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14、天空の街モルドヴァン

改めて見ると元文章の後半部分はかなり痛々しい、だから大幅に改修して前の文風と一致に成った。

 これもまだ奇妙な光景だ。


 崖の上に立つ俺に、大いなる皆既蝕の月を身近く感じる、しかしその月は立体感がなく、シールの様に何処までも続く黒い空に貼り付けるだけ、そして清き白光は月の辺縁から涸れ裂けた大地に降り注ぎ、地平の彼方をも覆う静寂の黒森林を照らしだす。異形なる月から零す闇の雫は、正しく涙、その一滴が地に落ちる度に、新たな黒樹が芽生える。


 漆黒の枝達が理を準じぬ動きを取り、自分こそがこの世界の住人だと主張している。


 毛穴まで侵す狂気が、目一杯に広がる世界から満ち溢れる。


 けど、やっぱり静かだ――この光景を目にした俺の心に、漣すら無がった。


 「在りし在らざる者よ、貴方の要求を答え、席を設えました。」


 山羊頭の大男――ロアグ=ニグラトフが言う、その「在りし在らざる者」は俺の事らしい、実際の状況から考えてみれば、案外適切な呼称かも知れない。


 ヴィクトリア式紋様で彫られた小さな円卓、銀素地に金糸を嵌め込むティースタンド、そして麗しき有線七宝のティーカップ、中世に当たるこの異世界に時空錯乱を感じる。俺は席に入り、アイリーはいつもの様に俺の側に佇む。


 「先ずは、昨日の失礼にお詫びいたします。」


 俺の首肯きを伺いながら、彼は話を進む、人類の作法を心得ている異形者、つまりこう言う事か。


 「では本題に入りましょう、貴方のメイド――アイリー・ノブリエルを返して欲しい。」


 「返す?面白い話だな、顛末を聞こうじゃないか。」


 「万事見通す貴方が、敢えて我らの口から事情を聞くつもりですか、良かろう。」


 万事見通す…か、間違いではないが、データばかりではつまらないからな。


 「地上から放逐されたノブリエル王家第四王女且つ地母神を祀る巫女、それが彼女の現世、貴方も知っているでしょう。」


 話を一旦止め、ロアグは手を上げ、天に掛ける皆既蝕の月らしき物に指す。


 「けど彼女にとって、魂の根源は地に非ず、あの黒い月に属す物。」


 「漆黒の涙を零し続ける黒い月か…続いてどうぞ。」


 「我らは黒い月の子ら、故に根源たる彼女が欲しい、何れ彼女は祗王となり、黒い月が照らす大地を作り上げるだろう。」


 「その志をさて置き、そこまでして地上に這い上がりたい理由、正直分からないものだ。」


 アイリーが淹れた紅茶を啜り、俺は問う。


 「世界ごと置き換えでも、外なる者でもない君達がガイアの意思である創世神サイフィスに敵うとは思えないな。」


 「確かに創世神の力は計り知れない、だから我らは最初から抗うつもりはない。」


 「なるほど…」


 そろそろ話の尻尾を見えだ俺は、更に問い詰める。


 「総じて言う、異形なる者が新たな集いを作り、権謀で地上の生物と遣り合うつもりか。」


 「これはこれは、流石我が名を知る聡明なる御方、説明する手間が省けた。」


 黒山羊の口に笑みが浮かぶ。


 「少々二元論的だか、間違いないとも言っておこう。」


 「貴方の名…ですね。」


 不自覚に、俺も微笑んた。


 「どうやら勘違いしたようだな。」


 「お?拝聴してもよろしいでしょうか。」


 先まで粛殺だった空気に、突然殺気が沸き立つ――勿論俺は感じてるわけではない、それを知ったのは自分しか見えないログウィンドウのお陰。密かに、俺は無形の重圧に押されている様なアイリーの手を握る。


 「俺が知っているのは、黒い月の真名。」


 沸き立つ殺気は、次ぎなる名前を口にした途端、急激に凍りつき、研がいた冷徹の殺意に変わる。


 「シュブ=ニグラトフ。」


 「まさか偉大なる母の名を知る者がまだ存在するとはな。」


 ロアグは燕尾服を整い、椅子から立ち上がる。


 「てっきり全部殺したと思った。」


 「殺意の波動 を 抵抗した」


 「威圧 レベル10 を 抵抗した」


 砂塵を渦巻く一陣の突風しか感じていない俺にしちゃ、もしログウィンドウが無ければ、相手が何の行動を取っていたすら分からないだろう、この点に関しては如何にもゲーム的。


