6、港町マゼス
「ね、まだなの?」
「まだ一時間しか経ってないぞ。」
「腹へった、お菓子食べたい。」
「我侭言うな。」
「悪い人、ケチ。」
教服着て車内でごろごろしながら俺の腹をドンドン叩くレイフィ、実にだらしない。
どうしてこうなった。
旅の時間をより快適に過ごしたいために、今朝俺は教団が経営する魔法工学ショップに訪れ、中型キャンピングカーを買った、スピードはバイクより劣るが一応居住設備完備のフルコンバージョンタイプ、車内空間もそれなりに広い。小型の反重力式浮遊機関六基搭載、技術面はバイクより進んているので値段も桁違いの金貨20枚。
すると市場で食料を確保する時、セフィリアが突如現れ、中立国エフェテルに連れていけっとレイフィを押し付けた、あそこで諜報活動兼ねてのエージェント修行をするらしい。俺の要求を関する詔書も見せたので、流石に断り辛い。
まぁ、旅もロリ連れでごと。
長い海岸線を持つリンティスにして、聖都の北東に位置する港町マゼスはその軍事的要の一つ、聖都に見えない軍事施設が勢揃い、その同時に空港や海港が備える故に各国との接点でもある、フェシエル大陸の西端にあるエフェテルに行きたいのなら、大陸中央を占める貿易国マリシャスを通過より飛空艇を乗た方か遥かに早い。
「シスターが怒らないって言ったのに……」
ブンブンするレイフィはまだ処罰の関して根を持っている、衆目に晒して尚お漏らすから、無理もないか。幸い俺の腹をドンドン叩くのか気に入るらしい、この贅肉に感謝する機会があるなど考えもしながった。
聖都から発って約一時間半、俺たちは港町マゼスに着いた、キャンピングカーの限界スピードは150キロですか、荷物と設備が積んてるのでフルスピード稼働は無理がある、精々100キロを出すどころ。
潮風の香りを漂うマゼスに入った後、気持よさを感じる、間隔の広い建築物が皆低くてシンプルな色で彩り、露台の花はまだそのシンプルさに色彩を綴る、如何にも港町的な雰囲気。丸いアーチを潜り抜けば幅広い港に着く、漁船と客船混じりの海港に、魚屋さんの声が相次ぐ、あんまり軍事的色に染められないのは、軍事施設が街離れにあるでしょう。
「大人は銀貨80枚、お子様は銀貨50枚になります。」
代理店にエフェテルまでのチケットに買いましたか、これもまだ大陸横断に相応しい価格。余談だか、金を支払う時レイフィもやる気満々で財布に持ち出したが、子供に金を払うなんで流石にまずいから止めてた、後で財布の中身をチラ見で確かめ、小さな財布の中に金貨がぎっしり詰まっている、凡そ50枚な所。
それはさっておき、腹減りに騒がすレイフィを慰めるため、「海月亭」ど言う評判の良い海鮮料理専門店を選択して昼飯をした。
「お通しはイクラ、前菜は鰤刺身のオイル漬け、メインは鮭の窯焼き、ワインは任せ。」
速やかにオーダーを終え、俺はレイフィに尋ねる。
「レイフィちゃんはなにかいい?」
「烏賊の塩辛と、アジフライ、あとご飯。」
あれ?ここ中世ヨーロッパに当たる異世界じゃないの?和食ぽいのか聞き間違いか?
