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13、王家の町アーメルン

 「良い酒だ。」


 雨後の陽の光は、細長いグラスを透過して浅紅の液体をきらびやかし、夏の風味を醸しだした。地産の発泡酒「チェリーニャー」、名の通り桜んぼで醸造した一品、香り豊かな酒体を持つ故に飲みやすい、絶えずに浮かぶ繊細な泡は舌に程よく刺激を与える、ロックで飲むのが炎天にぴったり。


 「それにこの天気、いいね。」


 夜通しの豪雨は止み、澄み渡る空は紺碧の海に彷彿する、崖から吹いた昼の海風は頬を気持よく撫で、心も静めだ。


 そう、真夏とは思えないくらい。


 「ええ…もしあの化け物が無ければ、ね。」


 「いや、一介の行商人に言っても、ね。」


 俺に皮肉を言ったのは一人の修道女、眼鏡を掛けた彼女はいつもと違い、より素朴な教服を着ている、海色のヴェールが真っ赤な短髪を遮り、地味さを増した、これも隠密性の為かな。


 「しっかし教団諜報機関のボスが直に出向かうとはな、どんな風の吹き回した?」


 俺は本題を切り込む。


 「シスター・セフィリア。」


 「敢えて恍けるつもりですか、こちらの諜報能力も甘く見られてますね、未だに名乗った事のない行商人さん。」


 彼女は紅茶を啜りながら、俺に突っ込む。


 「成算のある言い方ね。」


 元銀行員の俺にしちゃ、アンチスパイなどの経験どころか、関する手段すら知らない、この国に入ってから釘付けされでも可怪しくはない。


 「わざわざ俺をこのアーメルンの町に誘いだのも、手札を見せるつもりでしょう。」


 アーメルン、フォーラン離れて約100キロ、海崖沿いにある小さな町、名高いエフェテル王家のリゾート地、離宮も三つある、別称「王家の町」。それ故、生活の歩調はフォーランよりゆったり、町に入った途端、その緩やかな空気が感じる。


 「…その様子だと、まだ現在の状況を理解していないよね。」


 軽く溜息をし、セフィリアはコップを置く。


 「あの化け物故、大半の王族や権力者は今フォーランに集まって大騒ぎになるから、ここは逆に手薄い、何にせよ、貴方を監視しているのはあたし達だけではない、特にロシュフェルデ家の娘と絡んているからな。」


 この点に関して流石に誤魔化す事ができない。


 「それに…」


 セフィリアの言葉は途中で切り、換えて俺の側に佇むアイリーを見つめる。


 「可愛いメイドさんですね、何歳?」


 「10歳…」


 アイリーは返事をするが、表情が一切見せない。


 「…レベル40に10歳、そして滅多に見えない戦巫女という称号、貴方、隠す気ゼロでしょう。」


 いきなりのピンポイントだが、やはりアイリーの正体を完全バレてるとは思えない。


 「残念な事、聖女様の赦命より、暗殺の件について君を咎める権力あたし達にはない…いや、あったどしてもどうしようもないだろう。」


 「あははは~それは手厳しい。」


 このやりとり、泥沼だ。


 「って、本当の意図を言えばどうですか、手札を見せとは言え遠回り過ぎるな。」


 「その前に貴方、あの化け物に関して本当に何も知らないだな。」


 この言葉に対し、俺は肩を竦める。


 「何処まで隠し立てでいるのか分からないが、まぁ良い…レイフィの報告によってロシュフェルデ家の娘に対する行動は中止した、貴方のメイドさんを敵に回すのも面倒ですから。」


 残りの紅茶を啜り、セフィリアは言う。


 「あくまでもアドバイスだが、今後あの化け物から手を引いて欲しい、あれはもう国家問題ですから。」


 やっぱりそう成りましたか、彼女意味深な言葉に、俺の教国特許商人の身分も含めている、つまり俺を後先考えてから行動して欲しい、っと。脅迫的ではないか、首肯いても損がない故、俺は同意した。


