3、聖都・一日目(イラスト追加)
「う……」
異様な感触に目を覚めた俺が見えたのは、首に掛けたナイフであった。
「おはよう。」
「…したのか?」
笑いながら誤魔化したい俺に、尖る耳の幼女は微かな紅が浮かぶポーカーフェイスで俺に問いかける。
「なにを?」
勘違いをしたようですねこれ。
「あたしとしたのかとた…」
刃が段々攻めに来る。
「したらどうする?」
「あなたを殺してあたしも自害する。」
「はいはい、してないしてない、流石の俺でもそんな機を乗らないから。」
律儀だけとやばいよこの子。
「穢らわしい人間め。」
やっとナイフを押さえ込め、俺の体から離れた。
「昨日も汚い手であたしを気絶したな。」
んん、この誤解は解けなくでもよし。
「はいよ、昨日の宝石、悪いが俺は君が言う対竜種武器なんざ持っていない、見ての通り只のマスケットだ、だからこれを貰う義理もない。」
俺はマスケットを展示しつつ、布袋を少女に返した。
「へ~人間のくせに誠実だなお前。」
マスケット銃をチェックする彼女の顔は少し柔らかくに成った。
「なら昨日の事は…どう説明する。」
「まぐれ…かもね。」
とほほと笑いながら見破り易い嘘を吐いた俺であった。
「まぐれか、じゃあしょうが無いね。」
なに勝手に納得してんのかこの子、幼いなのか単純なのか、それとも両方なのか。
そして彼女は扉を開け、酒場の人ごみに忍び混んで消えていた、ロリコンの俺だけと今の状況じゃ止める筋合いもない、まぁあの子のしぶとさから見ればそ簡単に諦めないな。
「お旦那、もう離れるんすがい、次ぎ目的地決まった?」
アニャーも相変わらず元気いっぱいの営業スマイル。
「そうですね、リンティスに行ってみたい。」
朝食を片付けながらアニャーに答える。
「教国リンティスか、なら調味料や食料品を少し積んた方がいいですね、売り行きが期待できるよ。」
アニャーの情報だと、教国リンティスのメイン輸出品は精製された魔晶石、高純度の魔晶石は魔力の伝達効率が高く、精密な大型空力機関や兵器を製造するには必要不可欠、それに対して宗教国家のため国民の大半は労働しない信徒、農産業の規模も小さく、だから輸入品に対する依頼が高い。
これだけの情報が集めるのは、流石酒場娘だけの事はある。
バザールで金貨10枚を使い、約3キロの黒胡椒などの香辛料を購入しバイクに積んてきた、敢えてイベントリを使わないのは行商人気分を楽しみたいから、しかし流石に中世雰囲気のある世界、香辛料の値段も桁違い。そして昼飯を済み、陽射し防止の装備を一通り揃ったのでそろそろ出発に向う。
リンティスの関所は集落の南東300キロに位置する、安全運転すれば二時間が必要だ。
「まだ来てね。」
アニャーと別れを告げ、俺はバイクを駆動して集落から離れた。
「いつまで付いてるつもりだ?」
集落2キロ離れた所、俺はバイクを止まって人気の無い荒野に問いかける。
「いつから気がついた?」
少女は岩陰から姿を顕した。
「それはともかく、もしリンティス目当てなら送っても良いのよ。」
「では遠慮無く。」
今回はやけに大人しねこの子。
バイクの後部シートに着け、華奢な腕で俺の腹に抱きつく。
「やはり太てるねお前。」
相変わらずの毒舌だか、スキンシップに免じて甘んじく受けましょう。
「はいはい太い太い。」
貿易道路のため少し整地の痕跡が見える、この道を沿ってリンティスに向かった途端茂みも少しつつ増えていく、それ以外の光景はいかにも荒野的でつまらながった、人気のある道故にモンスターの類が少ない、たまに見たのもバファローやハイエナの群れだけ。
途中で反対方向に進んでいる陸亀を乗った商隊と遭遇した、魔晶石鉱の運び屋らしい、俺が気になったのは陸亀甲羅の上に設置している座席、ふらふらして気持よさそう、機会があれば一度乗りたい。
リンティスとの距離を縮むほど森林に住む動物達の活気が増してくる、二時間の旅もそう長く感じていない。
「ここでよい、汚らわし人間だか、礼をいう。」
関所まであと10キロの所で少女が降りていた。
「な、名前を教えてくれる?礼としで。」
「知ってもどうしようもないだろうか、」
幼い少女が短い停頓をして、まだ一言を追加する。
「ナイトエルフのナディアだ、二度と会うごとはないでしょう。」
そして茂った森に姿を溶かした。
「ナディアか…」
昭和アニメのヒロインみたいな名前を吟味しながら道をすすんでゆく、そしていつの間にか関門の前にたどり着いた。
凄い行列、少なくとも二十台以上の馬車が並んでいた、そして色んな食料品と生活用品を積んている、どうやら輸入品に強く依頼している噂は嘘ではない。
