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アマリアード剣魔術学園の落ちこぼれ  作者: セル・ライト
2/6

合同授業

都合よく進めていきます。

 俺が新たな人生に決意表明をしたときガラガラと保健室の扉が開き、一人の少女が入ってきた。


「ハル君!……大丈夫?」


 鏡の前に立ち、握り拳を付け決めポーズをとっている、俺の痛い姿に問われたのか、もしくは俺のケガを心配してくれた問いかけなのか、どちらともとれる微妙なニュアンスで告げる少女を慌ててハルバートの記憶から探し出す。


 艶やかな金髪ロングストレートにキリリと整った眉、スラリと伸びた高い鼻に可愛らしい桜色の小さな唇。青く透き通る瞳に長く尖った耳。身長はハルバートよりも少し高く170cm程だろうか。すらりと伸びた手足に透き通るような白い肌。慎ましい胸だが特に小さいとも感じない。なにわともあれ、完璧な美少女だ。


「どうしたの?」


 きつそうな顔立ちからは想像できない優しげな声が、心地よく俺の耳に届く。


「あっ、いや、なんでもないよエアリス。」


 俺は少しドギマギしながら返答する。

 エアリスは俺の家の隣に住む、エルフ族の夫婦の娘で、いわゆる幼馴染というやつだ。


(ウオオオオ!リアルエルフだ!めっちゃ可愛い!!)


 ハルバートの記憶を引き継いでいるとはいえ、忠治自身は初めてエルフを見たのでテンションが上がる。


「大丈夫?なんか顔紅いよ?」


 テンションが上がったせいで、顔が紅くなったのだろう。などと考えていると、エアリスは近くに寄ってきて俺の額を自らの額に当てた。


「うーん、熱はないみたい。」


(ウオオオオオ!こんな美少女エルフが目と鼻の距離にっ!ヤバい、もう死んでもいいかも。……って駄目に決まってるだろ!)


「い、イヤ!大丈夫だから!!エアリスがあんまりにも可愛いからっ……って何言ってんだろ俺、あはは。」


 バッと、エアリスの肩を両手で押し距離をとりながら俺が早口でしゃべりたてる。エアリスは一瞬不思議そうな顔をした後、俺が言った言葉を思い出すとほんのりと頬を朱に染め「うれしい」っと小さく呟いた。


(ハルバート。落ちこぼれの癖にリア充だったんだな……。)


 保健室が桃色の空気に包まれたとき、記憶からエアリスの事を思い出す。


「エアリスはAクラスだろ?なんでここに?」


 アマリアード剣魔術学園は成績によってクラスが変わる。AからFまでのクラスがあり、Aクラスから順に成績が落ちていく。ハルバートはGがあればGに近いFクラスだ。

 そんなハルバートとは違いエアリスは成績優秀でさらにギフトを3つも持つ、【トリプル】と呼ばれる存在だ。彼女が持つギフトは貴重なもので、身体能力向上、水属性強化、最も貴重なのは回復量上昇というギフトだ。彼女が扱う水魔法は、回復系の魔法が多く、属性強化に加え回復量上昇というギフトまで加わるので将来は有望視されている。

 当然クラスが違えば、受ける授業の時間が違うはずなのだが。


「今日はAクラスとFクラスの合同授業があるでしょ。その時に聞いたのよ。召喚に失敗して、爆発に巻き込まれて保健室へ運ばれたって。」


 そういうと彼女は再び心配そうな顔をして俺を見る。


「そっか、忘れてた。あと心配かけてごめん、もう大丈夫だから。授業はもう終わったのかな?」

「まだやってるよ。出るの?またドーランに……」

「出るよ。それに今日は大丈夫だよ。……多分。」


 エアリスの言葉を最後まで言わさず俺は保健室の扉を開ける。ドーランというのはAクラスの豹人で、今まで合同授業でことあるごとにハルバートをボロボロにしてきた奴だ。

 今日はそのドーランの鼻を明かしてやろう。俺は意気揚々と合同授業行っているだろう演習場へと歩き出した。


「ちょっと!まってよ~~。!」



 置いて行かれたことで拗ねたエアリスを宥めながら演習場に着くと、一人の豹人の男が声を掛けてきた。


「よぉ~落ちこぼれ。召喚に失敗したんだって?ガハハハッ!笑わせてくれるぜッ!」


 身長180cmはある豹の顔をした男は、しなやかな体つきをしていて痩せマッチョな感じだ。ハルバートの記憶によればこいつは【ダブル】、風属性強化に速度上昇だったはず。


「一応成功はしてるんだが……。」


 ハルバートの名誉の為に訂正を入れるが全く聞いてない。ドーランは俺を無視して,エアリスへと歩みより話しかける。


「エアリス。こんな落ちこぼれのどこがいいんだ?いい加減目をさませ。」

「目なら覚めてるわよ。臭いから口を近づけないでくれるかしら?」


 エアリスは先程と同一人物かと疑うほどの冷たい声音で、ドーランに答える。チッと舌打ちしたドーランは、再び俺へと向き直りニヤリと口をゆがめる。


「落ちこぼれ。今日も相手してやるよ!」


その言葉を引き金に近くにいた者達は、サッと場所を作るために動き出す。


(……妙な連帯感持ってんじゃねえよ。)


心の中でハアっとため息をつき、俺は手近にある木剣をとり構える。ただそれだけで周囲がザワメク。


「オイオイ。今日は随分とやる気だなぁ?いつもはビビッて腰が引けてるっていうのに。」


ドーランの嘲笑を聞きもせず俺は何度か素振りをする。


(やっぱりな。)


