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12、自由都市フォーラン・四日目

 キンーーー!


 金属と鉱石の激突音、そして飛び散る火花、それは幼き少女が巻いた竜巻、遠心力を利用し、身長に不相応な大剣を空に浮かぶ数個のクリスタルを遠く弾き飛ばした。


 すると、散らしたクリスタルから、青白な光線が乱射し始めた。


 「危ない!」


 地に足を着いた途端、少女周りの虚空から無骨な大盾が現れ、森林の大樹をも薙ぎ倒す灼熱の光線を遮った。光線に薙ぎ倒された大樹の断面は、燃えるのも間に合わずに黒焦げに成ったか、その真紅の大盾はびくともしながった。


 やがて光線は収めた、か、クリスタルが再び浮かび上がる。


 「ちぃ、流石に硬いな。」


 身長を遥かに越えた盾の後に、幼き少女は覗きながら呟く、それもそうでしょう、先弾き飛ばしたクリスタルは、砕けるどころか、微々たる亀裂しか見えない。


 「ライエ姫、取り敢えず聖晶石の撃破は無理のようだ、これから妾は掩護に回る、その隙に目的地へ移動してください。」


 「分りました、アイリーちゃんも無理にしないようにね。」


 話の相手は尖った耳を持つ年頃の少女、洗練された猟師裝束をした彼女は、大盾が作られた安全区域を庇いにし、森の深部へと移動し始めた。


 「さってと…」


 空気を切り裂いた音が響き始めた。


 それは幼き少女が手持ちの大剣を高速で空振りをした結果、彼女もまだ体勢を立て直し、次の攻勢へと備える。その目標は勿論地図の遥か向うにいる者――先会っていた仮面を被る自分と同い年に見える暗殺者。


 「機神兵よ、妾の為に立ちはだかる敵を屠れ!」


 音と共に、虚空から機兵の巨体が現し、砂塵を席巻して空浮かぶクリスタルへと突進する。


 「んん…いまんどこ手助けする必要はないね。」


 俺はアイリーとライエのステータスを確認後、蜃気楼の様に光を屈折して形成するモニターを閉じた。目前に展開したマップ画面に、アイリーとライエは青い光点と表示している、敵対する勢力は赤い光点に表示している、数は赤いの方が上だが、一つ以外は全部無人稼動の砲台だった。


 その一つは疑いもなくレイフィ。


 強い言えば、そのメイン称号は前と違う:「聖都の歌姫」から「心無き処刑者」に変化した。元の世界、俺の理解では称号は対象の性格特徴や功績を基づき、人々が対象に付ける物、綽名もその範疇に入る。けどこの世界は違う、対象は行い若しくは機縁によって世界と言うシステムから称号を得ると同時に、世界が定義された称号は持つ意味を対象の身に顕現し、周囲に何らかの影響を与える。


 え?今の居場所?確か言えながったな、俺は今フォーラン東北郊外、彼女たちのいる森林の約1キロ上空、空間魔法を応用して対象と地平面の相対距離を変えれば可能となった、所謂擬似的な飛行魔法、その相対距離を固定した後に根源魔法で重力関数を弄れば、足場がなくでも浮遊感を消す事ができる、結構快適。因みに先のモニターも空間魔法の応用、いやはや、昨日の実験ちゃんと理屈が通じてよがったね。


 問題はこれからだ、隠密行動ゆえライエ達は援軍を期待できない、もし俺がレイフィの牽制に入れたら色々ややこしくなる、やっぱりライエの成果を待つしかないか。勿論ゴッドモードの力で全てを捻じ伏せるのも良いのだか、俺の主義に反するので止めました――せっかくの異世界だから楽しまなくちゃね。

アイリーの戦い姿を確認しながら状態魔法を使ってバフを掛ける事に対し、俺の心は妙に落ち着く、やっぱりモニター越しですから、リアルタイムシミュレータゲームをやってると同じ気分かな、モラル的な緊張感やストレスなど殆どない。


 「えっと、確かにここのはず…あ、やっぱり!」


 ライエの向かう先を俯瞰すれば、茂った森が突然深緑の平野に変えた、境目に人工的な痕跡が色濃く残ってる、叢に静かに眠る石の残骸が百年間人気の無さを示している、残骸の造景方式から見れば、古代庭園の様に見える。


 「大当たり、先ずは開放の仕方から入りましょう。」


 呟きながら、ライエは何らかの行動に移る、モニター越しとは言え、俺がその行動を理解した訳ではない。


 「あ…」


 小さな驚き声が漏れ、ダイアログボックスが無ければ気づかないでしょう、けどこの小さな声が、心無き処刑者の動揺を表す。その原因はマップ画面から消えた数個のクリスタル、破壊まで至らないが、どうやら機能不全によってコントロールを失われた。


