この道の先で
この話までは、数年前に新人賞のために書き溜めたものです。
お粗末な文章で恥ずかしい事この上無いのですが、一切修正等をしていません。
次回からは更新が遅れます。
もし読んでくださっている方が居られるのなら、気長に待って頂けたらと思います。
翌日。
本能寺からの脱出後、光秀の屋敷で部屋を借りた。
その晩は、死んだように眠った。
布団に入ったのが遅かったのもあり、目を覚ますと既に日は高く登っていた。
「結局、伯爵には会えなかったな」
俺は目の前で湯のみに口を付けている友里に向けていった。
「うん。もうこの時代には居ないみたい。私達も……」
結局俺たちは、信長の隣に居た伯爵と接触することはできなかった。
目の前まで辿り着いたのがまたもどかしい。
「この時代を旅立つ前に、光秀にお礼を言いに行こう」
立ち上がり、両開きの襖を開け、廊下に出た。
友里もすぐ後を付いてきている。
がたん。
背後で何かが倒れる音がした。
振り向いて確かめようとするが。
それよりも速く俺の視界は暗転した。
……。
気がつくと俺は、初めて時渡りをした路地裏で寝ていた。
立ち上がり、辺りを見渡すと足元で友里が倒れていた。
「おい。友里。大丈夫か」
「う、うん。一体何が起こったの?」
さあ。と両手でジェスチャーする。
「此処って。悠君の居た時代だよね……。なんで?」
「俺が聞きたいくらいだ」
どうやら今回も友里の時渡りでは無いようだ。
一体どうなっているのだろう。
「友里、此処は、完全に俺の居た時代なのか? 時渡りをすることで少しずれた世界になるとか言ってたが、此処はどうなんだ?」
「わかんない。小さい変化があるかも知れない」
「そうか、とりあえず家に行こう。服も着替えないと。あ、でも女物なんて持ってないしな……」
「ねぇ」
「いっそ新しい服買いにいくか、どした?」
「ここで、お別れしよっか」
友里がそう呟いた。
辺りに人影はない。
世界中の時間が止まっているようだった。
「どうして」
彼女は顔を伏せて、目を合わせようとしない。
「悠君に、これ以上迷惑かけられない。運良く助かったけれど、次は死んじゃうかもしれない。私には、それを見届ける勇気がないの」
「友里。俺は、まだ伯爵に会ってない」
「そもそも、どうして貴方は先生に会いたいの?」
「それは……家族を救うチャンスをくれた礼を」
「お礼が言いたいなら、私が伝えておくよ」
友里らしくない。
突き放すようなきつい口調だ。
俺は、友里と出会ってから。
伯爵を追うのに、礼を言うことを理由とし、友里にもそう伝えてきた。
掛け替えの無い家族を救った恩人だと。だから、行方不明の彼を探す手伝いをしたいと。
しかし、俺は礼を言うためだけに命がけの旅に出られるような肝の据わった人間ではない。
「友里」
彼女は視線を逸らさない。
只々、俺の目を見ている。
「俺には、妹が居た。名前は、優奈。年は2つ離れていた」
「何の話?」
「少し長くなるけど。我慢してくれ。優奈は、2年前に殺された。俺が17歳、優奈は14歳だったはずだ」
友里は黙って話を聞いている。
「あの日、。リビングの椅子の上で、優奈は殺されていた。胸をナイフで一突き。部屋は荒らされて酷く汚れていた。警察は、金目当ての強盗と判断し、捜査を始めた。……だけど、結局犯人は捕まっていない」
友里は何も言わない。
「俺は、初めて時渡りをして友里と出会い。いくつかの世界で伯爵を探して回った。その日々の中で、一日だって友里のために行動したことは……ない。すべて、自分の目的のためだけに動いて、怪我をしてきた。だから、友里が俺に迷惑をかけたことなんて一度もない」
俯いた彼女は今、俺のことをどう思っているだろうか。
「俺の伯爵を追う理由は、礼を言いたいからなんて簡単なものじゃない。伯爵から時渡りを学び、過去へと戻り、妹を……優奈を助け出すことだ。そのために、友里。俺に力を貸してくれ」
酷いやつだと、蔑まれるだろう。
だが顔を上げた彼女は、俺を責めることもなく。
ただ、その両目から、雨露のような涙を大地に落としていた。
「先生が居なくなって初めて時渡りをした先に、悠君。貴方が居ました。先生の下で世界中を旅する元の生活に戻る日を願い。その為なら、一人でも頑張れると勘違いしてました。実際に時渡りをして旅に出てみれば、私は無力で、毎回貴方に助けてもらってばかり。怪我までさせて。でも、やっぱり一人は辛い……。私一人じゃあ、何もできない。これからも怪我をさせてしまうかもしれない。いつ先生に追いつくかも分からない。それでも、貴方は、付いてきてくれますか?」
そう言って彼女は泣き崩れた。
俺を置いていくことを、思い直してくれたようだ。
さて。
「それで、伯爵はいま何処なんだ?」
彼女は顔を上げ、涙で頬を濡らしながら微笑んだ。
それはいつもの作り笑いとは似ても似つかぬ太陽のような笑みだった。
『こうして彼らの旅は、終わり、再び始まった。
私はまだ、彼女を救えないでいる。』




