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 七夕だからなのだろうか。

 この時代の土に足を下ろしてから結構な時間が過ぎたはずだが、人の影が減る様子は無い。

 俺と友里は、二人で赤い外套の男を見なかったかと、延々と聞いて回っているが、やはり皆知らないと言う。


 街中から鳥のような笑い声が聞こえる。空を見あげれば只々暗闇が広がるばかりなのに、視点を落とし、辺りを見渡せば提灯や蝋燭で昼間


のようである。

 皆、昼夜の堺を忘れ、酒と周りの空気に飲まれている。

 千鳥足の男が道端に倒れこむのを何度も見かけ、その度に近づこうとする友里を止めた。


 酔っぱらいにはなるべく近づけたくない。


「明るくなって来ましたね。悠さん、眠くないですか?」

 眠い……。

 まだ十数年しか生きていないが、それでもこれほど瞼が重たく感じたことはない。

 重金属でできているのだろうかという瞼を一生懸命に持ち上げながら

「友里こそ、大丈夫か?」と聞き返した。


 友里はふらふらしながら大丈夫ですと答えた。お互い限界が近そうだ。

 あの男、そう簡単には見つかってくれそうにないな。


「あの、赤い外套の……」

 数メートル先で友里が男に声をかけている。まぁ、今回もどうせダメだろう。そろそろ他の手段を考えないとな。

「ほんとですかっ!!」

 友里が笑顔でこっちに走ってくる。

 まさか。


「見たそうですっ!! お話を聞きましょうっ!」




 すぐそこに視える『やすみ処』という看板の建物に席を移すことになった。

 どうやら『やすみ処』とは人々が自由に出入りできる公共の施設のようだ。

 木造の屋根の下には同じく木でできた長椅子がいくつも設置されている。

 酒を飲んでいる者、飲まれ倒れている者、会話を楽しむ者。様々な人が居る。

 隅の椅子に俺達は腰掛けた。


 隣で酒を飲みながら談笑する男たちの声に負けないように声を張り上げて男は言った。

「赤い外套で、金髪の男だろ? 昨日の昼間、そこの通りですれ違ったよ」

 そう言って俺たちが先ほどまで聴きこみ調査をしていた通りを指さした。

「随分な格好だからな、注目の的だった。俺もよく覚えているぜ」

 どうやら伯爵は間違いなくこの時代に居たようだ。

 今、この瞬間も別の時代に時渡をしているのかもしれないが。


「何処へ向かったのかわかりませんか?」

 友里が尋ねると男は首を振ってこう言ったた。

「すれ違っただけだからな、詳しくは分からねぇが、港の方へと向かったみたいだな」


 港か。あとで行ってみる必要が有りそうだ。

「悠さん」

「ん?」

「港へ行ってみましょう。何か分かるかもしれません」


 男は知り合いを見つけたようで、俺達に何も言わず何処かへ行ってしまった。


 お礼くらい、言いたかったんだけどな。

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