 「紳士だと思ったら、意外と短気ですね、やれやれ。」


 正直悠長になる場合では無がった、ロアグの「殺意の波動」は見境なく一定範囲内の生命力を蝕むらしい――少なくとも体を抱えて苦しむアイリーのライフゲージがそう示している。


 「アイリー、無理しないで休んで。」


 俺は優しい言葉をアイリーに向く、けどやっぱり変だ、目の前に幼女がひどい事されたのに、なんで俺の心に漣の一つも涌かないの?


 「ほほう~悟ってあの娘を転移したのか、賢明な判断だ、人の身に囚われる彼女は戦力すらならないでしょう。」


 空間魔法を使いアイリーを遠方に飛ばした俺を見て、ロアグの顔には驚きの影すらない。


 「さって、貴方はいつまでその余裕を保つ事が出来るのか、楽しみだ。」


 彼は言いながら、虚空から棍棒らしき長形物を引き出した。


 一見身に無数の抽象的人形が彫られているか、どれも過剰的に乳房を強調し、人としての五体は醜く歪めいた、そして人形は長形物を沿いてその先端に群がり、一つの球体に成る。コスミックがどうかは知らんか、ホラーだけは確かだ。「名付けられざる豊穣の息吹」、必要レベル85のエピック武器、オプションは極めて簡単――振る度に一定確率でシュブ=ニグラトフの触手を召喚して敵を薙ぎ倒す。


 ロアグは目に止まらぬ速さで長形物を振りと同時に、雲すらない暗黒の空に大いなる亀裂が走る、その光景、まるで重圧を受ける硝子の様だ。


 「前回は確かに慢心したか、今度こそフィナーレだ。」


 自分の勝利を宣言し、速さを更に増す、やがて天空と言う硝子は砕け散り、重圧の正体が墜落する。


 触手だ、表面は木の紋様で造形もかなり洗練、グロさを聯想させる造形物が一切存在しない、ならばなぜ人がそれほど恐れているのか?簡単です、その一つ一つが摩天楼並みの大きさ故。それもそうでしょう、シュブ=ニグラトフは外なる神、黒き豊穣として永劫讚えされし名付けられざる者の一人、コスミック的な存在なのでその体積も天体クラス。


 墜落する触手は黒森林を満ちる大地を揺るがす、その無秩序の舞いは、大地に復元出来ない傷跡を残る、元の世界だったら神話の中にしか存在しない外なる神が現在、俺の目前でその神威を見せびらかす。ちょっぴり感動していた俺の居場所に、一つの触手が襲い、元居た崖を丸ごと撃砕した、擬似飛行魔法を使い、俺は触手の直撃を避けて空中に留まる。


 「上手く避けましたね、感心感心。」


 空に浮かび、ロアグもまだ俺を追撃をする。


 「……本当に教訓と言う物を知らないな、君。」


 俺は空間の相対座標を変えながら触手の薙ぎを避けて言う。


 「出来ればもうちょっと壮観なる天地崩壊の場面を見てみたいだが、生憎こちらも旅をする身、だからお仕舞いにしよう、この茶番を。」


 「戯れ言を。」


 言葉に従い、俺の四面八方から触手が寄せ集める、大地を軋むその威勢は森林を構成する黒い仔山羊をも粉砕し、残されたのは轟音と煙塵だけ。


 「どうやら教訓と言う言葉を教える必要がありますね。」


 寄せ集める触手達は俺を中心部に押え込み、このまま圧砕するつもりでしょう、故に俺はある種の力場を展開し、「有りし在らざる者」を真意を示す。


 「高位重力子、エンタングルメント。」


 俺は唸る、それは重力を媒介する素粒子の縺れ、あらゆる輻射を捉えて俺という「形」を成す、時空が異なっても、量子のエンタングルメントにより俺と「形」の情報は統一される。これが「在りし在らざる者」の由来、ロアグはこの一層を想定したとは思えない。


