はぐれ魔物
お読みくださり有難うございます。じわじわとブクマも増え嬉しいかぎりです。
「おかえりなさいませ、我が愛しのハルバート様。」
満面の笑みを浮かべ、エリトリアの隣に座るレティアを見て固まるハルバートは金魚のように口をパクパクさせている。
「ど、どうして家に……。」
ようやく絞り出した声も、動揺の色を隠せない。
「おかえりハルバート。レティアさんが料理を作ってくれたのよ。」
テーブルの上を見ると、ところせましと料理が並べられている。うちにこんなに食材はなかったはずだ。
「私の家から食材を持ってきましたので、こちらの食材は減ってません。」
俺の心を読んだかのように、レティアがつげる。
「こんな時間に、両親が心配するぞ。」
もう、夜遅く他の家の灯りもポツポツと見えるだけになっている。いくら戦闘能力の高い竜人といえど、女の子がこんな時間に出かけていれば両親も心配しているだろう、そう思ってだした言葉だが、その言葉を聞きレティアの表情が曇る。
「両親は、討伐隊でバンドー砦にいるから滅多に帰って来ないから。家には私だけなんです。」
バンドー砦というのは、100年前の英雄バンドーさんが解放した地域の一つに建てられた砦で、討伐隊はそこを拠点にしている。山を越えるのに2日はかかるので、こまめに帰ってくる人の方が珍しくマルーダ夫妻は珍しい方だろう。
食材は、いつ両親が帰って来てもいいように買い込んでいるみたいだ。討伐隊の給料はいいからな。
「まあ!それは寂しいわね……。それに女の子が一人で家にいるのも、不用心だわ。」
俺はとりあえず椅子に腰掛け、母エリトリアの向かいに座る。エリトリアは、何か言ってやれという雰囲気を出しているが、母よ、知っているだろう俺がヘタレだということを。
「と、とりあえずお腹が空いたから食べてもいいかな?」
フォークとナイフを手に取り、いかにも早く食べたいですというアピールをする俺に母は嘆息する。レティアが頷くのを確認して、目の前にある魚の塩焼きを口にする。
「うっ、旨い!!なんて絶妙な塩加減なんだ!それに魚の臭みを消すための香草も絶妙な加減だ!」
まるで料理番組のコメントみたいなことを言いながら、次々と料理を口に運ぶ。
「この鶏肉にかけられたソースも旨いな。意外と料理上手なんだなレティア。」
失礼な発言だが、あの高飛車な性格からは想像できない優しい味のする料理だ。
「貴方の為に作りましたから……。」
昼間との差に唖然とする俺の前では、ニヤニヤと笑っているエリトリアの顔がある。
「あら、よかったわねハルバート。母さんも食べていいかしら。」
俺はエリトリアが好きな魚を選び、エリトリアに食べさせる。
「ん~!美味しいわ!!こんなに料理が上手い子が嫁いでくれたら母さん嬉しいわ~。」
その言葉を聞きレティアは頬を赤くし、尻尾をぶんぶんと犬のように振っている。俺はいきなり何をのたまうのかと、ジロリと母を見るがこちらの姿が見えていない為効果は無しだ。
「そうだわ!レティアさん、両親が戻るまではここで暮らさない?お部屋も一つ余ってるし、何よりハルバートがバイトに行ってるときは私も寂しいから。ねっ?そうしましょ?」
母の発言に俺が目を白黒させている間に、レティアは立ち上がり母の手を握る。
「よろしくお願いします、お母様!」
こうして我が家に竜人の少女レティアが、居候することとなった。母に寂しいと言われてしまっては、俺としては頷くしかなかった。まあ、いいんだよ別に?美少女と一つ屋根の下何て、最高だし。
所狭しと並べられた料理は、あまりの旨さにあっという間になくなってしまった。俺が食器を洗おうとすると、「私が洗いますから。」とレティアが全てをしてくれる。
「いい子ね~。ちゃんと守ってあげなきゃねハルバート。」
「わかってるよ母さん。」
鼻歌を歌いながら、食器を洗うレティアの後姿を見ながら俺とエリトリアは目を細める。
(ああ。エアリスはなんていうんだろうな……。)
事情を知った時のエアリスの反応に、一抹の不安を覚えながら俺は眠りについた。翌朝、目が覚めた俺は体に違和感を感じる。
(なんだ?)
