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アマリアード剣魔術学園の落ちこぼれ  作者: セル・ライト
3/6

開花

お読みくださりありがとうございます。

突然だが、このアマリアードは一夫多妻制である。 いい響きだね。

アマリアードの死亡率は高く、魔物に対抗すべく数を増やそうと一夫多妻制となった。

当然、強く優秀な遺伝子を産みたいと思う女性が多いため、強い男は見てくれが悪くてもモテる。

そういう訳で俺は強くなって、ハーレムを作ることを誓います。

俺が新たな決意を誓うころ、目の前の竜人リュウガは腹を抱えてゲラゲラとわらっていた。


「ハハハハハ!あー本当に面白いね君!まぁ、君の言うことも一理あるかな?残念だけど諦めよう。」


 リュウガはよほど面白かったのだろ、まだ腹を抱え笑いながら演習場を出ていった。まだ、授業は終わってないんだが。

 一方、俺に対して女子の視線はただ一人を除いて厳しい。まぁ、その一人は言わなくても分かるだろう。 この視線はハーレム宣言に対しての侮蔑の視線ではなく、ドーランを倒したとはいえいまだ落ちこぼれのレッテルの方が強く、お前には無理だという視線の方だろう。


「ハイハーイ、皆さん授業に戻りましょうね~。」


 のんびりとした口調で、ウサ耳を生やしたラビット族の女性教師メンデルが周囲の生徒をかき分けやってくる。身長は小さく愛くるしい瞳で若く見えるがもう30過ぎ・・・グほッ。


「なにか失礼なことを考えてませんでしたか?ハルバート君?」


 ニコニコと笑顔だが、俺の腹には拳が深く刺さっている。


「い、いえ……。なんでもないです。」


 彼女は幼い見た目だが、以前は討伐隊に組まれていた優秀な戦士だ。実際、今も一瞬で距離を詰められ反応できなかった。


 「うーん。Aクラスでも下っ端のドーラン君とはいえ、ギフトなしで勝ってしまうとは。なにかギフトでも開花しましたか?」


 ギフトは極めてまれだが後天的に身に付けることもある。そして、ギフトなしでギフト持ちに勝つことも極めてまれなのだ。

 当然、何かギフトを得たのかもしれないとメンデルが思うのは無理もない。今までハルバートは、散々にやられていたのだから。


「まぁ、今度調べて見ましょう。じゃあ、私はドーラン君を保健室に連れて行きますので、皆さんは授業を続けて下さい。あっ、魔法は禁止ですよ~♪」


 自分の体重の倍はあるだろうドーランの首根っこを片手で掴み、ズルズルと引きずって演習場を出ていくメンデルを見送ってそれぞれが自分の相手と再び組手を始める。

 ハルバートの記憶では、友達と呼べるのはエアリスだけ、つまりはボッチ君だ。そのエアリスも、組んでいた相手に連れられ組手を始めていたので、俺は仕方なく演習場の隅で素振りを始めた。

 キラリと頬をつたう一筋の滴は、きっと汗だろうと思いたかった。


 合同授業も終わり、一日の授業が終わった俺は記憶を頼りに我が家へと戻る。

 険しい山に3方を囲まれたアマリアードは、決して広大な土地とは言えず、30万人全ての人が平地では暮らせず、いつかテレビで見た世界遺産のように昔さながら洞窟に住居を構えている人も少なくない。

 ハルバートの家、自分自身の家になる場所もそこにあった。


 カタン、と風が防げればましだろうと思われる隙間だらけの木でできた扉を開く。岩をくりぬいた、複数の小さな窓から夕陽が射し込んでいて照明を必要としない程度の灯りはある。

 その灯りの中心に、一人椅子に座りコップを手に佇む女性の姿が目に入る。


「おかえりハルバート。ただ、扉を開ける前は声をかけなさい。いつも言ってるでしょう?」

「ただいま母さん。次からは気をつけるよ。」


 椅子に座る女性はハルバートの母親で、今日からは俺の母親になる女性だ。名前はエリトリア。30代後半だが、20代後半と言われても納得しそうだ。

 だが、彼女の目に俺の姿が見えることはない。エリトリアはかつては父と共に討伐隊として働いていた。互いにギフトは持たなかったが、かなり優秀な戦士と言われ討伐隊に抜擢されたらしい。

