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56、サンダーブラフ・前編

 タウラリアンの首都サンダーブラフは前述の通り4つの台地で構成する、中央台地は最大面積を有する、とは言え台地の上は平原ではない、どちらかと言うと低めの山に似ている、なので高さに拠って上中下の三階層に分け、それぞれ役割を設けた。

 

 平地の少ない上層部は政治区画、タウラリアン各部族のトーテムポールが聳え立つ、部族総長の居処兼大議事堂も其処に位置する。勿論上層部は大議事堂だけではない、武器屋やガンショップは勿論、釣具屋や肉屋などムルゴレでは癖の強い店舗も軒を連なっている。

 

 上層部一番目立つのは円形露天礼拝堂、無骨で余分の装飾がない、でも古からの威厳を感じる。シャーマニズムの国故、政と祭り事は区別しない、サンダーブラフの住民は皆此処で重要政策の発表や歴史的事件を見届ける。

 

 山道を沿って下ったらそれなりの平地面積を有する中層部、主にトレードスキル――商業技能を授ける学校が集う場所、つまり教育区画、勿論スキルに関する店も沢山有る、それ以外特筆すべき事はない、強いて言えば大草原と繋がる液圧式エレベーターが二台も有するごとかな。

 

 山道を沿って再び下れば下層部、所謂麓、言うまでもなく最大面積の平地を有する、居住区画と商業区画、飛空艇や飛空屋の係留施設と入国管理局以外、今回俺らが泊まる旅館「キャッツとシャーマン」も此処に在る。

 

 閑談する内に俺らは旅館に着いた、まず目に入るのは正門の上に聳え立つどデカイトーテムポール、大きさは上層部の二倍くらい、第一印象はかなりインパクト。トーテムポールの頂上はタウラリアンを象徴する牛角、中部は青色に彩られた鷹の喙、根元は正門のまぐさとつながり、その接点は大きな草輪で飾られている。

 

 旅館の外見はアーチのテント、屋根は木製竜骨と亜麻製外皮で出来、下は丸太の柱で全体を補強している、壁も勿論木製。

 

 接客担当は旅館の看板娘、パラと言うタウラリアンの女性、見た目は十代後半、二十歳は満たない、小さめの角、亜麻色のミディアムヘア、グラスグリーンの膝丈ワンピース、顔立ちは南欧系かな、いつも素敵な笑顔、総じて言うと清らかで親しみやすい、隣の家の女の子の感じ。

 

 無事チェックインした後、パラ嬢は俺たちを二階の角部屋に案内した、扉を開けば心癒される干し木や草の香りが漂ってくる、これは好印象。屋内面積は結構広い、インテリアは素朴けど生活設備は充実、例えば魔晶石を使った照明やエアコンなど、シャーマニズムの国とは言え、生活面は遅れていないようだ。

 

 勿論屋外の露天風呂も有る、入りながら遠方の大草原を眺めるのも一興、ちなみに、昼飯は飛空艇運転中適当に済ませたから俺は夕食に期待大。

 

 風呂上がり後、ディナーをオーナーに任せた俺たちは食事場の座敷椅子に腰を掛け、ドリンクメニューのページをめくる。

 

 酒豪で周知のタウラリアンだが、酒は三種類しかないのは意外、一つ目は以前アウラヌで嗜んだ花醸造酒「朝顔の露」、銀貨40枚、安くはないが高くもない、他二種はどれも果実酒、値段はかなり強気、一つ目は辛口の「ハイランドスプリング」、金貨1銀貨37銅貨50、二つ目は炭酸入りの「オアシスソーダ」、金貨1銀貨23銅貨75、せっかくなのでライエ嬢の分まで各一杯を頼んだ。

 

 そして今回レナとアイリは酒ではなくハニーミントティーを注文、これもまだ高い、金貨1銀貨10もする、レイフィのアイスミルクは銀貨1銅貨25、相変わらずの手頃値段。

 

 一応他のドリンクもリストアップしよう:メロンジュース、銀貨5枚;花蜜の水割り、銀貨10枚;ムーンベリージュース、銀貨20枚;最後は「濾過したドラエニック水」、辺獄国の特産品らしい、水なのに銀貨56もする高めの価格設定、謎だ。

 

 野菜サラダと一緒に出したのは旅館の名物チーズプレート、此処のオーナーは観光ガイドブックにも載せた有名なチーズコレクター、テイスティングコースしか選べない、店内全てのチーズを少しずつ載せたプレートは酒飲みの大好物。

 

 順番からアルテラックスイス、オーソドックスのスイスチーズ、名前に有るスイスは多分偶然ではなく、転生者の誰かが伝来するものでしょう。

 

 次はチルトンスチルトンと言うブルーチーズ、匂いが強烈で辛口のハイランドスプリングに良く合う、でもレイフィは苦手らしい。

 

