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友里の思い

 時渡りを経験して間もない彼に私は頼りすぎている。

 毎回私は彼に手を引かれてばかりで、自分から何もしていない。

 先生が居なくなって、初めての時渡りで悠君と出会えたのはものすごく運が良かった。

 もし一人でこの世界に来ていたら……と思うとゾッとする。

 服を手に入れることも、宿を探すこともできず、路頭に迷っていたことだろう。

 当然、先ほどの男から話を聞くことも出来なかった。

 随分なお荷物だ。

……このままじゃダメだ。

 私にできることをもっと頑張らないと。

 先生。

 絶対追いついて見せますからっ。

 悠君。

 もう少しだけ、力を貸して。


「ごめんなさい……。取り乱してしまって」


 ああ、恥ずかしい。

 あんなに情けない姿を見せてしまった。

 それでも彼は「気にするなよ」といって笑ってくれる。

 先生と私に出会って彼の運命は随分大きく変わってしまった。

 これで良かったのかな。

 あの時、私は彼の誘いを断るべきだったんじゃないか。


 私のそんな気持ちを遮るように、

「伯爵は、まだこの時代にいるのか?」

 彼が言った。

「あ、今調べますね」



 先生、今何処に居るの……。

 先生から頂いた時計を操作し、気持ちを落ち着けて右腕の腕時計に意識を集中する。

……。

…………。

………………。

 お城。

 折れて地面に散らばる刀身。

 大量の死体。

 時計が年を教えてくれる。

 1582年。


「――もうこの時代には居ないみたいです。もっとこまめに調べるべきでした……。ごめんなさい」

「いや、気にしなくていいんだ。今回は、いろいろあったし」

 本当に。


「それで、伯爵は今、何処にいるんだ?」


――

 1582年、か。

 んー。

 何があった年だろう。

 こんなことになるんだったらしっかり勉強しておくべきだった。

 いや、そもそも俺は地理選考だったからな。

 分からなくても仕方がない。

 誰かが聞いているわけでもないのに言い訳を並べ、自分を納得させる。

 友里はまだ元気がない。ように見える。


「とりあえず、ここにはもう用はないし。行こうか、次の時代で絶対探しだしてやろう」


 そう言うと友里も顔をあげて笑顔で返事をしてくれた。

 それが作り笑顔だってばればれだったけどな。






『ここでの目的は果たせた。

  あの子は、救われただろうか。

   私を追うあいつが、近づいているのを感じる。』

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