泉での出来事
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話をしていたはずなのだが、いつの間にか眠っていたらしい。夜中に目が覚めてしまった。
正確な時間は分からない。
少し、外の空気が吸いたいな。
初めて此の屋敷から外へ出た。辺りには大小様々な建築物が並んでいる。
静かな夜だった。虫の鳴き声も、鳥のそれも聞こえない。
ふと御門家の裏に林が広がっているのに気がついた。
林の奥からは水の流れる音が微かに聞こえる。
林の規模は思っていたより小さく、少し中に入ると湧き水でできた美しい池があった。
「誰だっ!」
池に先客が居たらしい。
「あ、驚かせて申し訳ない。決して怪しい者ではない」
両手を上げてアピールする。
男は、視線を池に戻した。
「どうしてこんな時間に?」
気がついたら俺は、その男に声をかけていた。
男はこちらに振り向くこともせず、返事も返さなかった。
「信長軍の新しい軍師について何か知らないか?」
わらにもすがる思いで言葉にする。当然のように無視され、ため息を吐いた後何処かへ去ってしまった。
(仕方ない。帰ろう)
気分転換にはなった。明日も何があるか分からないし、怪我のことも無視はできない。
帰宅後はすぐに布団に入り眠った。
――次の日。
目を覚ました俺達は、今後のことを話し合うこととなった。
御門には気分転換といって二人で昨夜の池へと向かった。
「おそらく、伯爵は織田信長の軍師をして生活しているのだろう。確証はないが、これまで手に入れた情報をまとめるとこれが一番しっくり来る」
「そうですね。でも、だとしたらどうやって近づきましょう」
確かに。俺たちの格好は少なくとも兵に見えないだろうし、たとえ武器や防具等が手に入って、武装できたとしても、一兵が軍師という重役に謁見することは容易では無いだろう。
友里もなかなかいい考えが出ないようでうーうー唸っている。
さて、どうしたものか……。
ガサッ
背後に人の気配を感じた。
咄嗟に振り向くが目に映るのは新緑の木々ばかりである。
その後突然、視界が暗転する。
何が起きたのか何一つ理解できなかった。
『すぐ近くにいる。
すべて、奴の罠だ。
急がなくては。』




