船旅 - 3
さて、友里は船内へと向かっていった。
軽快な足取りは、船内の雰囲気によるものだろう。
犬の様に、あるいは、兎の様に飛び跳ねていった。
ドレスの裾を踏みそうで少し……、かなり心配になる。
現在、立食パーティが行われているこのデッキには、乗客の半数以上が詰め込まれているらしい。
見渡す限り人で埋め尽くされ、少々息苦しいが、船内は友里に任せて、ここで話を聞くとしよう。
すぐ近くの貴婦人が言った。
「紅い外套の男性なら、沢山いらっしゃいますが……。眼帯をしている方は、残念ながら記憶にございませんわ」
友里のストレートな栗毛とは相対的な金髪の縦ロールが潮風に揺れた。
女性の手では先程まで友里が飲んでいた液体がグラスの中で揺れている。
何の飲み物だろうか。友里に聞けばよかった。
縦ロールの彼女はもういいかしらと視線を自分の背中へと向けた。
その先に居る背の高い男性が此方を不機嫌そうに睨んでいる。
グラスの中身は気になるが、面倒に巻き込まれても困る。
彼女に礼を言って立ち去ろうとした時、風が冷たくなっているのに気がついて、船の外を観ると凪の海には氷塊が浮かび始めていた。
この船の結末を知っている俺は、焦らずには居られない。
縦ロールの女性は踵を返し、男性の許へと真っ直ぐ向かった。
彼の勝ち誇った様な顔に、少し苛ついた。
別の乗客に声をかける。怪しまれながらも聞いて回ることしか選べない。
しかし、その後も一切の情報を得ることなく。
無情にも時は刻々と過ぎ去り、待ち合わせである日没の時間になった。
友里は少しでも話を聞けただろうか。
そんな淡い希望を抱きながら、俺は合流地点へとゆっくり歩み始めた。




