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17、学問都市ケルサス・一日目

 「住みやすい街…ですか?」


 館の主である少年は俺の問題に困惑した。


 「はい、実のどころ、俺はこの半ヶ月間、数カ国を渡り商売をして来た、だから暫しの休息を取りたい。」


 一応この世界での生き方を学んだ、今回の依頼によって足場も固めだし、そろそろ休もうがと。


 「ならご所望はありますか?」


 「出来れば歴史のある街で、こう見えでも古風が好みなんだ。」


 びぐっと、アイリーの肩先がちょっと震えた。


 「ケルサス一択だな。」


 主の杯にドリンクを注ぐ機を乗じて、横槍を入ったのはいつものロベルス、今の彼はスーツ姿で如何にも執事に見える。


 「ケルサスとは?」


 「はい、聖王国アルマックス最古の都市です、王国最大の図書館や天文台、王立魔法学院などが位置する街です、少々古びた街かもしれませんが、住み心地は良いと思います。」


 少年は話の尻を取り、俺に説明した。


 ほら来た、異世界定番の魔法学院、しかも図書館と天文台、実に上出来だ。


 以上が今朝の遣り取りであった。


 曲がり曲がったペルトル山道を越えればちゃんとした街道が見える、街道を沿い東へ進んで約二時間後、俺達は目的地である学問都市ケルサスに辿り着いた。街の外辺は新たに建て上げた住宅と商店街、どれも低い故、街中心にある城壁や塔などを引き立てだ、説明によれば元々小さい街だったが、時間と共に周辺地域へ拡張し続き、今の規模に成った。とは言え、人口はたったの九万、都市と称するには些か無理があるな。


 街の象徴とも言える大図書館は旧市街地にある、それを中心に建てたのは王立魔法学院、数の多い学生は街の主要経済源に成ると同時に、発展と拡張の原動力でもある。


 俺は休んでいる間、図書館で情報収集をするつもりだが、街自身はさほど大きくない為、新市街地に住む事を決めた。午前中に、俺とアイリーは比較的に新しい屋敷を回った、アルトスの中世風に比べたら、ケルサス新市街地は結構近代的な建築風格示している、古びた旧市街地と互いに照り映し、人は時空の倒錯すら感じるでしょう。


 最後に決めたのは日当たりの良い二階建ての一軒家、車庫ありでインテリア済み即入居可、金貨千枚で取引成立、やっぱこの世界の物価はいまいち分からん、国によって違うのかな。取り敢えず住居事情も済んだし、昼ご飯にしよう。


 大いなる石造アーチの天辺に星々を抱擁する美しき少女が彫刻された「ステラの門」、それは新旧市街地の分界点である城壁に設けた唯一の出入口、同時に街の観光名所でもある。門を通り抜け、石階段を登れば旧市街地の大広場、街の人気レストラン「タペリア・ゾフィ」はそこにある。


 人気レストランとは言え、別に高級な場所ではない、席に座った後、最初に出した飲み物はワイン類ではなく炭酸水である、何にせよ主要消費者は学生だから、一般的な値段で美味い料理を提供するのがこっちの王道、飲み物も其の点を体現しておる。


 「同席しても宜しいのでしょうか。」


 穏やかで澄んだ中性な声はメニューに執心する俺の目を惹き寄せる。


 「別に構わないが…てっ言うか何で居るのよ、しかもこの格好。」


 ヘアスタイルは非対称性のショート、ちゃんと手入れした金髪は頬の下まで伸ばし、輝く様に見える、虹彩は透明な故、其の瞳はエメラルドに彷彿する、高く腰を縛るブラウン系のショートスカートに純白の上着、発育途上にしてはちょっと過ぎたボディラインを強調している、けれど胸元にあるブルーな蝶結びのリボンは年齢に相応しい可愛いさを増す。


 そう、今朝までが館の主である少年であった、まぁこれも予想の内、意外な展開が無ければ別に構う必要がない。しかし近く見ると本当に宝石の様な瞳だ、距離を取れたら青く見えるのは光のせいかな。


 「えっと…故意に隠す訳ではないが、誰も聞いてないので、あたしも貴方を煩わす必要がありません。」


 微笑みながらスカートを抑え、彼女は座る、如何にも名門のお嬢様の感じがする。


 「小さなメイドさんはとっくに気付いたと思いますよ、それに、あたしも一応ここの生徒ですから。」


 アイリーのミステリアス気質はほっといて、道理で先から「ぎゃ~フリュ様!」とか「何あのおっさん、フリュ様と食事なんで身の程知らずか!」とか小娘達が騒ぐのだな。


 「お待たせしまいました、ご注文の冷製スープと合わせのパンです。」


 小娘達の群れを抜き、ウェートレスは先注文した物を持ってきた、キュウリやトマトなど酸味と甘味を含んだ野菜を磨り潰し、出し汁で味を整うスープ、濃厚に見えるが実に爽やか、冷製故夏にぴったり、人の食欲を唆る。


