

「こっからもう一回飛ぶけど…いいか?」

「ちょっとだけ休憩させて…」

 息を切らしてへなへなとへたり込む天竜寺。流石に一気に非日常の中に叩き込まれて参ってしまったのかもしれない。それでもここまで泣き言を言わない辺り、結構根性はあるみたいだな。

 変な所で天竜寺の評価が上がった所で、再びナノマシンの気配を感じ取る。しかも、今度は中々の速度でこっちに近づいてきている。

「悪い!」

「へ?きゃっ!?」

 咄嗟に天竜寺を抱えて飛び退くと、すぐ後ろのガラスがぶち抜いてコンドルみたいな怪人が現れた。

 やばいな。今度のコンドル怪人、結構ガタイが良さそうな外見してやがる。さっきのスピードと窓ガラスぶち抜きといい、こいつはかなり強力な素体を選んで…。

「避けたのね…さすがだわ!」

「声ふてぇよ!」

 女口調の癖に、聞こえてきたのは明らかにおっさんの声。思わずつっこんでしまった。不覚。案の定あのオカマコンドルはすっごい顔して怒り出しちゃったし。

「言ったわね!!気にしてるのよ!!」

 知らんがな。

「葦原君、今度は蜂が来る!!」

「ああ…気配とかでわかるよ…」

 外側から接近してくるナノマシンの気配。天竜寺の耳にも聞こえるくらいの蜂の羽音もあって、俺たちは完全に前後を挟み撃ちにされたことを実感する。

 まずいな。こっちも相当やばそうな相手だ。オカマコンドルだけでも十分危ないっていうのに…。

「観念しなさぁい…お姉さんが、嬢王蜂の怖さを教えてア・ゲ・ル」

 しかもこっちもオカマでした。うげぇ。

「またかよ…しゃーないな。来い!オカマブラザーズ!!」

「ムッキー!!オカマじゃないわよ!!」

「失礼な子ねっ!!」

 オカマコンドルが突撃して、後ろからオカマバチがバスケットボール大の大きさの蜂の大群を飛ばしてくる。天竜寺をかばったままじゃ戦えないが、どうやら相手の狙いは俺らしい。

「隠れてろ、天竜寺!!」

 取り敢えず天竜寺を逃がしてボードブレードを構え、蜂の大群を次々と切り落としながら俺も突っ込んでいく。このまままずはオカマコンドルの方をぶった切ろうと敵の居場所を確認して駆け出す。だが、オカマコンドルが居ると思ってボードブレードを振り下ろした先には誰もいない。

「残念でしたっ!!」

 上空に逃げていたオカマコンドルがぶっとい脚で飛び降りつつ蹴りを入れて来る。モロに食らった俺は吹っ飛び、屋上のアスファルトにボードブレードを突き刺して勢いを止める。やばい。結構効いたな。

「甘いわぁ…坊やね…」

「っ!?」

 すぐ後ろで気色悪い声が聞こえる。オカマブラザーズの蜂の方だ。

 針で刺してくるかと思ったが、なぜオカマバチはぶっとい腕と大量の脚でがっしりと俺の体をホールドしてきた。気持ち悪っ!

「私、飛ぶわ…蝶のように舞い、蜂のようにバックドロップするのよ!!」

「意味わかんねーことを…!?」

「いっきまーす!!」

「うおおおおおおお!?」

 ぐいっと全身を引っ張られ、オカマバチにホールドされたまま天高く連れて行かれる。かなりの速度だ。もう街全体が見えるほどだ。ってことは、このまま地面に叩き落とすつもりか。

「これのどこがバックドロップだよ…!?」

「私がそう言えばそうなのよ、ボ・ウ・ヤ」

 ヤバイ。すっげーうぜえ。だけど既に速度を出して地面目掛けて急降下をはじめてやがる。力の限り暴れて抵抗するが、背中側のオカマバチには手が届かない。

「バックドロップくらいなさい!」

 目の前にまでショッピングモールの屋上が迫った所でオカマバチが俺を放した。これはヤバイな。

 咄嗟に体勢を変えたが、次の瞬間には爆音と衝撃が走って俺はコンクリの床をぶち抜いてそのままショッピングモールの店内に叩き込まれていた。

「くそっ…」

 なんとか背中で着地出来たが、その分全身が激しく痛む。まあ頭から落ちて首の骨へし折られるよりかはマシか。

 それにしてもこの体、改めてすげえな。ここまでやられて死んでないなんて。

「その分…人間離れしてるってことだよなぁ…」

 全身の痛みを無視して立ち上がる。上には天竜寺が居るんだ。まだオカマブラザーズの片方だって倒せちゃいない。博士の為にも、この体が動く限りは守らねーと…。

 案の定手元から離れてたからボードブレードが俺の左腕に戻ってる。上を見れば大穴が空いてるし、戻るのは簡単だ。

「こ、来ないで…!!」

「可愛いわねぇ。ここで食べちゃいたいくらい」

「ダメよ。社長の所に持っていくんだから」

 強化された聴覚が屋上の様子を伝えてくれる。マズイな。ちょっと急ぐか。

 ボードブレードに飛び乗り、一気に天井の穴を通って屋上に飛び上がる。そして更にジャンプして飛び上がると、サッカーの要領でボードブレードの取手に蹴りを入れる。

「え…?」

「まずは一体…!キャラが濃すぎるから一人で十分なんだよ!」

 シュートが入り背中からボードブレードで貫かれたオカマバチが倒れ、爆発する。よし、ナノマシンの気配が消えた。着地した俺はそのままボードブレードを手元に呼び戻し、オカマコンドル目掛けて走る。

