英国の旅 - 3
石畳と革靴の打つかる音が、カツン、カツンと辺りに響く。
「これだけ霧が濃いと、歩くのも倍疲れる」
独り言のつもりだったが、友里は頷いて言った。
「そうだねー。悠君、足元に気をつけてね? 」
「ん……。友里も」
それから、俺達は一言も喋らず、黙々と歩みを進めた。
見知らぬ街で、暗闇の中。
霧に包まれ、時折設置されている薄明るい外灯を頼りに。
暗闇は人を不安にさせる。
友里の手は冷たく、小刻みに震えている。少しだけ握る手に力を入れた。
どれだけ歩いただろうか。時計台の有名な『シティ・オブ・ロンドン』だが、それも今は見えない。
異変に気がついたのは、友里だった。
「あれ? 水たまり? あれ、今――」
彼女が突然ぼそりと呟いた。
雨など降っていないし、霧の影響だろうか。
視線をゆっくり足元に下ろす。
「ホントだ。濡れて……」
革靴は、赤と黒を基調とした酷くグロテスクな色をしていた。
この色、見覚えがある。
「違う。友里、これは」
目の前に広がっているであろう道、目を凝らす。
靴の先に、血だらけの人間。
友里も気がついたようだ。
断末魔のような叫びを上げて、気を失った。
繋いでいた手で引き寄せ、逆の手で彼女の背中を支えた。
頬には涙が流れている。
まさかこんな事になるとは。
「どうするか……」
ため息を大きく吐いて空を見上げる。
相変わらず星も月も無い。
「おい!! 何があった! 」
駆け寄ってきたのは、懐中電灯を手にした男だった。
良かった。人が居た。
――まて、こんな時間に街にいる人間をそう簡単に信じていいのか?
「う……。これは酷い。警察だ、一緒に来てくれるな?」
そう言って肩バッチの階級章をこちらに向けた。
なるほど、信じてもいいみたいだ。