 「シスター・セフィリア、そろそろ時間です。」


 幼い女の子はセフィリアを促す。


 「ええ、そうですね、馬車の仕度をお願いします。」


 微笑みながら、女の子に向けでセフィリアは言う。


 「レイフィちゃん。」


 「はい、分かりました。」


 アイリーのポーカーフェイスと違い、レイフィの目に感情の光すらない、称号も依然として「心無き」のまま。


 「不満ですか?どうやら本当に知らないようだね。」


 俺の表情を気付き、彼女は溜息をする。


 「普通の人間はあの冒涜的な物を近距離で見たら、理性を崩壊し、狂気に陥る可能性があります、シスター・レイフィは経験ある処刑者故免れたが、貴方のメイドさんと違って、心を休む必要がある、だから『心無き』も暫く続く。」


 セフィリアの疑心を消したのはいいけど、古神がコスミックホラー的な特性を持ってる事は流石俺の意表を突いた、今後注意する必要がある。


 「はい、あの時は所謂バーサーカー状態なので、この様な精神的なダメージをガード出来ます。」


 セフィリア一行が去った後、俺はアイリーに詳細を問た、やっぱりあの赤いオーラがそうだったのか。


取り敢えず現時点の状況を振り返てみよう。


 一夜の雨が止み、人世に非ざる悲鳴を上げ続ける古神もすっかり沈静化したが、その巨体、百キロ離れてもはっきり見える。詳細は分からないか、その巨体の上に緑が萌える事は分かる、鑑定ウインドウを開き、「原初なる大地の汚れ」という名前の横に、小さな「同化中」のマークが付いてる。


 同化?大地を?それとも大地に?疑問を抱えて、俺は更なる鑑定を進める。


 初めに見たのはその人域に有らざる数値――数億のHPとMP、そして百万単位のステータス、こりゃ地に這うどの生物も抗う事が出来ないだろう。説明によれば、古神は地外生命体らしい、源もちゃんと記載していたが、生憎俺には宇宙の座標を分かるはずがない。コアは不定形なエネルギー体で知能も低く、宇宙に彷徨いながら餌を探して食うと排泄の過程をひたすら続ける。エネルギー体故排泄物も純粋なエネルギー、その排泄物がエントロピーのバランスを維持し、宇宙のヒートデス――熱的死に到達するまでの時間を長引く。


 なるほど、一種の延命システムだったのか、けどまだ元世界に仮設だった熱的死はアカシックレコード(仮)に定着しているのは、つまり幾つかの宇宙から熱的死を観測済みだろう。宇宙に関する他の終焉も気になるか、とにかく解析を続きましょう。


 古神の餌は主に形成して間もない星体、この「間」は数千万年か、それとも数億年かは分からない。星表面の物質を侵食して顕現、そして星その物を食らう、後に仮の衣を脱い、再び星の海へと。結局、その星自体は砕いて気体化、次の星の養分或いはネビュラになる。知性生命体が生息する星には主動的に現れないらしい、原因は知らないか、俺の推測だと、知性生命体が誕生した星は既に何十億年を経ったので、星としては正に盛年期、侵食どころが、逆に同化させる可能性がある、だから本能的に避けた。


 これで一応解析終了、なんで年を時間単位として使われているのかは気になるか、いまんどこ支障がないため良しにしましょう。古神をこのまま放っていても大した脅威にはならないか、この星に完全同化するには考えもつかない歳月を必要でしょう、知性は低いか、仲間を呼ぶ可能性も否定出来ない為、早急解決した方が良さそうだ。


 まぁ、この星の民を信じよう、過度な関与は俺の主義に反するからな。


 「目眩、幻覚、動悸或いは精神的疾患を患った方は、早急、近くにある騎士団のどころで治療を受けでください!」


 遠くから伝わって来た騎士団の告知は、解析に没頭する俺を現実に呼び戻した、その行動から見れば、直接ではないか、微々たるダメージは結構広範囲に及ぼした。


 「はい休憩。」自分しか見えないウインドウをさっと投げ飛ばして、俺は椅子にだらっと付いた、そもそも寝起きの悪い俺が朝早くから百キロも運転したんだ、これ以上歩調を乱すのはまっぴらごめんだぜ。


 それに、満面の幸せでスイーツを楽しむアイリーももうちょっとだけ見たいしな。


 三十路過ぎだ女には見えないあの無邪気な表情を見て、俺はとある科学研究を思い出した:いくら歳月を費やしても、肉体が変化しない限り、精神年齢は肉体の年齢に制限される。だからこの子はこんなにも可愛がった。