 俺はその数度の素振りで確信を得た。ハルバートは見た目に比べかなり体が鍛えられている。なのになぜ落ちこぼれなのか。それはハルバートの心の弱さにあった。

 誰かを傷つけてしまうのではないか?誰かを殺してしまうのではないか?という優しさがハルバートの実力を抑えていたのだ。

 その優しさも戦うためには必要なのかもしれないが、ただ優しすぎてはいつか大事な者を失っては遅い。俺はそれをよく知っている。だから、戦う。この先大事な者を守るために。


「テメェ。どうやら本気らしいな。おもしれぇ、遊んでやるぜ!」


 ドーランは激しく吠えると自らの爪を武器とし駆け出した。剣魔術学校とはあるが使う武器は個人の自由だ。一瞬で距離を詰められ俺を引き裂こうと両手をクロスさせるが、空を切る。


 「なっ!?」

 

俺に攻撃を躱され、ドーランは驚きの表情を浮かべる。いや、ドーランだけではなくエアリスや周りの者までもが。


(おいおい。いくら早いとはいえ何のフェイントもない正面からの攻撃を躱しただけだぞ?)


 皆のあまりの驚き様に俺は苦笑する。


(それにしてもこの体はいいな。思った通りに動くしキレもいい。ったく、実力を隠しだろうハルバート。)


 続けて攻撃を繰り出すドーランの動きを見る。


(確かに速い。だがそれだけだな。攻撃が単調だし、何よりも速さに自分自身がついていけてない。ギフトに溺れすぎだ。)


冷静に攻撃をよけながらドーランの観察を続ける俺。


(あっ、今、カウンターで一発入れれたなぁ。爺ちゃんが見てたら殴られてるな。)


 前世で俺に古流剣術を教えてくれた祖父の顔を思い出す、ニヤリと笑みを浮かべる俺を見てドーランは自分が笑われたと思い顔を真っ赤にして激しく攻撃を繰り出している。


(頭に血が上りすぎだろ。あ~あ~動きも鈍くなってきたし、こんな奴がよくAランクになれたな?)


攻撃側で一番辛いのは空振りをすること。相手に傷もつけれず、自分の体力を無駄に削っているだけだから当然だろう。


(そろそろ潮時かな?)


 そう思ったところで、腕に衝撃が走る。


 「グッ!?」


(なんだ?何をした?)


軽く動揺する俺に、ニヤリとドーランは笑みを浮かべる。


「汚いわよドーラン!今は武技の授業で魔術は禁止よっ!!」

「ウルセェッ!!俺が!俺が!落ちこぼれなんかに負けるかぁ~~!!」


不可視の攻撃が次々と俺の体に当たる。


 「痛ッ!くそッ!見えないってのは厄介だな!!」


見えない攻撃を、とにかく的を絞らせないように動き躱す。


(魔法か……。流石に魔法は教えてくれなかったからなぁ。まあ、違う意味で魔法使いでしたけど。)


自虐ネタを含めながら落ち着きを取り戻した俺は、木剣を構えドーランへと距離を詰めようとする。


(手の平から、なんか出てるみたいだな。手の動きを見れば!)


俺はドーランの手の動きをみて魔法を躱しながら近づいていく。


「何故だッ!何故当たらんッ!えええいッ眷属よッ!!噛み殺せッ!」


ドーランの言葉と共に大型犬ほどの豹が、突如現れ俺の足を噛み千切らんとばかりに迫ってくる。が、俺はその豹を大きな跳躍で躱し、さらにドーランの背後を取り隙だらけのドーランへと木剣を一瞬のうちに5発叩きつけ、ドーランの意識を奪ったのだった。


 フウッと一息つき汗を拭う。辺りは不気味なくらいに静まり返っていた。

 数秒後、パンパンパンと拍手が聞こえ一人の竜人の男が現れる。顔は普通の人間の顔だが、腕や足、服の隙間からは鱗のようなものが見え、臀部からは竜の尻尾が生えている。


「見事な戦いだったよ。まさか、ギフトなしでドーランに勝つとはね。」


竜人族の男は人懐っこい笑顔で俺に近付いてくる。


「あんたは確か……【セブンス】のリュウガ。」


ハルバートの記憶を頼り、目の前に立つ竜人のリュウガに目をやる。

リュウガはセブンスと呼ばれ、7つのギフトを持つ前回の学園ランキング戦を一年生ながらにして頂点についた、エリート中のエリートだ。


「あの落ちこぼれがこんな実力を隠してたなんて、驚いたよ。それに君はまだ本気じゃないでしょ?」


俺はリュウガの言葉に肯定も否定もせずにただ黙ったままだった。


「ねえ?君はどこかのチームに入っているのかな?もしよかったら僕らのチームに入らないかい?」


その瞬間静まり返っていた周りの者が、ざわめきだす。

チームとは、学園ランキング戦のチーム戦で共に戦うもの、5人1組の班のことだ。このチームというのは結構重要な意味を持ち、学園ランキング戦で好成績を収めたチームは高確率で、卒業後も同じチームとして活動することになる。いわば下手をすれば一生、同じ顔を毎日見続けることになる。


「悪いが断る。」


俺は即答するがリュウガが食い下がる。


「え~~うちより強いチームはないよ?」

「そうだろうな。」


だったらなんでと問いかけてくるリュウガに俺は力強く答える。


「何が悲しくて野郎とチームを組まんといけんのだ!俺は可愛い女の子たちとチームを組む!!」


力強く答えた俺の背中からドオン!!という効果音が聞こえたそうな、聞こえなかったそうな。

お読みくださりありがとうございます。

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