「大好物!」
満足気に鼻を上げるレイフィでした。
あなたの大好物がオッサン臭いだよレイフィちゃん。
構ってもしょうかないから俺は目を逸らす、海月亭の客が少なくないか騒がしくない、逆に隣の酒場には船乗り達の騒音が絶えない、此処は案外いい選択かもしれない。
先ずはお通しのイクラ、シャーキーとした食感、おまけに生臭さがない、漬けにちゃんと工夫を入れたと見える、小皿だか不満がない。後は前菜、鰤の刺身を特製ソースで軽く漬けたもの、ベースはオリーブオイル、後はガーリックやジンジャーのおろしぐらいかな、和製カルパッチョみたいな物に見えるか旨いから良にしましょう。最後はメインディッシュ、鮭を陶板に載せてハーブ類と共に石窯で焼いた物、力強い赤身魚にさっぱりしたスパイシーさ、白ワインとの相性がかなり良い。
一方塩辛とアジフライとご飯を貪るのが我らのレイフィちゃんでした。
「眠い…」
食後、なんとかあくびしながらふらふらするレイフィをセフィリアが言ったセーフハウスに連れてきた、それは広い露台を持つ小さな二階建て、経費節約のつもりかもしれないか、寝室もベッドも只一つ、生活機能の試しとして今夜は露宿でもするか。
ベッドに背に着く途端、レイフィは猫のように布団を巻き眠りに着いた、この様子だと三四時間では起きないはず。すると虚空から聖晶石が出現し、一定パターンで緩く飛び廻る、どうやら警戒システムとしての機能も備えるらしい、実に便利。
飛空艇の便は明朝の9時、今日はたっぷり散策しよう。
マゼスは各国との接点故に各国の文化や旅人が交わる、戒めが強い聖都と違い、行商人と吟遊詩人は相次ぎ、街に活気が溢れている、大道芸人も屡々見える。
「… Z moich snow uchiekasz nad ranem、cierpka jak agrest stodka jak bez…」
目的がないふらふらしてた俺の周りに騒音が突如沈み込み、淀む空気も澄んている様に感じる。それは少し尖って清らかな音、そして哀れみに満ちた詩、俺は思わず足を止めだ。
「…Chce snic czarne loki splatane、fiolkowe oczy mokre od lez…」
リュート一つで悲しさと恋しさの調べを爪弾くのは、紅色のベースに金色刺繍のローブを掛ける乙女、薄い金色の長髪が纏わる面影がまだ成熟さと青さの垣間に揺れる。そして一番目が立つのは薄紅の肌と尖耳、エルフだ。
「インスフィア語 を 獲得した」
なるほど、道理で分からない訳、カンストしよう。
「…夢覚め、夜明けに一人、スグリの苦さ、リラの甘み…」
吟遊詩人の詩は伝説や戦記から改編するごとが多い、この悲しみの詩もその一つかも知れん。
「夢に絡むその黒髪、濡れた菫色の瞳…」
旋律から聞けば先の繰り返し、そして吟遊詩人は続く。「あなたは運命なのか、偶然なのか、分からない、あの願いを口にした時、くれたのは偽りの愛か?」
リフレインを繰り返し、詩はここに幕を引いた、暫くの静寂を経ち、拍手の波が迸る。
「素晴らし歌声でしたよ。」
楽しげに客から貰ったコインを財布に収める彼女に、俺は料金を払う。
「編曲も内容に合っている、実によいセンスでした。」
「ありがとうございます、それは過ぎたご褒美です、この詩は『ザ・ウルヴェンストーム』と言う古来の詩、分かりやすく訳せば『狼の吹雪』です、曲も伝承されしもの、あたしが作った物ではありません、初めて聞くお方には理解し辛いでしょう。」
料金どして3枚の銀貨を受け取り、彼女は語る。
何かに思いついたように彼女は暫しの停頓を経ち、離れかけた俺に話を掛ける。
「先言ったよね、詩の内容に合う曲だと、もしかして詩の内容がおわかりですか?」
「あ、しまった…」
俺は自分の不用心に舌を打つ。
「そう、インスフィア語を分かる行商人さん。」
彼女の笑顔に何かを隠している。
「降参降参、お察しの通りです。」
手上げた。
「此処で話すのも何だけど、館に来てもらえるのがしら?」
「なにか問題でも?」
明らかに怪しい。
「はい、伺い事があります。」
うわ、笑顔が一段と輝いている。
「早めに終わらる様にお願いします、まだ子供の面倒を見なくではいけないので。」
ナディアより強引だなこの人、この世界のエルフ皆そうなのか。
彼女が言っていた館は街離ればすぐに着く洋館、かなりの年代物で古風が漂う。
「お茶をどうぞ。」
香るハーブティー、喉を潤す。
「インスフィア語を分かる人なんでまだいるとは、嬉しくでつい。」
「これほど強引な誘いですか、エルフはもっとエレガントな種族だと思いますが。」
「あれ…変ですね、確かにカモフラージュをしたのですか、どうやって見破ったの?」
見破るどころか、最初からそう見えるのはやっぱりステータスのせいかな。