 ラエルシャープ、魔法都市群産のチーズ、鋭い味、炭酸入りのオアシスソーダに良く合う。

 

 熟成チェダー、これもまだ元世界にあったやつ、味も懐かしい。

 

 ガラダシャープ、硬めでざらざらした粒状の舌触り、塩分少なめ、誰でも好きな牛乳味。

 

 ドワーフマイルド、ドワーフが作る一品、名実ともマイルド、これもまだ万人受けの味。

 

 ダナソスブルー、ナイトエルフが作る一品、ブルーなのにブルーチーズではない、でもかなりクリーミィ;

 

 ハイランドシェーブルチーズ、高地山羊の乳で出来たチーズ、酸味と香りは独特、でも美味い;

 

 レッドリッジロックフォール、元世界にもあった羊乳チーズ、フランス産らしい、意外に食べた事がない、今回は初めて、塩味がかなり強く、香りも鋭い、通好みの味。

 

 スモークチーズ、言うまでもなくの味かな。

 

 最後はストームウィンドブリー、これも転生者絡み、でも柔らかい食感、癖は少なく味は濃厚、とっても優しい、締めに最適。

 

 一通り堪能した後、グラスは干し、俺は満足、オーナーの趣味とは言え凄い品揃えだ。

 

 メインディッシュはローストビーフ、燻製鹿肉、マトンのシチュー、ワニのグラタン、シーフードスープの組み合わせ、実に豊富で野性溢れる品々、どれも美味い。

 

 ちなみに料理人はサンダーブラフ随一のフードサプライヤー「キチン・ミストランナー」から派遣されたアスカ・ミストランナー、珍しい女シェフ、でも腕は確かなもの。話によると、ミストランナー家はフードサプライヤーだけではなく、料理学校も経営している、アスカは其処の教師を兼任している。

 

 夕食を済み、ちょっと夕陽が台地全体を金色に染め上げた頃、俺は屋外のロッキングチェアに腰を掛け、再びモニターを空に顕現する。

 

 画面に映るのはサンダーブラフ最も小さいな台地「魂の霊峰」、タウラリアンシャーマンの聖地、シャーマンを志す者は其処に在る聖堂で修行を積み、自然や霊魂との対話を模索してから一人前のシャーマンに成れる。

 

 でも「エサ」とブロールが向かうのは頂上の聖堂ではない、山腹に在る、幻の池が有する洞窟。

 

 意外な事に、奴隷主であるレガールはいない、同行しているのは手下のオーク二名、とマルガサが率いるグリムトーテム部族。

 

 「運がいい、レガールはいない。」

 

 「アークドルイドのハーミュル・ルーントーテムと晩餐だそうだ、カインは留守らしい。」

 

 「さぞ気に食わんだろうなマルガサ、レガールを籠絡したと思いきや逃げされちゃった、流石老獪のレガール。」

 

 二人は足を緩めて私語を交す、でも直に洞窟の入口、「危険!アースエレメンタルが不安定!」の看板が見えてきた。

 

 そう言えば今日レガールが彼らを浄化の儀に参加すると提案した時、マルガサは近頃エレメンタルクリチャーの一種「アースエレメンタル」が洞窟内に暴れてるって伝えたな、ついでに再度部族総長のカイン・ブラッドフーフを皮肉した、でも彼らは一向に構わない姿勢を見せ、マルガサも断らない、その時、彼女の作り笑いはいとも簡単に見破る。

 

 「枷解けだぞ、レガールの言付けだ、何にせ出口も此処だからな。」

 

 「武器は卸せ、俺らは出口を守る。」

 

 「もしあのデカブツに手強いと思ったら俺らを呼ぶんだな、ハァハァハァハァ!」

 

 オーク達は嘲笑う、でも事実だ、二人は今丸腰、素手で石ゴーレムに等しいアースエレメンタルと対抗するにはあまりにも無謀。

 

 洞窟に入る途端、青く揺れる光に充満された大いなる天然鍾乳洞は二人の目前に広がる、実に幻想的な風景。正直俺も行きたい、でもレナとレイフィのダブル監視から抜けるのは少々きつい。

 

 「この洞窟…こりゃたまげたなブロール、でも魔物はどこにもない、変だ。」

 

 二人は驚嘆せざるをえない。

 

 「当たり前だ、もし魔物が居たらそれもマルガサの手先だ、私達を殺せばレガールもグリムトーテムの戦士を受け入れなければならない。」

 

 「一理ある、前に進もう。」

 

 「でもマルガサは嘘を言ってない様だ、誰も居ない、いつも巣食う【忘れられし者】さえもだ。」

 

 「忘れられし者」?どうも引っかかる名詞だな、記しておこう。

 

 「それはともかく…」

 

 二人は石橋終わりに在る青く輝く池に足を止めた、どうやらこれが件の幻の池。

 

 「私が気になるのがエサお前、何か思い出した途端いつもボーとする、戦闘中でしたら危ないぞ。」

 

 「たく、人の痛いところを、って、これからは?」

 

 「簡単だ、池に座って水面を見つめて啓示を祈るだけ。」

 

 ん?迷信じみだな、本当に出来るの?

