表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/71

出会い

 叔父と叔母にあいさつをして原付でいつもの駅へと向かう。

 心配性だった母が毎日玄関まで送ってくれたのが遠い昔の事のように思えた。


 通学中、なにをして過ごしていたのか全く記憶にない。

 ただ、ぼーっと座っていたのだろう。

 携帯音楽プレイヤーからは父も大好きだったモーニンがイヤホンを通じて耳に流れてくる。


 駅から数分、キャンパスが見えてきた。

 あの日と何一つ変わらない風景が視界を流れていく。


 ふと、左手の路地に目をくれると、妙な男が視界に入った。

 真っ赤な衣装に身を包み、美しい金髪の男だ。

 明らかに地元の人ではない。いや、日本人ですら無い様に見えた。


……ん!?


 瞬きをすると、その男は消えてしまった。


 思わず、この世の終わりであるかのような、絶望に満ちた深い溜息がでた。

 どうやらまだ疲れが残っているらしい。しかし、流石にこれだけはっきりと幻を見ると自分の体が心配になってくる。


 おや?


 件の男の幻をみた辺りで何かが光を反射した。

 車道の向こう側だが、サラリーマンの通勤ラッシュを超えたこの時間帯は車の通りは少ない。隙を見て横断する。


 路地に落ちていたのは、小さく、古ぼけた懐中時計だった。

 傷だらけで、幾つか凹みもある。汚れているにもかかわらず、高級感に溢れていて、其処らの懐中時計にはない何か不思議な力を感じた。

 時計を開けようと試みるが、なかなか開かない。

 壊れてしまっているのだろうか。


「ダメ、か」


 何度試しても開かない。

 必死になって開けることも無いか。

 不思議な力なんて無い。

 ただの壊れた懐中時計だ。


 あきらめて、あとで交番に落し物として持っていくことにする。ポケットにそれを入れ、キャンパスへ向かう。


 はずだった。


 元の道へ戻るため振り返ると、フードを深く被った男がこっちに近づいてくるではないか。


「なにか、御用ですか?」

 男は何も答えない。

 パーカーを着た不良かと思ったがそれは間違いだった。

 彼の服装は全身真っ黒で地面スレスレまで伸びた丈の外套に身を包んでいる。

 突然足を止めたと思うと、近くにあった鉄パイプ(水道管?)を手に取り殴りかかってきた。

「うぉ! 何のつもりだ」

 男は何も答えない。

 フードの中を覗く間も無く、男は鉄パイプを振り下ろす。躱そうと後ろに跳ぶが、避けきれずに左手を痛めた。

 走って逃げたいところだが、生憎元の道に出るには男の向こう側へ行かなければならない。後ろには小さな抜け道があるが、俺が通れるような大きさではない。

 容赦なく殴りかかってくるそれを、なんとか避け続ける。


 カシャ


 飛び退いた拍子にポケットから先ほどの時計が落ちてしまった。


 すると、その衝撃を受け、壊れていた蓋が開いた。


 錆びているのだろうか、ギチギチと音をたてながら、ゆっくり、少しずつ。


――突然、男がパイプを頭上に振りあげた形で静止した。

 それは文字通り時間が止まったかのように。


 時計は完全に開き、中の三本の針は十二時二十分を指している。随分時間がズレているようだ。


「おや……君は」


 背後に男の声がした。

 振り向くとそこには真っ赤な外套マントを羽織った金髪の男が立っていた。

 左目には真っ黒な眼帯をしている。


 いつの間に後ろに湧いたんだ。


「君、その時計をどこで拾ったんだい?」

「えっと、……そこで」

 見るからに怪しい格好だ。

 パイプの男とは対象に赤い外套に外人のような金髪。

 危ない人にしか思えない。


「あんたは、そんな格好でなにを? 何者なんだ?」

 聞かずには居られなかった。


「私は、時の旅人さ」

 ああ、ダメだこの人。

「君は随分な過去を背負っているね。僕には分かるよ」

 危ない人だと確信した。あまり関わらないほうがよさそうだ。


「うん、それじゃあ俺はこれで失礼します」

 足早に帰ろうとすると彼は言った。

「待ちなよ。君、過去に戻りたくないかい? 現実を、君の世界を変えてみたくはないかな?」

 どういう事だ。

 思わず足を止めてしまう。

「なにを言っているんだ? 全く意味が分からない」

「そのままの意味で受け取ってくれて構わないさ。過去へと戻り、君の家族を奪ったあの火事を止めて来ようと思わないのかと、言っているのさ」


 なんだ……!?


 なぜこの男は事件のことを知っている。

 テレビや新聞には載っていないはずだ。


「お前、何者なんだ」

「私は、時の旅人さ。時計を拾ってくれたお礼だよ。こいつの力で君を過去へと、誘おう。さあ、準備はいいかい?」


 本当に戻れるのだろうか。

「3」


 あの日に。

「2」


 事件のあった。あの日に。

「1」


 戻って、家族を救い出せるのだろうか。


「さあ、行っておいで」


 この手で。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