 「けどいいの?まだ剣の修復が終わっていないでしょう。」


 アダマンタイトとミスリルを扱える工匠はアルトスでも数が少ない、色々スキルを使ってやっと交渉が成立したが、納品出来るまではかなりの時間が必要らしい。


 「的確な素材があるから外見の修復は容易いよ、後はここで最終調整をする、それ以上の事は秘密…と言いたいげと、可愛いメイドさんはも知っているでしょう。」


 釣り目の笑顔が眩しい、いつもと反したこのペース、人は嵌り易いな。


 アイリーは黙りとスープを啜る、振りかかった話題は一切応じない。


 「冷たいね、本当に貴方のメイドなのか?」


 「そりゃまぁ…貴女の豹変ぶりにドン引きしてるんじゃないの?」


 「んふふ…女は秘密が多いほど綺麗よ。」


 つっかまだ十代だろう君。


 「あたしフリュデリカ・フィネ、今後はお見知り置きに、小さなメイドさん。」


 完全にスルーされたね俺。


 看板メニューの牛肉トマト煮込みを楽しむ間に、フリュデリカは宛もない会話を続いた、か、アイリーは相手をせず、終始黙りをした、彼女の言葉を観察すれば、アイリーの正体や持つ情報を側面から探りたいと言う事は容易に分かる。


 「御二方は暫くここに滞在するでしょう、ではまだ会える事が出来るね。」


 会計の時、フリュデリカは言う――俺は一応彼女の分も支払った、別に必要がないげと、社会人の習慣でやつさ。


 「それではまだ宜しくね。」


 アイリーを軽くハッグし、彼女は疾風の如し去った、お陰様でずっと囲んていた小娘たちも四散した。


 「さって、帰って寝るか、夕食は頼めるがいアイリー。」


 「はい、喜んで。」


 この微笑みは俺だけに見せる物なのか。


 久々に夢のない昼寝をした、再び目を開けた時既に午後の五時、台所に踏み台を用いて料理をするアイリーを見て、元の世界では生涯独身の俺も仄かな幸せを感じる。


 「な、アイリー…」


 そして、俺はアイリーに問た。


 「なんですかご主人さま?」


 目を必死に閉じたアイリーはこっちに振り向く事はない。


 「本当に俺なんかに付いていいの?君を縛る鎖は既に解いた、アイリー自身もかなり強い、無理してメイドに務まらなくでも…ほら、俺って色々雑だし。」


 温めたお湯を振りかけて泡を洗い、濡れたアイリーの長髪は海に彷彿する様に青く光る、綺麗だった。


 そう、今は風呂中、どうやら混浴はアイリーにとって当たり前の事。


 「ご主人さまと契を交わした身、例え命が果てでも変えるつもりはありません、それに…」


 前髪の水をちょっと拭き、顔をこっちに向いた。


 「それに?」


 「ご主人さまって、妾みたいの子がお好きでしょう。」


 微笑みではなく幸福が満ちた笑顔だ、こりゃ参ったな。


 「妾は禍々しい身なので子を孕む事すら出来ない、その妾を悉く関心を寄せたご主人さまに、妾は離れる事すら考えない、だからご安心を。」


 小さな指は白玉の肌を滑り、平坦だが可憐な身体曲線を描きながら、彼女は言う。


 価値観が違うので色々問題のある発言になりますが、これが彼女の本心、自分の缺陥に自覚はありますが、俺もそれほど草食じゃないし、その好意を甘んじて受け入れよ。


 風呂上がり、夕飯を楽しむ時、俺はアイリーを同席に命令した、家族らしいっと、この挙動は彼女の心を揺らいた。


 「畏まりました、ご主人さま」


 そして彼女の笑顔も一層柔らかくなってきた。因みに今日の夕飯は厚切り豚肉の漬け焼きとキノコのクリームスープ、シンプルで美味い、昔から神殿で修行する故、繊細な宮廷料理を触る機会が少ない、だからこう言う家庭料理が得意だとアイリーが申し上げた、これもまだ良し。


 ケルサスの夜は遅い、酒場の看板が灯したのは夜の十時だった、一日の営みを終えた市民、夜遊びの学生、そして一儲けしたい吟遊詩人や奏者達は共に酒場に集い、一時の安らぎを享受する、郷に入れば郷に従え、俺とアイリーも近隣の店に席を取る。本来ならもう子供が夢見る時間だが、彼女精神の裏には大人びた一面もある、問題がない。


