再会への一歩
序章の続きになります。
中略
「あんたはあの男を知っているのか?」
ようやく声に出せた言葉はそれだけだった。
「ええ、まぁ。あっ、その時計……」
彼女が俺の手にある時計を見る。
同時に今までの笑顔は消え、険しい表情へと変わった。時計の近くに落ちていた血痕に気がついたようだ。
「これ、まさか先生の……」少女が呟く。
「ああ、この時計のそばにあったわけだから、その可能性は……先生?」
意外な単語が飛び出した。先生とはあの男のことだろうか。
あいつ、教師だったのか? いや、医者や作家の可能性もあるが。
「はい。あたし、先生から時渡りを学んでいるんです」
医者でも作家でも無いようだ。
「先生は私の世界ではすーっごく高名な方なんですっ。だから、弟子にしていただけるのはとーっても名誉なことなんですっ」と、自慢げに語る。
『ときわたり』聞き覚えのない単語が出てきた。
「ときわたりってのは一体……」なんなんだ。と言い切る前に
「え? え、えっと。時渡りは、時間を渡ると書いてときわたりと読みます。言葉の通り、過去へと時を渡ることができるんです。あなたも今こうして動いているということは、時渡りができるんじゃ……」
時渡り。
俺が経験したタイムスリップは、時渡りと呼ばれているようだ。そしてこの少女はあの男の弟子。
彼女ならあの男の居場所を……知らないんだったな。
「いや、俺にそんな力はない。だが、時渡はたった今経験したばかりだ」
「んー? どゆことですか?」
少女は首を傾げる。
「あんたの先生に送ってもらった。過去に。そしてたった今、元の時間に戻ってきた所だ」
よく表情の変わる子だ。
今度は信じられないと驚いた顔をしている。
「うそっ!! 先生が一般人にその時計を貸して時渡りをさせるなんて、びっくりです。……あ。私、神原友里っていいます。16歳です」
カミハラユリ 16歳二つ年下か。
薄々感づいてはいたが、この時計はどうやら時渡りに使うもののようだ。借りた訳じゃないんだが。まあいいや。
「俺は朱鷺田悠。18だ。あんた……神原さん、俺はその先生にもう一度会って話がしたいんだ。あの男を探しているんだろう? 俺にも手伝わせて欲しい」
俺の自己紹介のあと、彼女は今までで最高の笑顔を見せた。
何度もおねがいしますと繰り返し俺の手を握ってブンブン上下に振り回した。
世界はまだセピアの中にある。
そんな中、二つ。
俺と彼女、神原友里だけがはっきりとこの世界に存在していた。
『二人が出会った。
二人の長い旅が始まる。』