船旅 - 16
右手のそれによって放たれた鋭い突きからは、一片の躊躇いも感じられなかった。
反射的に避けたナイフは、完全に回避することも叶わず、僅かに左肩を掠めた。
男の視線は真っ直ぐに俺の目を捉えている。
ナイフの切っ先を視界に入れた瞬間、腹部に激しい痛みを感じ、そのまま体は吹き飛ばされ、体中の骨や内蔵が軋むような悲鳴をあげた。
左の拳を貰ったようだ。
「……げほっ……げほっ。……くそ、こっちの男もめちゃくちゃじゃないか」
こみ上げてくる吐き気を飲み込み、歪む視界に無理やりピントを合わあせた。
「悠君……、逃げて! 死んじゃうよっ!! 」
友里が何か叫んでいる。悪いがそれどころではない。
「おいおい、伯爵の代わりにしては随分ショボい救援隊だったな。お前、もう立ち上がるのが精一杯じゃねーか」
男の耳障りな挑発が部屋に響いた。
「……どうかな」
どうにか立ち上がり、男に視線をやる。
瞬間、思考の海が澄み、視野が広がったような感覚を得た。
男は右手のナイフを再び構え、
「命は奪わねぇよ。でも、……両手両足は諦めるんだな! 」
叫びながら同じ左肩を狙い、突き出す。
部屋の明かりを反射し美しく光る刀身に、一筋だけ伸びた赤い液体が雫となってポツリと落ちた。
男の攻撃を回避し、先ほどと同じように放たれた左の拳を右手で掴む。
いなし、僅かに体勢を崩した瞬間、男の右手に握られたナイフを左手で奪った。
「同じ手が通用すると思ったのか? 油断しすぎだ」
その時の男の表情には驚きと怒り、憎しみも存在していたが、膝が地面に着き、ナイフを首元に当てられた時、それは引きつった不格好な笑顔に変化していた。
何とかなったな。
アレックスは……。