アマリアードにも四季はあり、今は秋だ。ヒンヤリと体に感じる冷たさは、決して朝の冷え込みによるものではないとわかる。ペタッと体の冷たい部分に触れると、ザラザラとした手触りを感じる。不思議に思い撫で回していると、「んッ。」と艶かしい声が聞こえた。弾けるようにベッドから転げ落ちた音で、俺の隣で寝ていたレティアが目をこすりながら、起き上がる。
「お、お前!隣の部屋で寝てたんじゃないのか!!」
大きな声でレティアを指差し叫ぶ俺をよそにレティアは呑気にアクビをしている。
「フワア。寒かったから、一緒に寝れば暖まるかなぁって思って。」
「寒いなら服を着ろ!」
このアマリアードの下着は男女共に、タンクトップと短パンといったものだが、レティアは少し大きめのやつを着ているので、先程からチラチラと色んな所が見えそうでヤバい。
「え~……。見てもいいんだよ?」
レティアは、俺の反応を見てわざとらしく前屈みになってよって来る。
(まったく!この世界にブラジャーはないのか!けしからん。)
などと思いながらも、見てしまうのが男だ。
「あらあら。朝から元気ねぇ~。」
既に目と鼻の距離に来ていた、俺とレティアの顔が弾けるように離れる。
(見えてないのになぜわかる!)
焦りながらも、心の中で突っ込む俺とワタワタとしてベッドに戻るレティア、ニヤニヤと笑うエリトリア。こうして、朝から精神的に疲れる状況に我が家はあった。
学園に向かう道中も、レティアは俺に寄り添いながら歩くため他の生徒たちからは冷たい視線を浴びている。
「あっ!?ハル君!おはよう…。その子は?」
一番会いたくなかった人物に早速見つかってしまう。エアリスはレティアに視線を送り、その次に俺の手に絡みつくレティアの手を見る。
「貴女は確かAクラスのエアリスさん。私のご主人様とは確か幼馴染でしたかしら。」
レティアはどこか勝ち誇った顔でエアリスを見る。
「あら。そういうあなたは竜人の落ちこぼれと言われるレティアさん、でしたっけ?」
冷たい視線で、レティアの顔を見るエアリス。今にも一触即発の雰囲気が立ち込め周囲に人が集まる。
「なんであんな落ちこぼれが……。」
「修羅場よ!修羅場っ!」
など、周囲の野次馬から声が聞こえる。当のハルバートは頭を抱え、どう説明すべきか考え込む。
そんな中、カーンカーンというけたたましい鐘の音が街中に響く。
(この鐘の音は!)
エアリスもレティアも周囲の野次馬達も、鐘の音を聞き一瞬硬直した後騒ぎ出す。
「緊急事態だ!!皆!!学園の中に早く入れ!!」
一人の教師が大声でそういうと皆が一様に学園の中へと走り出す。学園の周囲にある民家も、次々と扉が閉められ人っ子一人いなくなってしまう。
「ハル君!」
「ご主人様!!」
俺はそんな街の中を、学園とは逆の方に走る。
「母さんが心配だ!二人は先に学園に行っていろ!!」
俺は二人が頷くのを確認して、走る速度を上げる。けたたましい鐘の音はいまだ鳴り響き、魔物が付近に現れたことを告げている。
人類が最後の拠点としたこの地に、原因は不明だが魔物が湧くことはない。だが、年に2,3回なにかが原因ではぐれたのであろう魔物がこの街の付近までやってくるのだ。
(うちの近くから煙が!くそっ!!間に合えよ!!)
走る速度をさらに上げる、尋常でない脚力で地面が抉れる。凄まじいスピードで、我が家へと辿り着いたハルバートは家の中に入る。
「母さん!」
「ハルバート!!」
エリトリアの声が聞こえホッとしたのも束の間、近くから爆発音が聞こえる。恐らく付近で一般兵と魔物が戦闘を行っているのだろう。
俺はエリトリアを抱え、走り出そうとするがエリトリアに止められる。
「待って!ハルバート、剣を!!」
俺は壁に掛けられている、父の形見である剣と母が使うことは無くなった剣を取り走り出した。家の外へ飛び出した俺は、一気に跳躍し岩壁を飛び下りる。上を見れば、一般兵が10名ほどと魔物が一匹戦っているのが目に入る。
(どうやら一般兵には荷が重そうだ。)
数は多いが、道幅が狭い場所なので取り囲むこともできない。魔法もあまり効果が無いようで、このままではまずいだろう。
「行きなさいハルバート。【英雄】のギフトを得た貴方ならきっと勝てるわ。私なら大丈夫。」
俺はエリトリアの言葉に返事をし、エリトリアを近くの物陰に降ろす。
「待ってて母さん。すぐに戻ってくるから!」
俺は父と母の剣を両手に握りしめ、再び岩壁の上へと走り出した。
じわじわと更新していきますのでよろしくお願いします。