関門を通ったすぐ中間業者の買取所がある、もし自力での販売が面倒臭く感じたら、相場より安い値段で問屋に売るのもあり、儲かるか儲からないかは自分次第。
前述通り俺は面倒臭がりやなのて、金貨18枚で香辛料を問屋に売りつけた、勿論スキル込み、ちなみに入国料は金貨1枚、集落の百倍もあったこの値段、流石としか言えない。
「称号:駆け出しのの行商人 を マスターした」
「称号:熟練の行商人 に 変化した」
変化と言うより昇格の方か妥当かな、どうやら職業らしいの称号は熟練度が増やして、或いは条件を満たせばマスター出来、昇格するらしい、そして最初段階さえマスターすれば商人服を脱いたとしても称号を選択出来る。
暫く道端の休処に腰を掛け、俺はしばしの休息を取る。
教国リンティス、約50万平方キロメートルの国土面積を持つ、フェシエル大陸一番小さな国、なのにこの星でも屈指な軍隊を持っている、先ずは魔晶石精製技術の独占と戦略魔導兵器小型化技術の成功、後は宗教国家のため国民大半が信徒、故に魔力コントロールや魔法に関する素養の高い人材が多い、だから人口がそんなに多くなくでも軍を支える。
リンティスの国教は唯一神教、信仰している神は創世神サイフィス、最高地位を持っているのはサイフィスと会話出来る聖女だが、政治面に於いての最高指導者は枢機卿である。
休処に手に入れた基本情報はそれだけ、地図の詳細説明とあんまり変わっていない。
関所の北西方向150キロに進めば、大聖堂に位置する聖都に辿り着ける、遠くはないですが森林でのフルスピード稼働は流石に難しい、実際の時速もその半分以下。
道中の村で農作をしている信徒を見たが、主に葡萄などの果物を栽培している、農畜どころか作物の畑すら見つからない。特産物として果物で醸しだしたワインがあるらしい、行商人達もこの物々交換で素直に喜ぶ、何しろリンティスのワインはその馥郁で雅な風味で各国のソムリエから高く評価されている、転売すれば嗜好品として高値をつくだろう。故に石造の一軒家がメインの住宅形態、間隔は全て果物畑。
村自身の規模はさほど大きくはない、大体森林に囲まれている、土壌も豊かに見える、自然との調和を取るためかもしれない。
まだ一時間を経過し、やっと聖都に辿りついた。
ロマン時代の建築が横たわる聖都、唯一違ったのはそのてっぺんに散見するクリスタルの群れ、どうやらあれが噂の魔晶石らしい。青く透き通ったクリスタルが空に浮かび、リズミカルな柔らかい光を発している、とっても幻想的。
街の中心に聳え立つのが大聖堂、地図によれば、その面積も約国会議事堂の四倍、高さも東京都庁以上、街の何処でも首を仰げばその一角が見える、まさに信仰の中心。
先ずは宿を探すっと決めた俺は、入り口の大広場を抜けてダウンタウンに向かう。
宗教の戒めは強いとは言え、聖都のダウンタウンもまだ繁華である。市場は栄え、観光客や行商人は群がり、市民との取引も頻繁に行う。余談だか、この聖都の住民全員もまだ信徒、大人から子供まで統一な教服を着ている、男女分別のためドレスと長ローブで分けていますが、基本色は同じく米色、そして肩に同じ形にしたマントを被っている、衣装とマントには金糸で縫いだサイフィスのエンブレムがある、鑑定によると魔法ダメージに対しての軽減効果があり、品質も第三級のレア。
宿もまだ二種類がある、教団が提供する無料な泊場と外来者が経営するホテル、堅苦し戒めに苦手な俺には断然後者を選ぶ。
「一泊銀貨3枚で、三泊ですね、かしこまりました。」
宿の娘は微笑みながら集落五十倍もある宿料を取り上げた、営業スマイルですが、元気一杯のアニャーと違って、気品で控え目な笑顔でした。いやはや資本主義の差って凄いですね。
勿論高価な分、部屋の質も上がる、ざっと見れば広さは酒場の小部屋二十倍以上ある、内装も古典的で控え目な豪華さ、風呂場も露台も完備、居心地がよさそうだ。
久々に風呂を上がれば既に夜7時、正に食事の時間。
「女神の雫」、この聖都でも屈指の旨さを誇るレストラン、特撰のワインもまだ絶品、なにしろ海鮮類の料理が扱っている、これこそ俺を惹きつける訳。
宗教テーマの彫刻を施した扉を抜けばホール、シャンデリアの代わりに無数のクリスタルが宙に浮び星のような微光を発し、夢幻な雰囲気を演じている。このレストランの客は金持ちの外来人に限ったわけではない為、俺みたいな田舎者も入るごとが出来た。
「海鮮フルコースと日替わり特撰白ワインですね、かしこまりました。」
