船旅
今回から、投稿ペースが落ちています。
基本的には週一で木曜日、金曜日の更新になると思います。
プロットはある程度出来上がっているのに、中々執筆時間が取れないというのは辛いですね……。
美しい蒼天に、太陽が輝いている。
数刻前までの凪が嘘のようで、潮風が前を歩く友里の髪を揺らし、彼女の薄生地のドレスを煽った。
この巨大な客船のデッキでは、楽団の演奏を背景に、立食パーティが開催され、英国の紳士淑女が会話を楽しんでいる。
俺と友里は上手く馴染めているだろうか。
いや、馴染めているわけが無い。
服は無料でドレスとスーツを貸してくれたのだが、着替えたところで英国式の作法など全くわからない。
怪しい二人だと、思われているだろう。
「大きいっ! 私、こんなに大きな船に乗るの初めて!」
ベージュのドレスに身を包んだ友里が言った。
美しい装飾は、彼女の栗色の髪とこれ以上ない波長の良さで踊り、その違和感の無さで、ここで浮いているのは自分だけなのではと不安になる。
「ああ、俺も初めてだよ。それだけじゃない、海外への旅もだ」
友里は笑って頷いている。
その笑顔を見て、胸の奥に渦巻く真っ黒な不安も溶けてしまった。
この時代に到着したのは、昨晩のことだった。
例のごとく、伯爵の居場所を友里に確かめて貰ったのだが。
その結果は驚くべきことに、北大西洋のど真ん中だと言い出した。
さすがに何かの間違いじゃないのかと疑ってかかったが、彼女の見た場景はそれを納得させるのに十分な物だった。
氷塊の浮かぶ海原。
巨大な客船。
その船に施された美しい装飾の数々。
視界に収まりきらない程の人々。
北大西洋という場所・聞かされた時代から考察すると。
国外で、日本人が居ると期待はできそうになかった。
しかし、初めての国外で、その上船旅だ。
正直、不安よりも楽しみで興奮が収まらなかった。
そんな心境で時間の道を歩き、到着したのが。
1912年4月14日 英国客船 タイタニック号 である。
当然、この船の結末を知らないはずがない。危険なのは重々承知だ。
伯爵を追う旅に、安息など無いのだと。戦禍の時代で学んだ。
しかし、死ぬつもりも毛頭ない。
伯爵を捕まえ、時渡りの技術を自分の物にするまでは、死ぬわけにはいかないのだ。
「さて、これからどうしようか……」
今回の旅も、前途多難なものになるだろう。