 触手達は俺の「形」を穿った途端、劣化して断裂、崩壊し始める。


 原理は簡単、重力子の縺れにより形成した俺の「形」は、可視光の透過のみ許される、けど完全ではなく、透過する度に劣化が重なる、可視光故に観測可能の触手達はその原理によって存在の根本まで劣化を重なった。ある側面から外なる神も観測によって定められし存在――つまり形而上学的且つ概念的な存在を証明した、少なくともこの宇宙はそうだ。


 朽ち果てた触手は自身の重量を耐え切れずラバラに砕け散る、四散する欠片は大地と猛烈に激突し、轟音を上げながら空気をも震撼した。


 「馬鹿な!」


 ありがちな悪役らしき驚く声はログウィンドウで確認した、相対距離が長い故に聞き取れないが、その表情は想定できる。


 「チェックメイト。」


 絶対座標を変え、瞬時的「形」をロアグの背後に移動した、手を彼の背に当て、俺は言う。


 「さって、取引をしましょうか。」


 「取引…だっと?」


 穏やかな声でも彼の疑惑を遮れない。


 「原子の塵に還すよりマシだろう、一応行商人の身なんでね。」


 「これほどの力を持つ者が敢えて俗世の身分に拘るのか…解せぬ。」


 疑惑と憤怒が声に満ちる、か。


 「…条件と報酬を申せ。」


 「どちらも簡単、先ず、黒山羊の子らは今から無条件でアイリー・ノブリエルの軍門下に入り、これまでの契約を全て破棄する。」


 「あの娘を束縛から解放する上、我らも操る気か、欲深い者よ。」


 「まぁまぁ、商人の本性でヤツさ、勿論釣り合う報酬を承諾できますよ。」


 「用意ではなく承諾か…益々アンフェイアに感じるな。」


 「ナグとイェブ。」


 二つの名を口にした途端、ロアグの言葉が途切れる。


 「悠久の時を越えた黒山羊の子らは、何れ本当の主の元へ帰るのでしょう、恐ろしき双子がこの地に降誕する時、俺はその回帰を認める、それが俺の承諾だ。」


 「全部…見通しか…」


 「とは言え、回帰以後の事は保証出来ない。」


 「…ああ、分かった、これで十分だ、契約成立だ。」


 暫くの整理をし、俺は量子のエンタングルメントを解いた、既定の量子システムはこの行為によって離散して俺の「形」に成す粒子も飛び散る、まるで拡張現実のヘルメットモニターを外した様に、視界に被るもう一つの映像が除かれた。


 キャンピングカー外は賑やかだ、平野に咲き乱れる夏花を踏み軋め、数多くの人と車両が進めている、その行方の先に一つの山が見える、さほど高くはないが、山脚に大量な駐兵が居る事が確認出来ます。


 ここはフォーラン北東約200キロ、国境線の付近。セフィリアの提案を受け、俺は滞在し過ぎたこの国を離れる事を決めた、突然あの世界へと招待したのは意外だったが、時間自体が流れていない為支障がない。


 再び車を動く俺は後ろに流れ行く風景を見て、昨夜の出来事を吟味する。


 どこから話せばいいだろう、そうだな…アイリーは数百年前に繁栄したノブリエル王国の第四王女、本来なら幸福を満ちる一生を送る筈、なのにとある原因により王室から疎遠され、止む無く地母神を祀る神殿の巫女に成る、その時、彼女がまだ十歳でした。


 「黒い月の欠片、それが妾です。」


 彼女がそう言った時、顔に希望を失くした色に滲む。


 黒い月、それはとある神の依代、この星の神とはまだ別の存在、言わば外なる神、その原因により、彼女が生まれてから数々の異常現象が伴っている、それは勿論黒山羊の子ら達の仕業。けど数百年前の王国にはその意味を理解する者が居ない、故に恐怖を感じ、彼女を殺すごとをも試みた、しかし黒山羊の子らの暗躍によって、一度も成功しない。


 アイリーの話によると、第三王妃である母は自分の地位を守る為、恐怖の種を除くと言った名目で彼女を地母神を捧げた。地母神の御神体を担う巫女達は時の囚人になり、体の成長が止められ、何れ地母神現界の媒介になる。


