英国の旅 - 21
日没。
アーサーさんと奥さんには、一切事情を説明していない。
今朝も、聞き込みだと言って家を出てきた。
夕食までには帰るようにと、奥さんに言われたが、それは無理な話だ。
俺と友里は、もうあの家に帰らないのだから。
お礼も満足に言えなかったのは心残りだし、この時間になっても俺たちが帰らないのを二人は深く心配しているだろう。
申し訳ない気持ちで一杯だ。
もう一度、皆で紅茶を飲みながら談笑したい。
温かい食事を囲みたい。
本当に、お世話になった。
だからこそ、決着をつけに此処へ来た。
「約束通り此処に来たという事は、すべてを話してくれるんだろうな? 」
……伯爵。
「あの日、何故私を置いて旅に出てしまったのですか!? 先生を追いかけて、世界中を旅しました。そして、その時代の人々と出会い、先生の……伯爵のしてきたことを目の当たりにしてきました。その目的は……。すべて、お話してください! 」
友里も思いの丈を叫んだ。
毎日、不安だったはずだ。
「伯爵、か」
男が低い声で呟いた。
相変わらずフードで顔は見えない。
目を凝らし、警戒しながら、少しづつ、足を進める。
コツンコツン
石畳が鳴く。
「やはり……」
男の声だ。
低く、鋭い。
コツンコツン
…………嘘だ。
「待て、友里」
外套の色は、真っ黒だ。
伯爵の外套は紅。
燃えるような、鮮血のような、美しくも恐ろしい紅だ。
「あんたは、伯爵か? 」
数歩下がり、友里の前に立ち、問いかける。
長い沈黙の末、笑いながら男は言った。
「やはり、伯爵の関係者か。……探したぞ」
自ら取り払ったフードの下は、全く別の男だった。
懐から出したのは抜身のナイフ。
つまり彼は、切り裂きジャック。
このロンドンを恐怖に陥れた、最悪の殺人鬼だ。




