船旅 - 15
船旅-11の場面から繋がります。
バチンと音を立てて部屋の明かりが点くのと同時に、友里が叫んだ。
「悠君! ごめんなさいっ! それと……、ありがと! 」
彼女は部屋の隅で拘束されている。
二人の男が、俺たちと彼女の間に立ちふさがる。
驚くべき事に、二人共日系の顔立ちだ。
一人はこの場に相応しい、黒いスーツに身を包み、此方と隣の男、視線を交互に動かしている。
もう一人の男は、黒い軍服と紅い裏地の黒い外套を身につけ、片手には軍帽を手にしている。
軍人だろうか。
数秒の沈黙を破ったのは、その黒い軍服の男だった。
「貴様等、何者だ」
歳は同じくらいだろう。
まだ若いのに、畏怖を与える声色で俺たちを威嚇した。
隣の男は驚いた表情でこう言った。
「えっ……伯爵じゃねーのか?」
「ああ、こんなに若くない。何より、伯爵に仲間は居ない」
伯爵の事を知っているのか……。
益々彼らを逃すわけにはいかない。
「アレックス、この二人を拘束する。手伝ってくれるか? 」
彼は微笑んで、大きく頷いた。
頼りになる男だ。
「あの帽子の青年、かなりの腕だ。俺に譲ってくれよ」
「そうなのか? なら任せた、俺には荷が重い」
武道の経験があるわけでもない。
相手が強いのなら願ったりかなったりだ。
アレックスはハンドサインで軍服の男を挑発し、
それを真似るように相手のもう一人の男が俺に敵意を示した。
「悠君! 無茶しないで!」
友里の声を聞いたアレックスが、
「ユウ、ガールフレンドが心配してるぜ」と冷やかす様に言った。
……随分余裕だな。
「さっさと片付けて、ディナーにしよう」
「随分と舐められたものだ。おい、そっちの日本人は殺すなよ」
軍服の男が鋭い眼光で此方を睨んだ。
視線で人が殺せそうだ。
「はぁ……。オイ、ガキ。後で拷問だぜ、腹括れよ? 」
スーツの男はゆっくりと此方に近づきながら、懐に手を入れ、ナイフを取り出した。
「安心しろよ。とりあえず、殺すなって命令だから……」