ワインに合わせるために伊勢エビと数の子満載の烏賊をブランデーで焼いたでしょう、フルーティーなアルコールの香りがしてかなり旨い、爽やかな白ワインに最適、なるほど、伊達に聖都屈指なわけではないようだ。
突然、小騒ぎの渦の中、囁くように、無邪気で透明な歌声が漂い始めた、それは緩やかな子守唄、全ての騒音を吸い込み、静寂を齎す。客たちも思わず手中のフォークを留まり、この一時の静寂に陶酔する。
歌声の主は手にリュートのような楽器を携わる年端もいかない少女、クリスタルのようにブルーで仄かな光が流るる長髪、エメラルドのような碧眼、ドレスの教服を着ていますが材質は一般市民と違い、シルクの光沢をしている。
素晴らしい歌声だった、か。
「精神支配:敵意消去 を 抵抗した」
「精神支配:外見偽装 を 抵抗した」
物騒なごとに巻き込みたくないので、俺は静かに食事を進める、あの子の目線が一瞬こっちに向いたのは気のせいなのでしょうか。
一食銀貨10枚、高いですかこの聖都の消費水準にとっちゃ普通でしょう、旨いのはたしかだ。
「お客さまはじてめですよね、うちの歌姫はいかかでしょうか。」
「あ?あ…確かに上手いですね。」
レストランから離れる時、以上の会話がありました。
さって、まだ五里霧中ですが、先のフラグを上手く回避すればよい、やがてそう簡単にできるのかな。
夜9時、俺は時間を確認しながらはホテルに向かう、途中は確かに賑やかな住宅街がある、地図によれば既にその一帯に到達したか、住宅の灯火は消え去り、人気もすっかりなくなった、空浮かぶクリスタルから発した光すら冷たく感じる。
「精神支配:人よけ を 抵抗した」
「精神支配:畏怖 を 抵抗した」
今夜は精神支配スキルの出血大サービスですか?
「あなた、だれ?」
やはり立てたフラグはそう簡単に折れない、倦怠と虚無が交わる幼き声、そして声の主はその姿を照らすクリスタルと共に路地の向こうに現れた。
どう答えばよいのが、考えも付かない。
「なぜあなたか、あたしの歌声を受けないの?」
「あたしの歌声か…神の慈しさか、あなたに届かないの?」
いつの間にか、少女の手にリュートが消え、代わりに木の枝が絞り合えだような杖が胸に抱きつける、杖の先端は冠の形状となり、その冠の中に黄金の輝きをしたクリスタルが嵌めている。品質の高さは鑑定しなくでも一目で分かる。
「えっと、見ての通り只の行商人なのて、お嬢ちゃんのあの杖綺麗ですね、傷を付けば値が下がるので、あんまり翳さないほうがいいよ。」
敢えて行商人の振りをして誤魔化したい俺であった。
「…そうか。」
ほら、話せば分かるじゃないですか。
「一応、これを楽器に変化したのよ。」
はい、自爆です。
「神の慈悲を受けない人は、皆敵。」
少女の周囲に浮かぶクリスタルは、俺に向けて光線を放ち、その灼熱さは地面の石にすら青白い焼き跡が残す。
とりあえず戦闘モードに移行して一発目を避けた、クリスタルの群れが光の網を織り成す過程中にマスケットを取り出してピンポイント狙いで5つのクリスタルを撃ち砕き、なんとか第一波を凌いだ。
けど弾切れ、聖都が平和と思って弾の補給をしなかった自分が憎い。
まあどの道バレだし、今後平穏の為にあの子をなんどか懐柔した方か上策ね。
「聖晶石が…砕いた…」
突如攻撃をやめた彼女は、目の前に起こった事に戸惑っている。
「ああ…シスターに怒られる…」
そして涙が溢れる。
「大丈夫さ、おじさんと一緒に謝りに行けばきっと許される。」
爽やかな笑顔をして少女に明らかな嘘を吐いた俺であった、頭を撫でながらの詐術全開。
「本当?」
「モチのロンよ。」
腹を叩きながら保証をした。
「もしかして、いい人?」
「ああ、信頼できるよ。」
「信頼できる…大人?」
「おおよ!」
「じゃ約束だよ、明日、大聖堂の東門、待ってるよ。」
この唐突に始まった戦いが、まだしも唐突に幕を引っだ、小さな手を振りながら、少女は大聖堂の方向に消えて往く。
素直で純粋、正に無垢な少女、11、2才にしか見えない彼女が、人を殺すより上司の怒りに触る方か怖い、異世界もまだ呆れだもんだ。
考えながら、俺は大きなベッドに寝そべる。
改めて考えると、この世界に来たから俺は一度もパニックに陥た事はない、家庭を持っていないとは言え、実家にまだ両親が残ってる、仕事もまだある、未練がないとは嘘、なのにこの心の静けさは何、チートメニューに対する強い信頼感なのか、わからない。
明日もまだ明日の風が吹く、考えでもしょうがない。
13日から夏期連休に成りますので、投稿がかなり遅くなる