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船旅 - 4

 燭台には火が灯り、階段と私の足元を優しく照らしている。

 私の身体を包んでいるドレスは、透明感のあるベージュから、燃えるような朱色に染まった。

 空になったグラスを片手に、幼子のようなスキップで階段を下りて行く。


 辿り着いたのは船の中とは思えない巨大なホール。

 それ相応のシャンデリアを始めとする、綺羅びやかな装飾で目が眩む。

 デッキで行われている立食パーティにも勝るとも劣らない賑わいだ。

 

「すごい! こんな美しい客船を旅できるだなんて……」

 デッキの聞き込みを悠君に任せて置いてきてしまったのを少し悔やむ。

 彼も一緒なら、この感動を分かち合えただろう。


「兎にも角にも、お話を聞いてみなくちゃっ! 」

 さて、どの人にしようかしら……?

 燕尾服を身につけた男性。

 この船のウエイターさんかな?

 それとも、誰かの執事?

 美しい黄金の頭髪で縦ロールがよく似合う女性。

 どこかの国の皇族の方?

 いやいや、財閥のお嬢様かも?

 彼女と一緒にいる背の高いスーツの男性。

 彼女のボディーガード?

 うーん、婚約者かな?

 あー、何処を見渡しても新鮮な刺激が溢れている。


 んー……。

 あっ。

 この船に乗って初めて見る黒い髪。

 もしかして、日本人?

 そう思うと親近感が湧いてきて、近づかないわけにはいかない。

 よし、この人に聞いてみようかな。

 男性は黒い軍服と紅い裏地の黒い外套を身につけ、片手には軍帽を手にしているのが見えた。

 彼は他の乗客と会話している。

 話の途中で割り込むのは失礼だよね……。

 暫く離れて様子を見ることにする。

 ギリギリ姿の確認できる壁側に寄りかかった。


――数分後。

 彼がポケットから金色の懐中時計を開き、周囲を見渡した。

 近くの乗客は徐々に立ち去り、彼の周りに残ったのは二人の男性。

 どちらも巨人のような体格だ。


「そろそろ良いかな」

 私は、温めていた壁を蹴り、彼らの許へと向かった。


 どんな小さなことでもいい。

 先生の手がかりを知っていますように、と祈りながら。

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