 「喝!」


 止まらぬ猛々しい大剣の攻勢、空気を切り裂く破風の音が相次ぐ。現在のアイリーは前の淑やかさが見えない、赤く光る目、そして赤いオーラを纏い浮かび上がる波のような長髪、片手で身長を越えた大剣と大盾を持ちながら突進する姿はもはや10歳の女児とは考えられない。時に機兵達を盾にして灼熱の光線を凌ぐ、時に舞踏の様に光線を避ける、一見なんの道理もない剣捌きだが、一度のミスもない。


 決定的なレベル差って、背筋がぞっとするな。


 一方、ライエは荒廃した庭園内に特定の残骸を支点とし、煌く粉末で特殊の紋様を描く、その紋様は前に買った本に載った儀式魔法に酷似している、やっぱり古代魔法の類か。


 「朔望ノ守リ火、地母ノ使イ、我等ノ主ニ祷リを捧グ、微々タル我等ノ願望ニ哀レミヲ、コノ地ヲ破滅ヘト導カン!」


 言語は古代インスフィア語らしいが、ログウインドウから見ればなんだか凄く中二臭い、しかも危ない匂いがする。


 前兆なしに、鉛雲が群がり、太陽の光を奪った。


 そして静寂、元々声の低い祷文が、唯々木霊する。


 地上の紋様は幽々たる光を点滅し、森全体の空気を淀む。


 何が来る、俺の直感が強く訴える。


 「お行儀の悪い子ですね。」


 聖晶石の砲台が半数以上落とした故、アイリーとレイフィの間合いは既に近い。鬼気迫るアイリーに対し、レイフィの冷静は明らかに異常だ、一般人に変えたら、鳥肌が立つのもおかしくないな、これも称号の効果なのか。


 「え?」


 けど異常なまで冷静なレイフィでも、バトル開始から二回目の驚く声が漏れだ、その原因は突如起きた地鳴りだった。轟音、ひたすらの轟音、まるで大地の咆哮のような轟音、俺のいる高空まで響き渡る。


 「なぁ!」


 血潮が滾るアイリーでも止む終えなく姿勢を崩れる。


 「この禍々しいオーラは一体…!」


 荒廃した庭園に、重力を無視し、逆様に巻き起こす土石流は巨体を支える三つの足になる、一歩でも出せば、十数の大樹が踏み潰し、大地をも振動するでしょう。その足の表面は醜く腫れ、不浄の粘液が垂れる。尚続く身体の構成が足の先端に達し、土石流は先端に沢山空洞のある球体に形成する、その空洞等は無規則に歪み、どの角度からでも、名状しがたい顔にしか見えない。あんまりのグロさに、俺は吐き気まで生じた。


 「名前:原初なる大地の汚れ;種族:古神;天賦スキル:魂喰い、事象侵食。」


 うわ、なんが冒涜的な名前だな、あのコスミックホラー的な造形を加えて、少なくともとんでもない奴って事がわかる。しかもあの巨体、どうやって維持するのも謎だ、やっぱり「事象侵食」というスキルの効果なのか、命名から見ればそれらしい。


 全くだ、あんなものが動かせたら大惨事になるだろう。


 モニターの向こうに、ライエは全身の力が抜いた様に地に座り、只々、あの不浄の塊を見つめ、顔に恐怖と疑問が満ち溢れている。


 「ライエ、聞こえるか。」


 俺はモニターを越して、ライエを呼びかける。


 「海峡まで退却しろ、お前の速度なら出来るはずだ。」


 通信魔法「ウィスパー」、どの魔法体系に属しているのか不明だが、魔法店で買ったスクロールで簡単に使える、一応携帯の代用品にした。


 「あ…あ!商人さん!」


 やっと気が戻したライエ。


 「けどあれは放っておくには行きません、コントロールを掛けないとフォーランが…」


 恐怖の余りに、声に焦りがある、まさかこの事態は想定外なのか。


 「あいつのヤバさは俺でも分かる、事情は後で聞くから早くしろ!」


 「…分かった…すみません…」


 やっぱりこの子も甘がった。


 「アイリー、聞こえるか、暗殺者との戦闘は中止だ、ライエは海峡に向かう途中だ、お前も行け、あそこは一応安全だ。」


 「畏まりました、マスター。」アイリーは赤いオーラを巻きながら戦闘姿勢を解いた。「命拾いしたな小娘。」


 面前数十メートル先のレイフィに言葉を置き、アイリーは去っていく、仮面の下にレイフィはどんな顔をしているのか、分からない。


 「創世神サイフィスの名において、不浄なる物を焼き払え。」


 敢えて動揺から戻ったレイフィは、機能をすべて回復した聖晶石を呼び起こし、灼熱の光線で四面八方から古神を撃つ。やがて、膿を焼く如し焦臭い煙が鉛の空まで登り、一層曇りが増した。


 けど桁外れのステータスを持つ古神に、戦艦をも穿つ光線砲は大したダメージを取らながった、届いたのは古神の咆哮だけ、それは人の声には在らざる咆哮、それは古神の怒り、大地をも震撼する叫び、恐らく攻撃に転じるでしょう。