 そして、10年前。ハルバートがまだ5歳の頃、父は死に母は右腕と視力を失った。その日から5歳のハルバートの人生はめまぐるしいものになった。

 エリトリアの代わりに炊事、洗濯、食事の用意を、母の目として母の世話をする毎日だった。勿論、隣に住むエアリスやエアリスの両親マルーダ夫妻も手伝ってくれた。生活費は両親が貯蓄していたものを切り崩し、3年は何とかなったが底をつくのが見えだしたころには街の数少ない酒場に頼みこみ、バイトをして生活費に充てていた。だが働いていたのはハルバートだけではない。母であるエリトリアも、右腕と視力を失ったその日に開花したギフト【才能を視る力】により、定期的に訪れるギフト検査の検査要員として働いていたのでなんとかやりくりは出来ている。

 

「少し陽も落ちてきたから、蝋燭に火を灯すよ。」


 俺はエリトリアに告げかまどの火を、燭台に乗せられた蝋燭へとつけていく。この一連の動作はハルバートの記憶というよりは、身体が覚えているのだろう。


「いつもありがとう、ハルバート。」

「気にしなくていいから。軽く食事を作ってからバイトに行ってくるよ。」


 自慢じゃないが、転生する前の俺は料理なんかしたことなんてないが、ハルバートの身体が勝手に動き手際よく料理が作られていく。できた料理を一つずつ並べ、エリトリアの手を取り一つ一つの場所を教える。

その時、俺の手がこれでもかと強く握られた。


「……どうしたの母さん?」


エリトリアに何か異変が起きたと思い問いかける。だが聞こえてきた返答は思わぬものだった。


「ああ…!ああ…!なんてこと…!!なんてことなのっ…!ハルバート!!おめでとうハルバート!!貴方にギフトが!!二つも!!」


小さな唇をフルフルと震わせ、ポロポロと両目からは涙が溢れている。


(は?ぎふと?)


 言われた言葉を上手く飲み込めず、軽く呆然としている俺の頭を左手で引き寄せ自らの胸に抱くエリトリア。親子なので劣情はわかない。


「ああっ!それも一つは凄いギフトよ!」


興奮して俺の頭をさらに胸に押し付ける。


(く、くるしいっ!?)


パンパンとエリトリアの背中を二度叩き、ようやく放してもらえるがまだ興奮しているようだ。


「ちょっと、落ち着いて母さん!」


俺がエリトリアの両肩を掴むことでようやく落ち着きを取り戻す。


「ご、ごめんなさいハルバート。でも!凄いギフトよ!一つは【努力】、これは聞いたことはないのだけれど、もう一つは凄いわよ!なんと、【英雄】よ!」


(英雄……。)


 ギフト【英雄】、このギフトを持つ者は以前にもいた。たった一人、それも100年も前の事だ。この街で知らない者はいないだろう英雄譚に出てくるギフトだ。


 100年前、一人の青年がふらりとこの街に現れた。黒い髪はさほど珍しくはないが、黒目というのは珍しく、しかもその男は言葉が通じなかった。最初は魔物が変身して、この街にやってきたのかと疑われていたが暴れるでもなく大人しく過ごす男はやがてこの街に住みついた。そして定期的なギフト検査で判明した青年が持つギフト【英雄】。青年は特例として、何の訓練もなしに討伐隊に組み込まれエリアボスと呼ばれる、強力な魔物を一人で二匹倒しそのエリアボスが治めていた地域を魔物の手から解放したのだ。

 青年は不幸にも死の病にかかり、若くして死んだみたいだが、この話の肝は青年ではない。ギフト【英雄】だ。

 そう、何の訓練もしていない男が強力なエリアボスを二匹、一人で倒したのだ。それほどまでにこの【英雄】というギフトは強力なのだ。エリトリアが興奮するのも無理はない。


「そうだわ!早くマリーダさんにも教えないと!」


言いながら立ち上がるエリトリアを、俺は引き留める。


「待って母さん!……ギフトの事はまだ誰にも言わないで欲しい。」

「どうして?」

「才能は磨かないと光らないものだよ母さん。俺はもっと努力して、その英雄というギフトを磨きたい。それに今俺についている落ちこぼれのレッテルは、そう簡単には剥がれないし、とにかくまずは、学園ランキング戦の頂点に立ってみせるよ!」


エリトリアは納得してくれたのか椅子に座りなおす。


「そう、よね。わかったわ。このことは誰にも言わない。ハルバート、頑張って!」


俺は頷き、エリトリアにバイトに行くことを告げ家を出る。


(ドーランに勝てたのはギフトのお陰か?なんにせよ英雄か……。面白くなってきた!)


俺は弾む心をそのままに、街の酒場へと走り出した。

お読みくださりありがとうございます。評価なんぞもポチって頂けると嬉しいです。

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