「やったわね!?アタシの相棒を!!」

「お前だって俺のダチを狙ったろ!!」

 羽を羽ばたかせて高速飛行し、ランニングネックブリーカーならぬフライングネックブリーカーを叩き込んでくる。どうもこのオカマブラザーズはプロレス技が得意らしいな。だが、相手が同じリングにいると思うなよ。

「おりゃっ!!」

 フライングネックブリーカーをしゃがんで回避し、ボードブレードを背中目掛けて飛ばす。

「甘いわっ!やっぱり!!まるで食後のケーキみたい!!」

 ひらりと空中で躱しそのまま俺めがけて飛びかかってくる。またしてもフライングネックブリーカーか。なら、今度は真正面からぶち抜いてやるか。

 左足を引き、腰を落す。膝のバネを利用して前方に向かって高速で飛びかかり、すれ違いざまにパンチを叩き込む。

「見切ったわ!!」

「っ…!?」

 一瞬の交錯の隙を見切られ、オカマコンドルに脚を掴まれる。更にそのまま飛び上がり、今度はバックドロップではなく両腿を掴まれた状態で逆さに持ち上げられている。更に首も肩口で支えられているから、この技は…。

「ブレーンバスターじゃなくってマッスルバスターよっ!!」

「知ってるよ!返し技もな!!」

 フリーの両足の反動で上下の体勢を入れ替える。かつての名作漫画で嫌ってほど書かれていた対策だ。この程度、十倍の強さが無くても出来るさ。

「はぁぁぁっ!!」

 狙うは屋上ではなく、俺が叩き落とされて出来た穴。そこから一気に下まで落下し、落下エネルギーと着地のエネルギーを利用してオカマコンドルの各関節にダメージを叩き込む。

「あああっ!!特に股関節が効くぅぅぅぅぅ!!」

 頭の上で不快な叫び声を上げながら爆発するオカマコンドル。後に残ったのは女物の服を着て化粧をしたやたらガチムチのおっさんだった。




 戦いを終え、疲れきった俺たちは何をする気力もなく、無言で俺の家に戻った。やることがなくて取り敢えず無言でテレビを付ける天竜寺。ニュースではちょうどショッピングモールの事件が報道されていた。何者かによる破壊工作の可能性がある、とコメンテーターが興奮混じりに叫んでいた。まあその通りなんですけどね。

「…」

 じっとテレビを見つめる天竜寺。俺もなにかしていたい気はするんだが、如何せん主に尻が痛い。せめて今日の戦いを元に漫画のアイデアをまとめるくらいはしておいたほうがいいんだが、そんな気力は残ってない。

 まさか二体同時に襲って来るとは思わなかった。一体後どのくらいの数の怪人が居るのか。そして次はいつ来るのか。ナノマシンの気配を感じればある程度近くに居ることは分かる。ただ、今日の二対一で苦戦したと言うのに、この調子で一度に何体も襲いかかられ続けて、俺は天竜寺を守りきれるのだろうか。

「…あんなふうに戦ってたんですね…」

「いきなりどうしたんだ?」

「前は、戦っているところは見えなかったので…」

 そっと自分の体を抱きしめ、天竜寺は震える肩を抑える。

「怖かったのか?」

 こくりと頷く。そりゃそうだよな。あんな化物同士の戦い、間近で見て格好良いだなんて思える奴の気が知れる。

「ごめんなさい…」

「何が?」

「私の家族のことに巻き込んで…そんな体にされてしまってまで…」

 俺は思わず自分の手を見つめる。既に色々と変わってしまったこの体。今なら変身しなくても素手で人すら殺せるだろう。

 今朝、彼女は本当に元に戻りたいのか、と俺に聞いた。戦う怖さを、その時彼女は知らなかったから、そんなこと言えたんだろうな。でも、目の前で戦う俺を見て気づいたんだろう。血こそ流していなくても、戦いが本当は目を逸らさずにはいられない程に凄惨でグロテスクな物だという事に。

「この体のことなら心配ないさ。戦いが終わって博士の研究データさえ手に入れば元に戻れる。それに、もう君の家だけの問題じゃないさ」

 テレビのニュースで放映される半壊したショッピングモールの店内。そう。これはもう天竜寺だけの問題じゃない。この街全てを巻き込んだ戦争なんだ。勝たなけりゃ街はあのショッピングモールと同じ状況になる。

「だから、あんまり気負うな。明日からはもっと色々と忙しくなるんだから、今日はもう休んだほうがいいぜ。ちゃんと守っててやるからさ」

「うん…」

 今度は赤面せずに『守る』と言えた。俺も、ヒーローが身に染みついてきたってことかな。

感想待ってます。

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