 

 と思いきや、ダイアログボックスが急に浮かび上がる。

 

 「アクセス成功、アドミニストレータとして認証されました、全権限が開放されました。」

 

 「宇宙検閲官の部屋へようこそ、探したい事象を入力してください。」

 

 なるほど、この池もまだ聖都中央大聖堂に有る水晶玉と同じ事象検閲用の端末、亡き者との対話とはこういう事か。

 

 視点を二人に戻ろう、四周は静寂に包まれ、水が鍾乳石から滴る音だけがこだまする。

 

 「そして漸く、滴る水の音も二人の耳から消えた。」

 

 ダイアログボックスの心境描写はいつも文章的で分りやすい、俺も心に検索したい項目を彼らとシンクロする、これで彼らが見るものは俺も見えるはず。

 

 そして第二第三のモニターが空に現れる。

 

 第二モニターには青く揺れる焔、その中から赤ん坊を抱える女性が現れた、年齢は二十代後半、腰にも及ぶ金髪そして碧眼、典型的な西欧美人、装束は素朴だけどなんとなく西洋ファンタジーに描かれた貴族と思わせる。

 

 「愛しい君、民は貴方を待ち望んでいる、アンドゥインも貴方を待ち望んでいる、帰りましょう、ストームウィンドへ。」

 

 どうやらこの女性が王妃らしい。

 

 第三モニターは赤く燃ゆる炎、炎はブロールを囲み、周囲から悲鳴が伝わって来る。

 

 「お父さん!」

 

 悲鳴と共に、ナイトエルフの女の子が炎に飲み込まれた。

 

 「ブロール!助けて!」

 

 今回はブラッディエルフの女の子、その面影は正に幼い日のヴァリエラ、そして悲鳴と共に、彼女も炎に飲み込まれた、これは酷い、もはや対話も何でもない。

 

 突然、第二モニターの女性も焔に飲み込まれ、第三モニターの炎と入り乱れる、全ての幻が溶け込み、その中から岩石で出来た巨大な腕が突如現れ、ハンマーの如し池を叩く。

 

 この一撃は二人を幻夢から覚め、瞬時戦闘態勢に入る。

 

 敵は例のアースエレメンタル、目測三メートルを超える高さ、全身を構成する岩石は不規則、しかも刺々しい、その上口もデカくで牙もある、でも足がない、石ゴーレムより猛獣に近い。

 

 発する声は常世のものにあらず大地をも轟く、もしそれが言語なら分かり会う事は不可能、戦闘あるのみ。

 

 戦術は簡単、ブロールは敵の気を引き、「エサ」は突破口を見つける。

 

 ブロールに気を引き取られたアースエレメンタルは「エサ」も見逃したくない、ブロールに向きながら左手を「エサ」に振り下ろす、勿論命中していない、大きな水しぶきを揚げただけ。

 

 でも戦闘になれた「エサ」はチャンスを見逃せない、彼は散落の巨石を持ち上げ、アースエレメンタルの人差し指の関節に思い切り叩き込み、見事に指を折れた。

 

 敵は悲鳴らしき轟音を上げ、もしかして痛覚らしいものも有るのか。

 

 勿論それだけではない、今回彼は折れた爪付き指を持ち上げ、頭の赤く輝く独眼に刺し込む。

 

 再び上げた轟音と共に、アースエレメンタルは倒れる、そして地面に溶け込み、消えていく。

 

 「これで…勝ったのか?」

 

 「よくやった!マルガサが盛り込んだ魔法かは知らないが、幻の池はこれで清浄に戻ったな。」

 

 「なら良い、急げ、ここから脱出するのだ。」

 

 「何だよ急に、オフィシャルボーナスとか有るかもしれないぜ。」

 

 「俺は…息子が居るんだ、ブロール、俺の民は俺を必要なのだ、もうレガールに縛られぬ。」

 

 完全とは言えないが、こっちのウリアン王は記憶の一部を取り戻せた様だ、この後は脱走の画策かな、これでジアンナ嬢への報告も出来た、後は彼らの脱走に救援を回すだけ。

 

 「おい!あの化けもん倒したぞ!!」

 

 視点をモニターに戻り、洞窟から抜き出したブロールは雄叫びで戦果を自慢する、「エサ」は彼の後に付く。

 

 ちょっと日が沈み、月が登った頃。

 

 「おお!レガールのチャンピオン達は偉大なるカインも遂げなかった偉業を成せた!彼らに地母神の加護あらん事を!」

 

 洞窟外の吊り橋上、グリムトーテムを率いるマルガサは二人に祝福を捧げる、でも彼女の顔は相変わらず作り笑っている、実に滑稽だ。


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