船旅 - 19
――その後
しびれを切らしたレオナが警備員を連れて来て、廊下で倒れている男たちを連行していった。
どうやら『船に無銭乗船したヤツら』というのは彼らの事だったらしい。
「先程の揺れは? 何かあったのですか?」
友里が警備の男たちに尋ねると、
「おそらく、氷山にでもぶつかったのでしょう。大丈夫、この船は何があっても沈んだりしませんよ! 」
と、自慢気に答えた。
警備員の殆どは部屋を出ていき、残った男が廊下で事情聴取を始めた。
今はアレックスとレオナが対応している。
……氷山?
「友里! まずいぞ!!」
彼女と目を合わせるが、何が?と言わんばかりの安堵に満ちた表情をしていた。
「タイタニック号だぞ」
彼女の耳元で囁くと、漸く気づいたようで、徐々に焦り始めた。
「ど、どうしよう。え、えーっと、先生は――」
「もう、此処には居ない……」
伯爵がこの時代に居ない。
なら、俺達が此処に居る理由もない。
……いや、まだヒントが残されている。
「なあ、伯爵について、何を知っている? 」
俺は背後の柱に縛り付けた男に尋ねた。
警備員と俺達のやりとりをつまらなそうに見ていた男だったが、伯爵の名を出した途端に、いきり立って言った。
「伯爵!? やっぱり、お前たちは伯爵の仲間なのか? 何処にいる?
会わせろ!! 」
男の形相は、自由に動けないのが解っていても、思わず一歩退いてしまう程必死なものだった。
「質問に答えるんだ。何を知っている? 」
「……何も知らねえよ。さっきまで一緒に居た男が言ったんだ。伯爵を捕まえれば、過去の失敗をやり直すことができるって。本当なのか? なら――」
「さっきの男は何者だ? 」
男の声を遮って尋ねる。
「知らない。数日前に、アイツから声をかけてきたんだ。お前の過去を知っている。やり直したくないか?って」
男の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
この男にも、やり直したい過去があるのだ。
俺と同じだ。
違うのは、友里と会えたか、会えなかったか。
俺が幸運だっただけだ。
そうでなければ、俺もこうなっていたんだ。
「伯爵は、もうこの世界にはいない」
男には真実を告げた。
一切の装飾もない真実だ。
男の目から徐々に生気が失われていく。
柱に結びつけたロープをナイフで斬り、拘束を解いた。
「ユウ! ちょっといいか―? 」
アレックスが呼んでいる。あんな戦いの後なのに、元気なものだ。
「ああ、今行くよ」
俺は友里の手を取って廊下に出た。
警備員の男性から幾つか質問があったが、すぐに開放された。
「さぁーてっ! ユウ、約束どおり……ディナーに行くわよ! 」
レオナの叫び声が狭い廊下に反響した。アレックスが彼女の隣で笑顔を浮かべている。
彼らはこの船が沈むことを知らない。
遠くで水の流れる音がした。