「仕方ないですね、改めて自己紹介をしましょう、ブラッディエルフのライエと申します、宜しくお願い致します。」
細めた瞼を開き、綺麗な睫毛に隠されたのは、赤く光るルビのような瞳、なるほど、ブラッディエルフ、ナディアが属すナイトエルフとは違うようだな。
「それはさっておき、本題に入りましょう。」
ライエは一頁の羊皮紙を取り出した、書いた文字の墨は既に羊皮紙の深層まで滲む。
「これの解読を願いたい。」
「我が親愛なる娘よ、黄金の印に従い、翡翠の森へ行きなさい。水晶の棺桶を破け、さすれば白金の道が現れり、サファイヤの境界に到達するだろう、そこに大いなる意志がルビを借りて鷹の形に顕す、祈りを捧げ、力を獲得せよ。」
「早!」
ライエが驚く。
「報酬についてまだ値切りたいのに。」
「これで終わり?」
相変わらず元の世界にない文字、けど頭の中が直接理解していた。
「はい、要件はこれだけです。」
まさかの両手上げ、ライエはお嬢様の雰囲気をするけど、案外と自由奔放だな。
「それにしてもちょっと傷つくわ、何年もの歳月を潰えたのにまだ三分の一しか読めない、文法的にも語彙的にも詩より複雑だから、なのに貴方が一分もかからず解読した、いままでの努力が虚しよ。」
よく喋るお嬢様だ。
「報酬か…そうですね、貴女の外見は人間の18歳前後に見えるか、実際の年齢は?」
「それだけ?もっと欲張りの問題がと思いました、羊皮紙についてとかあたしの正体とか。」
俺の言葉の前半から体を締まるライエはついに放心状態になる。
「乙女の年齢を聞くなんで失礼極まりない、でも今回は特別答えで上げる。」
ライエは胸を張る。
「今年の8月で227歳になります、まだまだ年頃だよ。」
なるほど、分からん。
「あのね…」
無反応の俺に対して、呆れた口調でライエは言う。
「エルフの寿命は大体数千年以上、万年以上生きた人も居るよ、二三百歳なら成人すらないわよ。」
ご親切ありがとうっと、俺は席を離す、従って笑顔満開のライエは俺を出口まで送ってくれた。そう言えば名前は教えながったな、まぁいいか。
寝覚めの悪いレイフィちゃんを慰める為に今夜もシーフード満載のご馳走を堪能する、すればレイフィも少々機嫌を直した。
風呂上り、キャンピングカーに寝る支度を準備を向かう俺の裾を掴むのは、パジャマを着替えたレイフィ、ブルーの花柄で生地も柔らかくで気持よさそ。
「一人に、しないで。」
エメラルドの瞳がちょっと潤し、レイフィは願う。
「一人は、嫌。」
まぁ俺もそれほど草食ではないし、ちびっ子の願いを拒むつもりもない。
「こっち。」
承諾を得たレイフィは、楽しげに俺の手を引っ張り、広い露台に上がる。
「見て、星、いっぱい!」
海岸沿い故に空気がとっても透明で、曇りなく夜空に渡る銀河と星々が美しく見える、大都会じゃ人造光源が多く、似た星空は滅多に見えない。
「ね、レイフィ。」
あんまりの綺麗さに、俺の心の底が波紋が広がる。
「なに?」
心地良く撫でを楽しむレイフィ。
「レイフィってリュートを奏でる事が出来るよね、鼻歌だけでリュートの旋律に変えるごとが出来るのか?」
それは、ちょっとしたホームシックだった。
「ん、できるよ。」
自信満々でリュートを取り出すレイフィ。
「歌姫ですから。」
そして俺は鼻歌をレイフィに聞け、おまけに歌詞を書いた、幸い歌詞は簡単でよがった
「ん…本当に、いいの?なんだか、悲しい歌。」
「故郷の歌だ、お願いしますね。」
実は昔とあるアニメの歌、悲しいのも承知の上。
「はい。」
ヘッドのナットを軽く調整して、レイフィは爪弾く、すると夜空のように透明な琴音が響かせ、海の彼方までその寂しき波紋を広がる。
「陽は朝を刺し、今、春が匂う。」
露台の木製レールに背を着き、レイフィは幼くで純真たる声で吟唱する。
「甘き風が歌い、丘と谷を吹き渡る。」
「あたしを見つめて、この地獄の果てに。」
本来の歌詞と少々違いますか、詩風に変えのもよいのかも。
「愛しき人よ、甘き朝の光よ、待って、貴方はもう遠すぎる。」
美声の肩書では納めきれないレイフィの天籟、いつの間にか幻光虫という蛍のような光点が周りに集まり、その幻想的な光源を映して、集いし野生動物達も微かに見える、今のこの瞬間をさらに夢幻に仕上げた。
同じ歌詞を二回吟唱し、この歌も終え、再び静寂に戻る。
「心が、悲しむ。」
側に縋りつき、レイフィは顔を俺の腹に埋める。
「ありがとうレイフィちゃん、えらいよ。」
心を癒されだお礼に、髪だけではなく、俺はレイフィの背中も軽く撫でる。
「もっと、褒めて。」
そして猫のように甘えるレイフィ。
空を眺めで頭を空になる内に、レイフィは眠った、子供はよく寝るよく食べるがいい。
眠りつくレイフィをベッドに運び、その香る柔らかい体を優しく抱えで、俺も夢のない眠りに陥る。