夢の終わり
「悠ー。いつまで寝てるのー?」
母の声が聞こえる。
今、何時だ!?
目を開け、時計を見る。
お昼を過ぎている。
随分寝過ごした。流石に起きよう。
ベッドから降りて、寝間着のまま部屋から出る。
階段を降りると猫の姿が確認できた。
父は仕事だろう。
母はソファで韓流ドラマを見ていた。
「やーっと起きたのね。お昼食べる?」
「いや、いい。食欲あんまり無いから。父さんは?」
「仕事よ。でも早く終わって、今帰ってるみたい」
「そっか」
早く父さんの顔が観たい。
「悠が食欲無いだなんて、珍しいわね。大丈夫? 体調悪いの?」
心配症なのは相変わらずだ。
「大丈夫だよ」
少し前まで当たり前のことだと思っていたものが、とても大切な物だと今になって気がついた。
まさに無くして初めて気付いたというやつだ。
失ったそれを、もう一度手に入れることのできた俺は幸運だ。
少しの間、テレビを見たり猫と遊んだりして過ごした。
あまり警戒していては、不思議に思われると考えたからだ。
しばらくして父が帰宅した。
「さて、夕飯の準備しないとね」
午後の三時を過ぎて母がそう言った。
さて、ここからが正念場だ。
……そういえば、鈴木さんは、火災の原因をまだ調査中と言っていた。
今なら、それを確認できる。
うまく行けば、そのまま火災を防ぐこともできるかもしれない。
ふと火災後の家の写真を思い出す。目の前にある日常を、炎などに食わせてたまるものか。
緊張からか、少し頭痛がする。
クラークを外に連れ出すためのケースに押しこむ。
普段なら絶対に嫌がるが、何か不穏な空気を感じ取ったのか。幸い素直に入ってくれた。
妹の写真等もカバンに詰めた。
万が一の時、逃げ出す準備は万端だ。
既に消防を呼ぶ準備もできている。後は携帯で通話ボタンを押すだけだ。
「ちょっとコンビニ行ってくる」両親に告げて、外へ出た。
随分風が強い。木々がめちゃくちゃに暴れている。
そんな中を歩きながらしばらく様子を見たが、火災の起きる様子はない。放火を企んでいるような怪しい男も居ない。
一度家へと戻ろう。
そう考え、踵を返した瞬間、ガラスの割れる音と共に、突然大きく火の手が上がった。
「な……、クソッ」
未然に防ぐことも出来なければ、原因も解らない。しかし、そんなのは今となっては二の次だ。
今は皆の避難させることが第一。
玄関に駆け込み、叫ぶ。
「二人共! 裏口から外へ出るんだっ! 小野さん家から火が出てる!」
二人は俺の声を聞き、窓からそれを確認すると、裏口から避難した。
あとは……。携帯電話の通話ボタンを押す。
「もしもし。火災が起きているので急いで来てください。住所は……」
数分後、炎は完全に消えてなくなった。
俺達は身体検査のため病院へ行き、検査が終わった後、母方の実家へと向かった。
俺はみんなを救うことができたのだ。
あれは、やはり夢だったのでは無いだろうか。
現実的に考えてみれば時間を巻き戻し、過去にあった出来事を変えるだなんてありえない事だ。しかし、俺は確かに未来の記憶を持ち、火災を予知し、それから家族を救い出した。
つまり、実際に未来を変えたことになる。
あの男、一体何者なのだろう。
この力があれば……。
なんとかしてもう一度話ができないだろうか。
あの男にもう一度。
検査では問題はなかったが、先ほどから頭がひどく痛む。バンドか何かで絞めつけられているようだ。西遊記の孫悟空の気持ちがよくわかる。もう一度医者に診てもらったほうがいいだろうか。
そう思い痛みに耐えながら立ち上がるが、徐々に強まる痛みにより、まともに歩くことができない。
遂にフラつき、倒れてしまう。
変だな。
立てない。
徐々に視界が眩んでゆく。
痛い。
目に映るものは黒。
徐々に意識も遠くなって。
やがて途絶えた。