 波の音と潮風を感じながら、俺はこの数日間の出来事を振り返てみた:幼女が目の前に惨殺、ダンジョンでの冒険、巨大宇宙生命体との戦い、宗教国家の偉いさんとの遣り合い。元銀行員の俺だったら、これ等の話には縁がないはず、なのに心に感情的な波動がない、不可解だがパニックに陥るよりいいのは確かだ。


 それはそうっと。


 「え…マスター…?」


 俺はアイリーを抱き上げ、膝の上に置いた、華奢な体をした彼女は実に軽い、そして髪にいい匂いがする。


 「抱かせるのが、嫌い?」


 「んん…」


 頭を軽く振り、頬に少しな紅がついた。


 「ただ…ちょっと恥ずかし…」


 「いいからいいから。」


 柔らかい少女の体、抱きつくだけで心を癒されるな。


 「ね、アイリー、もしこの国に未練が無いのなら、明日出発しましょうか、俺もまだこの世界をもっと見たいから。」


 「はい、マスター。」


 微かな笑みをし、アイリーは小さな首を縦振りする、初めて彼女と出会った時のあの寂しさはもう見えない、良い事だ。


 他愛の無い会話をして時間を忘れ、知らない内に陽が地平に沈み始めた。


 パテオ・ド・ガーレット、旧市街の中心にあるアーメルン屈指のレストラン、王族や貴族達の趣味に合わせて、外見より味のディティールに拘る、総じて淡白かつ繊細だが、奥深いアーキテクチャを持ち、食べる者を悦ぶ。俺にしちゃシンプルな味も厭わないか、偶にこう言う入念な彫刻を施した味もいいがと。


 余談だか、アイリーの食量はその体に制限され、故にフルコースではなく「スープ、メイン、デザート」の三点セットを注文した、俺の場合は元仕事の原因で食事の時間が不安定な為、一定程度で食べる量をコントロール事ができる、だからアイリーと同じセットをした。太る者は意外に少食、これも現代社会の一大奇聞だろう。


 前菜はマシュルームとソーセージの冷製スープ、夏には嬉しい一品。マシュルームを砕けてミルクに溶いたベースは、牛乳の豊潤さと菌類の香しさを上手く調合した、仄かな塩気をするソーセージを加えて、多層的な味を演じる。


 メインは白身魚の香草焼き、淡白な味をする白身魚に数種類のハープを添い、石窯でじっくり焼く、円やかな味をすると同時に、魚の鮮味と旨味も引き立てでいる。ちなみに注文する前に、この白身魚はセイレーンの身がと、俺はウェイターに確かめていた、どうやら人間にとってセイレーンの様な魔物の肉は毒らしい、特殊な調理法でない限り料理に用いるのはまずないでしょう、ヒレやエンガワなどは肉より体のアクセサリーに似っているから食べる事ができる、取り敢えず一安心だな。


 デザートは果物のムース。数種のフルーツを用いたこのムースはバランスが取って爽やかで美味い、デザートにぴったり。


 食後の白ワインを啜りながら、俺も一時の幸せに浸っだ。


 夜が深け、レストラン内の客も段々減っていく、夜八時半頃、俺達を含めて、店内の客はもう五席にしかいない、電気がない為、蝋燭の光に揺れる客達の面影は朦朧で上手く見えない。昔停電時の光景を思い出す、如何にも人を眠りに誘う昏黄の色だ。


 ほんの一瞬、炎が消えた。


 しかし体感も出来ない短時間の後、蝋燭が再び燃え上がる。


 前と違う幽明な青光がレストランを照らしている、けど俺とアイリーの席以外、誰もいながった。幻覚?いや、絶対耐性を持つ俺には精神系のスキルは効かない。


 スプーンを礼儀正しくテーブルに置き、精巧な刺繍を縫いたナプキンを軽く唇を拭け、アイリーは口を開いた。


 「やっと来ましたね。」


 その目の焦点に、俺はいない。


 「復活の迎いを欠けた事に心底からお詫びいたします、マイロード。」


 低くで磁性のある男声は暗闇の向こうから響いてくる、伴い、山羊の頭首をした背高い者が現れた。ざっと見れば俺より20センチも高い彼は、頭首以下は人間の体型に似っている、古風漂う燕尾服を着用する故にその身体構造ははっきりしていない。


