船旅 - 13
紙一重でそれを躱す事ができたのは、日本の歴史に名を残した武士達の戦いが、まぶたに浮かんだからだろう。
腹部を狙い、放たれた拳は、空を裂き、男の表情は驚きに満ちていた。
腕には自信があったのだろう。両目を大きく開き、親の敵を目の前にしているような表情を浮かべている。
その感情は、本来、俺が持つべきものだ。
友里を拐われ、伯爵に勘違いされ、突然殴られる。
理不尽な事この上ない。
「友里は、この先にいるんだよな? 」
再び同じ質問を、男に向けて言った。
「ああ、奥の倉庫で寝てるぜ」
男は低く、力強い声で答え、再び此方に拳を向ける。
信長の太刀筋は、もっと速く、鋭かった。
男の手には当然、刃が無い。
……何を恐れる必要があるだろう。
彼の右手首を左手で制し、正面にある太い首を右手で強く掴んだ。
そのまま左側の壁に押し付ける。
どうやら俺は、自分で思っていたよりずっと焦り、怒りを覚えていたらしい。
何の躊躇もなく首を絞めている自分を、
また、それを客観的に見ている自分も、非常に恐ろしく思えた。
伯爵を追うため――。
彼女を救うためなら――。
「は……ぐ……しゃ…………ぐ…………」
男は声にならない声を上げ、泡を吹き、意識を失った。
ふと我に返り、男の脈を確認した時、生きていることに安心できたのは、人としてまだ正常な部分があるのだと実感できた。
「おい」
後ろから、男性の声が力強く響いた。




