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時渡りについて

「話って何だ?」

 先ほどの御門の対応を疑問に思いながら、手頃な岩に腰を落ち着けて友里に尋ねる。

 何かを知っているような優奈の雰囲気に少し苛立ちを覚えた。表情や声にでていなければいいのだが。

「時渡りについて、少しと説明をします。多分、これからも今回の様なことがあるでしょうから」


 時渡りについて。

 当然、俺は何も知らない。

 伯爵は勿論、友里からも十分な説明を受けていない。

 俺は首を縦に振り、同意を示した。

 そして友里はゆっくりと口を開いた。


「まず、私もまだ完全に時渡りを理解しているわけではない事をお伝えしておきます。その上で聞いてください。時渡りは過去へと自由に行き来できる便利な技術の様に見えますが、誰にでもできるわけではないですし、それを行う為の道具が必要です。私のはこの腕時計ですね。先生から貰ったものです」


 右手首の少し古風な、しかし、友里の着ていた現代的な服装でも、前の時代の小袖でも、御門に貰った和装でも、付けていて不自然でない腕時計を自慢げにこちらへ向けた。


「先生の場合は懐中時計です。悠くんが今持ってる時計と同じ形の物ですね。それが先生の使っていた時計かどうかは分かりません」

 ん?

 じゃあ俺は、この時計で時渡りができるのでは?

「ですが、今悠くんが自分で時渡りができない様に、道具があれば誰でも、という訳でもないんです」

…………。


「何故か、というのは説明できません。機会があればその時に。……続けますね。以上のことから、時渡の技術は決して社会に浸透しているわけではありません。存在を知っている人間も少ないです」


 俺たちはその数少ない人間なわけだ。


「その上、私みたいな弟子入りの身は自分の意思で特定の時間へ行くことも出来ません。親と呼ばれる存在――私の場合、先生のことです。私たち、子は年や場所をある程度指定できても、月日や細かな時間を指定できないんです。これが先生に中々追いつけない理由ですね。先生の居る年がわかってもそれが何ヶ月前なのかが分からないからこちらからは中々動きづらいわけです。そして、ここからが一番大事な話です」


 一番大事な話か。


 「実は、時渡りをした先は同じ世界ではありません」


……ん?


「ちょっと意味がわからない」

「はい、簡単にいえば少しずれているんです。現代で昔飼っていた犬の名前を仮にAだとします。時渡りをした先では飼っている犬の名前がBだとかCなんかに変わっていたりするわけです」

 少しだけ変化が生じる。


「詳しく説明するとですね。今いる世界を仮にAの世界だとします。そこで時渡りを実行すると、Bという新しくAにそっくりの、別の世界が生まれるわけです。つまり、時渡は実際には過去に移動しているのではなく新しい別の世界に移動しているわけです。その為、極端なことを言えば過去で自分を殺めてしまっても今の自分自身には影響が全くありません。……なにが言いたいかと言うとですね。私たちと御門さんが出会った事実が消滅していましたね。それは此処が先ほどまでいた世界とは別の世界で不具合が生まれたからなんです。今回の様に同じ時代に2度訪れるとよくあることなんです」


 珍しく長い話だった。

「なるほど、少しだけど納得できた。よくわからない部分も多いけどな」

 友里は笑って

「ええ、それでいいんです。今回のようなことは決して珍しいことでは無いんだってことがわかってもらえれば十分です」と言った。


 日が沈み、木々に囲まれたこの泉は暗闇に閉ざされようとしてる。

 泉から溢れでた冷水が流れていく。

 海までたどり着くのに一体どれだけの時間を必要とするのだろうか。

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