血の海
本能寺 南門
寺とは名ばかりの城である。立派な建物に思わず息を呑む。
現代において、この地を訪れたことも無ければ、写真で観たこともない。
伯爵を捕まえ、目的を果たした際には、現代にて必ず本能寺へと足を運ぶと心に誓った。
俺達が今見ている屋根は、壁は、地面は。どう変化したのか。もう跡形も無いのか、それともそのままの形で残っているのか。
この目で確認したくなった。
門の周辺には当然織田の兵。
槍を携えた警備の兵が扉の前に並び。
二階の窓(穴?)から二つ、鉄砲が飛び出ている。
人数は敵のほうが多いな。敵地だから当たり前だが。
しかし、本当に警備が薄い。前線に全力を注いでいるのだろう。
さて、どうするのだろう。
「撃て」
小さく光秀が呟くと、俺達の前で銃を構えている男たちが引き金を引いた。
俺はすぐに友里を抱き寄せ、視界をその身体で覆った。
「えっ」
ダンッ。と音が響くと城壁の穴から出ていた鉄砲が二つ地面に落下した。と同時に数名の武士がこちらに向かってくる。
一人は伝達へと向かうのだろう。建物の中へと走った。
明智兵は空かさずその報告兵へと鉄砲を放ち、命中させる。
光秀と数名は刀を抜き、向かってきた武士を切り崩した。
「行きましょう」
流石だ。
「友里、急にごめんな。もういいよ」
そう言って彼女から手を離す。
「あ、うん。ありがと。急に何かと……」
無事南門を制圧し、城内へと向かう。
――本能寺本殿一階
刀を構えた武士が沢山。
二階から銃を構えた兵数人。
門を開けた途端に正面から鉄砲の玉が先頭を進む明智兵を襲う。
左腕に着弾したが幸い軽傷のようだ。
「友里! 治療の準備を!!」
「うん!!」
俺たち二人は背後で衛生兵を務めることにした。大した治療はできないけど、止血するだけでも違うはずだ。
明智を中心に敵の武士を次々に切り捨ててゆく。
その後も多少の怪我を負いながらも死者を出すことなく奇跡的に一階を制圧。
背後からの奇襲に北門の見張り達も焦ったようだ。
二階から兵が何度も降りてきたがその度に銃で攻撃。明智偵察兵の調査で城内地図を完成させたのは大きな勝因になった。
北門を開放し挟撃を仕掛けたことで城外も制圧。
前線の兵たちと合流を果たした。
このまま何事も無く勝利かと思われた。
「上手くいったな」満足気に言った。
「いえ、まだです。一階を抑えても二階へと我々は中々進めません。敵軍が階段で待ち伏せているでしょう」
光秀の言うことも最もだ。
「ですが、それは彼らも同じことなのでは?」
友里が俺の言おうとしていたこと口にした。
「ええ、このまま硬直状態が続くとは、考えられません。いずれ仕掛けてくるでしょう」
数分後。
俺達は突然、白煙に包まれた。
当然視界は何も映らない。
「友里!!」
幸い扉のすぐ側にいた事もあり、俺は友里の手を取ってすぐに外へでた。
中からは敵とも味方とも分からない男達の声にならない断末魔が溢れてくる。
「暫く、そこの芝影に隠れていてください」
護衛の若い武士がそう言って城の中へと戻っていった。
それから数分。
「大分、静かになったな」
「うん」
「少し覗いてくる」
「えっ。危ないからやめてよ……」
友里は引き止めたがこのままじっとしているわけにもいかない。
少しだけだからと言って門へと向かう。
大きく開かれた木製の扉から中を覗く。
そこは地獄だった。
壁や床は真っ赤に染まり、覚えのない異臭が空気を占領している。
どこを見渡しても屍。
二階へと向かう階段のすぐ側で、俺と友里の護衛の若武者が壁にもたれかかっている。
「おいっ! 大丈夫か!!」
積み重なる遺体を飛び越えて彼の元へ向かう。
「う、……あ……」
かろうじて息はあるようだが、肩から深い切り傷を負っている。
俺達が手当をしたところで全く意味が無いだろう。目も虚ろで、呼吸も薄い。
「おいっ! しっかりしろ!」
「光秀様を……」
彼は階段をゆっくりと指さした。
呼吸が少しずつ弱くなり、やがて動かなくなった。