 「お世辞は結構、汝等『サン・オブ・ニグラトフ』の主人は妾ではないだろう、あくまでも取引上の便宜だ。」


 アイリーの声に、冷たさがある。


 「分かりました、けど呼称を変えるつもりはありません、マイロード。」


 深く礼をして、山羊頭は続く。


 「なら聞きましょう、時の牢獄から解放して早数日、いつまであの人間と戯れるつもりですか、ご自身の使命を忘れではあるまいな。」


 「ああ…忘れてないさ…」


 小さき頬に、苦い皺が寄せだ。


 宛もないやりとりに、いい加減聴者ぶりも呆れた、ちょっとした不快を感じる俺はグラスを置き、メニューウインドウを開く。初めに見たのは右上にある時の表示エリア、いつもミリセコンド単位で動かす数字は既に止まった、信じがたいですか、俺の居る場所の時間は止まった。次は所在地の名前、パテオ・ド・ガーレットの文字は変わりなし、けどマップを拡大表示すれば、もうアーメルンにいない事が分かる――いや、表現が正しくながったな、正確に言えば、俺はまだアーメルンにいる、けど目の前に居るアイリーの所在地は変わった、「囁く黒山羊の森」へと。


 なるほど、2つの空間が重なったのか、だからアイリーは俺を見えない、勿論あの山羊頭も、可能性は幾つもありますが、俺の感によれば、この可能性は一番高い。けど俺は彼等を「観測」する事が出来る、やっぱりゴッドモード様々だな。


 「その様子だと、人間に化した貴女でも、運命から逃れるごとが出来ないようだな、マイロード。」


 少し嘆いて、山羊頭は述べる。


 「あの人間はそんなに恋しいですか?異形なる我らならともかく、人間の基準から見っても至って普通ですが。」


 うわ…人間だけでなく化け物にも言われた、雑魚フェイスで悪がったな。


 「汝らには関係の無い話だ、暴虐なる祗王の誕生に向かえばよろしい…」


 こりゃまだ危ない話だな。


 「おやおや~ひとんちのメイドさんに強引な真似を、紳士的ではないな君。」


 「え…?」


 二人共絶句する。


 どうやら俺の出現に不可解を感じたようだ、まぁ、仕方ないか。


 けど話は続いていない、最初に反応したのは山羊頭、彼は掌を張りして重く握る、その挙動に伴って、数え切れない木の根が意思が持つ触手の様に俺の元へ襲い掛る、触手達はテーブルごとぶち破り、俺の体を穿つ――いや、透過した方が正しいか。


 「何!?」慌て


 て触手を巻き戻す山羊頭だか、俺の体を透過したその触手達は既に劣化して朽ち果てる。


 「さって、こっちの番だ。」


 俺はフォークを一つ拾い、手加減を入りながら山羊頭へと投げる。


 「ちゃんと耐えろよ。」


 無造作、且つセンスの欠片もなく一投げは、簡単に山羊頭の肩を穿った――そう、全てが一瞬、山羊頭には反応する時間すら無がった。


 「!!??」


 見だどころ、彼のライフゲージが約三分の一を減少した、驚くのも当然、何にせよ彼のHPは桁外れの六千万。


 「マスター、貴方は一体…」


 震えながら、アイリーは俺に問う。


 「ああ…せっかく用意した晩餐が台無し。」


 まぁ実際破ったのはこっちのテーブルだけ、レストランの方は無事のはず。


 「さぁ、帰りましょう、事情はちゃんと聞きますから。」


 「はい…マスター…」


 小さき頭を深く下げ、アイリーは反論をしながった。


 「あ~そうそう、もしうちのメイドさんに本当用があるのなら、無粋な真似をしないでちゃんとした席を設えましょう。」


 身を引き立つ山羊頭に対して、俺は敢えて言う。


 「勿論俺も同席だ、分かってるな、ロアグ=ニグラトフ。」


 この度、アイリーが冷気を吸った様な音が聞こえる。


取り敢えず無事に完成した、来月から銀行の年末ラッシュに入るからやがて11月一杯で14話完成出来るのかな、取り敢えず頑張ります

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