始まりへ
目が覚めると俺は大学近くの路地裏に倒れていた。
なにが起きたのだろう。
俺は母の実家に居たはずだが。
気を失い、気がついた場所が此処ということから察するに答えは一つだ。
元の世界(?)に戻ってきたのだ。
ここで一つ不安なことがある。
「♪♪♪」
上着の右ポケットから機械音が鳴り響いた。
携帯電話だ。
そこに表示されている文字列をみてその不安は杞憂となった。
「もしもし? 母さん?」
母からの電話だった。
「悠? 昨日の火事について警察の人が家の外で調べごとしてるの。落ち着けないから、今日も私の実家に帰ってきてもらえるかしら。パパもクラークも待ってるからね」
二人は無事のようだ。
周りを見渡してもあの男の姿は見えない。しかし、足元に拾った懐中時計が落ちていた。
よくみればそのすぐ近くには真っ赤な血痕がある。まだ固まっていない。
時計を拾い上げた瞬間。
静寂が訪れた。
世界はセピアに、静止している。
突然、目の前に黒い歪が現れた。
最初は数センチだったそれは、徐々に大きくなり、やがて2メートル前後の大きさになった。
触れても大丈夫なのだろうか。
近くにある石を拾い、投げつけてみようとすると、歪からゆっくりと、人の手が出てきた。
腕、肩、と姿を表し、最後には。
目の前に少女が現れた。
序章へと繋がります。