 「心無き」の称号、レイフィの恐怖心まで奪ったのか、全くだ。


 一方、フォーラン方向の地図に多数の光点が集まり、ここに向かってきた、陣形の取り方から見れば、騎士団に違いない、正直古神に匹敵するとは思えない。


 「ならやるごとは一つだけだ。」


 俺は呟きながら、椅子から離れた。


 実に一瞬の出来事だった。


 「え…?」


 レイフィがまだ反応していない内に、「スタン」と「手加減」全開の手刀は既に彼女の意識を止めた。


 「座標と移動軌跡を設定、これでよし。」


 俺は気絶したレイフィを空間魔法で包み込み、空から修道院まで転移した。


 運悪く古神もレイフィの移動を気づいた、醜く足を上げ、追いかけるつもりか。


 「そうはいかんな。」


 俺は再び空に上がり、心に強く念じる。


 「重力関数確定、範囲確定。」


 すると、掌に不規則な薄黒の球体が現れた――いや、黒いではなく、一定数の光があの球体が定めた範囲から逃れないから暗く見える、理屈通りだな。


 「さって、分子間引力をも超えた檻だ、ちゃんと耐えろよ。」


 中二臭い台詞を終え、俺は掌を古神に向かう。


 「重力子砲、発射。」


 目標に向かって、球体は飛んだ。


 そして、古神を中心に、半径百メートルの範囲内のすべてか圧潰した、重力による光の屈折は遠くからでも目視できる、某博士から借りだ技ですか、考えた通り凄まじ威力だ。


 「グオォォォォォォォーーー」


 もがき、苦しみ、古神の叫びはダイアログボックスで文字に化した、あの巨体を維持する事象侵食の権能でも、永遠に解けない重力の檻には抗えない。


 そして、豪雨が降り始めた。


 2時間後、森林全域が封鎖され、王家からの戒厳令も下したという消息はフォーラン城内に広げた、流石王家騎士団、対応が早いな。


 「って、事情を聞かせてもらいましょう。」


 テーブルの向こう、ベッドに布団を抱え込むライエに、俺は話の口を開いた。


 「あれかお前が思案した完璧の解決策なのか。」


 ちなみに、既に身を清め、メイド服を整いたアイリーは俺の側に立ている。


 「…はい…」


 今のライエは幼女モード、声が一段と小さく柔らかくなっていた。


 「コントロールが効かないモンスターは解決策とは言えないな、一歩でも間違えだら取り返しの付かない事になるぜ。」


 嘆きは口から漏れ、話を続く。


 「そもそもあの怪物は何だ、知れば少なくとも対策がを練る事が出来る。」


 鑑定による完全なる認識は可能ですか、やっぱりライエの口から聞きたい。


 「…古代神…」


 言葉を絞りだすように、彼女は呟いた。


 「…太古――知能ある生物がこの星に誕生する時より遥かに遠い時代、この地上を支配する異形の神々…あれが、其の一つだと思う…」


 あんまりの恐怖さに、ライエの心がまだ回復していないようだ。


 「…恐れながら、マスター、ライエ姫の思案は悪くないと思いますか。」


 珍しく、アイリーは他人を庇う。


 「ああ…言いたい事は分かる、良くも悪くも。」


 俺はアイリーを止めだ。


 「共存なら兎も角、神を操るなんで驕り過ぎたな、アイリーが一番分かってるでしょう。」


 「…はい…」


 「…えい?アイリーちゃんが何…」


 「残った事は言えずとも分かる、とある冒険の途中で古神――いや、邪神を呼ばれた方が正しいか――の関連物を発見、その関連物は書物或いは邪神を崇拝するカルト宗教は問わないか、貴女はそれを解読を終え、最終的に召喚まで至っだ。」


 ありがちな展開だから、言わずとも分かる。


 「…」


 返す言葉もなく、彼女は唯頷く。


 「まだ動けないのは不幸中の幸いだな、この状態はいつまで続くのが分からないか、早急対策を練る方がいい。」


 実際、解くか解けないかは俺の一存に限る、ステータス差が有り過ぎる故、あの古神は俺が作った重力の檻から逃れる事は不可能に等しい、けどやっぱりこの国自体で事態を収拾して欲しい、俺である事もバレずに済む。


 「…分かった、明日、議会に提出する、だから…」


 「ん?」


 「…だから、今日は一緒に寝させてください…なんだか、安心するから…」


 弱気のライエは滅多に見えないから可愛く感じるのは俺の気のせいじゃないよね。


 前述通り俺も草食ではないので、可愛くロリっ子を抱くチャンスを見逃す気はない、故に快く首肯いた。


 「…よがった、じゃアイリーちゃんも。」


 なるほど、そう言う気はあるのは俺の勘違いでしたか。


 ちなみに、心理的年齢が一番年長のアイリーは背が最も低い、レイフィよりも低いので愛されやすい、本人はどう考えだのでしょう。


最近仕事が多くでちょくちょくと書くしがないか、取り敢えず完成しました、次回は何時だろうな…10月内に頑張りましょう

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