英国の旅 - 4
「落ち着いたかい? 」
警察を名乗る男性は、低い声で言った。
彼の家は美しいレンガ造りの一軒家だ。
日本では見たこともない立派な豪邸で、庭も広い。
門・ドアを通過し、俺達はリビングへと辿り着いた。
ソファが部屋の真ん中に設置され、対面キッチンの目の前にはテーブルとイスがある。
ソファの正面には大きな窓があり、そこから庭へと出られるようだ。
もっとも、今はカーテンで庭を見ることも出来ないが。
深夜にもかかわらず、彼の奥さんは立派な食事をテーブルに並べた。
見た目も味も申し分ないそれを、一人で食べるのは気が引けたが、友里は声を掛けても起きる様子はない。
それだけでは無く、宿が無いことを知った二人は、宿泊まで許可してくれたのだ。
「助かりました。何から何まで、ありがとうございます」
二人に深く頭を下げた。
友里はまだ、目を覚まさまない。
よほどショックだったのだろう。
急に目の前に死体が現れたのだから、当然の反応だといえる。
「構わないさ。この町の夜を、路上で明かそうだなんて危険すぎる。奴の餌食になってしまうよ」
男性はカーテンで覆われた窓の方を見て言った。
「奴……ですか? 」
男性は、何度も頷いた。
「切り裂きジャック、さ。さっきの死体も奴だ」
「切り裂きジャック? 」
その人物が、先ほどの事件の犯人なのだろう。
「ジャックについて話すのは、また明日にしよう。時期、夜が明けるが……少しでも眠ったほうがいいだろう」
彼の言う通りだ。
肉体的にも、精神的にも疲労を感じる。
「そう、ですね」
ふと窓の外に目をやった。
只々暗闇が広がっている。
日が昇れば、噂に名高い美しい街並みを目にすることができるのだろうか。
「申し遅れた。私はロンドン警視庁、スコットランドヤードのアーサー・カインズだ」
「朱鷺田悠です。あっちは神原友里」
「ユウとユリだな。君たちの部屋はこのリビングにある階段を上った正面の部屋だ。普段は客間に使っているから、遠慮なく寛いでくれ」
アーサーはそういってリビングから見える寝室へと入った。
せっかくだから遠慮なく使わせてもらおう。
友里を抱えて階段を上がった。
二つあるベッドの片方に友里を寝かし。
もう一方に倒れこむ。
眠気は徐々に意識を侵食し、やがて夢の世界へとたどり着いた。