 つまり神への生贄でした。


 以後、ロアグからの交信はしばしばありますが、異常現象はほぼ無くなった、話によると地母神が魂の通路を遮断したからだ。神殿の生活は清貧であるか、その御蔭でやっと普通の子供の様な生活を手に入れた、語っと時、アイリーの頬に微かな微笑みが見える。


 「止まれ止まれ!」


 兵士の大声は俺の思いを引き戻された、どうやらもう麓に着いた様だ、本当にあっという間でした、後に荷物や商人証など簡単な審査を受けて、俺は国を出る許可を貰えた。曲がりにくい車道を登り、山のてっぺんに、二三十分で歩き尽くす事ができる小さな街がある、その街は大きな城壁に守られて上に、絶壁を面している、下に流れているのはセメン川と言う大河、正に易守難攻。


 モルドヴァン、中立国エフェテル有数の辺境城塞都市の一つであり、そして数少ない貿易中継点の一つでもある。モルドヴァンには魔晶石で作った道路がある、その道路は永続魔法によって空に浮かび、国境向こうの平原にある聖王国アルマックスの関所と繋いている、両国の商隊はこの道を通して往来し商売を営む。


 それ故モルドヴァンが「天空の街」という別称が得た。


 主に往来者の審査をやる為、モルドヴァンの軍備はさほど厳重ではない、この点は街の規模からも見られる、エフェテル辺境防衛の大半がモルドヴァン南にあるエルヴァンス要塞都市群が担う、以上がセフィリアから貰った情報でした。


 一刻も早く出たいのだが、城塞の下にあるサイフィスの造形を彫刻したアーチを抜けた途端、俺は商隊の多さに絶句した、魔晶石道路の入り口は既に詰めている、どうやら今日中通るのが難しい、故に泊まるしか無がった。


 幸い旅館にまだ部屋が空いている、車を駐車場に止まり、俺はとあるレストランの椅子にだらつく。地産栗が作ったスープで小腹を満たしながら、俺の思念もまだ昨夜に寄る。


 巫女らしく文武の修行を重なり、神殿近辺の同世帯の友達と遊び、至って普通で平凡の毎日を送る、アイリーにとって、それは一番の幸せだった。けど好景は長く続けるものでは無がった、何らかの原因により、国を支配する者達が堕落した、その傲慢荒淫の行為は形容し難く、最終的にサイフィスの逆鱗を触れた。裁きの炎は白き火花となり、ある日雪の如き王国に降り始めた、火花は小さいが、触れた部位を穿ち、内臓まで焼き尽くすまでは決して消える事はない、幾人の友達がまだ幼い彼女の前に散った、その凄惨な死に方が今も彼女の目に焼き付けている、あの頃から彼女の心は病んていた。


 後の事は既に「月の海」で知ったので、敢えて贅述しない、ただ、ノブリエルの民が地上から放逐されたのは、地母神と創世神の取引故、なぜならこれが全て黒山羊の子らの暗躍による事件、けど神にとって人類は小さき者に過ぎぬ、人道的な考え方はあり得ない、あくまでも世界の均衡を保つためであった。


 だから彼女はこうも黒山羊の子らを恐れている。


 ギン――――


 フォークが皿の底に突く音が俺の思念を止めた、いつの間にか、注文した晩餐のセットが既に空ぽうに成った。山頂に居たので、空気が地上より薄いため、星空は綺麗に見える、レストランを離れる俺は、星空を堪能しながらモルドヴァンの街に散歩する――そう、俺の側に、アイリーはもういない。


 けじめをつける為に、アイリーはかの世界に残った。


 これでよいのか?俺にも分からない。


 けど、散歩帰りの俺が部屋の扉を開けた途端、小さなメイドが既にその先を佇んでいる。


 「おかえりなさいませ、マスター…いや、ご主人さま。」


 「ああ、ただいま。」


 次なる分れは何時来るのかは知らない、だから俺は今を楽しみたい。


一応完成しましたか、年末融資の審査が多くでなかなか時間を絞らない、かなり痛々しい文章になるのですみません、12月4日に大幅改修した、今月も15章に向けて頑張りましょう。

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