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英国の旅 - 5
あの日の夢を見た。
俺はまだ、彼女を救えないでいる。
自分の叫び声で飛び起きた。
勢いで額から首元までを大粒の汗が走り抜ける。
決して暑い訳ではない。
悪夢の朝は、いつもこうだ。
友里はまだ、隣のベッドで寝ている。
「おはようございます、アーサーさん」
部屋から出て正面の階段を降りる途中に気がついた。
芳しい紅茶の香りが少しずつ、近づいてくる。
芳醇なそれは、俺の脳から悪夢の記憶をほんの一部だけ掠め取り、代わりに幸福を植えつけた。
「おはよう、ユウ。……彼女はまだ目覚めないかい? 」
アーサーはソファに背中を預け、紅茶を口にしている。
「はい。まだ眠っています」
彼は頷きながらカップに視線を落とした。
「アーリーモーニングティーだ。隣にどうぞ」
空のカップにティーポッドから紅茶が注がれる。
正面の大きな窓から差し込む光が、液体をルビーのように輝かせた。
「いただきます」
「今日は休日なんだ。それで不都合がなければ、君たちの事と昨日の事件について、話を聞きたいんだが」
彼はカップから視線を此方へ向けた。
ブロンドの髪とグリーンの瞳が日光を浴びてより一層美しい。
「もちろんです」
頷いてカップの紅茶を啜る。
甘く。苦い。
紅い液体は喉を潤し、胸を温めた。