 「随分と…穏やかな店ですね。」


 「まぁ、一応な。」


 店を通り過ぎる時、俺は店内の空気に惹かれだ――木製で年季を見えるインテリア、小声で話を交わす客、店中央の舞台に降り注ぐ一束の冷光は、椅子に交差するリュートとフルートを照らし出す。人声賑わう酒場より、こっちのフィーリングは俺好みだ、なんだかジャズ・バーみたいで、心が落ち付く。


 注文した飲み物を出して間もなく、純白のドレスを着こなす奏者達は緩やかに舞台に上る。最初目に入ったのは外見約18歳ぐらいの少女、淡々と青く光るその長い髪、気高く微笑みは人の目を引き寄せる;後に付いたのは流麗な黒髪を持つ少女、前者と同い年に見えるか、この異国の地に際だつ東方的な顔には温度が見えない。


 軽く礼をして、彼女達は楽器を手にする、弦を爪弾き、笛を吹き、センチメンタルな旋律が空気中に漂い始め、甘美の音色は周囲を静めた。交錯する楽音はメヌエットよりも遅く、環を積み重ねる様に螺旋上昇してテーマを示している、崇高且つ清楚、音律に一知半解の俺でもその黄昏みたいな色彩を分かる、舞曲に違いないが、余りにも感傷的だ。


 「懐かしい響き…」


 突然、アイリーは呟く。


 「と言うと?」


 「はい、以前まだ宮廷に居た時、楽師は王女達の為に色々な舞曲を作り上げた、この曲は昔聞いた曲に似っていますから、つい…」


 「つまり、アイリーの為の曲も有るのね。」


 「可能性は否定できないが、聴く機会がないので分かりません…あらご主人さま…」


 自虐ネタをする前に、俺は彼女を膝の上に置き、抱きしめた。


 「…妾はもう自分を傷つけません、だからご安心ください。」


 楽音はやがて終止符を打つ、残響は煙の如し消えてゆく、客達はまだ余韻に浸り、空気は静寂のままでした。奏者の二人は観客に向いて再び礼をして舞台を下がる、店内の空気もその時から戻りつつある。


 「先の楽曲ですか?少々お待ちを。」


 ドリンクを追加注文する時、俺は興味本位で曲の名前を聞いた、けど侍者も分からながった、さぞ流行っていないでしょう。


 「こんばんは。」


 多少高いがふくよかな声、振り向いたらリュートを抱える銀髪の少女がそこに居た。


 「可愛い娘さんですね。」


 確かに俺の年を考えばアイリーみたいの娘を持っていても可怪しくはない、が、違うと俺は彼女に説明をした。


 「楽曲の名前を知りたいっと先ソムリエさんから聞きました。」


 彼女は指でドレスを滑らせ、テーブルの向こうに座った。


 「あれは行列舞曲の一種に過ぎぬ、名前自体も大した事はありません、教えても大丈夫ですが、本意を確かめたい為あたしはここに居た。」


 本意?俺は只興味を持っているから知りたいだけ、それ以上でもそれ以下でもない。


 「…《亡き王女の為の》、これが曲の名前です。」


 短い沈黙を過ぎ、彼女が口を開いた。


 「すみません、どうやらあたしが勝手に勘違いしたの様だ。」


 いつの間にか、黒髪の麗人が彼女の背後に佇いた。


 「そろそろ時間の様ですね、もし良ければまだ来てください、他の曲を楽しめる事もできますよ。」


 話を終え、二人共は顧みずに去った。


 「亡き王女の為の…か…本当にアイリーの為の曲かも知れませんね。」


 「どの道もう過ぎた事、良い曲を楽しめだから妾はそれで満足です。」


 アイリーの目は俺を越えでどこかの虚空に向いた、それは過去が?


 とは言え先間違いなく「鑑定」に掛けられたな、何らかのイベントに巻き込まずに済んだのは何よりだ、今までのように巻き込まれたら色々面倒なので勘弁して欲しい。


 少なくとも今はね。


 深夜一時、俺はやっとベッドに着いた、側に居たのは眠気に抗えずすっかり寝込んたアイリー。メイドらしく夜伽の相手を務める為に、彼女は小さな体を張って頑張た、けどやっぱり出来る事は限られてる、でも俺は満足した、それ以上の事も強要せぬ、只その無邪気の寝顔を見て、夢のない眠りに沈むだけ。


日常篇突入、出来れば10章以内で終わりたいな

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