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序章

はじめまして。

ロマの青年というHNで投稿させていただきます。


 もし、私の作品に目を通して頂けたのなら、感想・御意見を送ってくださると嬉しいです。

 眼の超えた方ばかりで、若輩者の私の文章など読むのは苦痛でしか無いかもしれません。ですが、そんな方々にこそ厳しいお声を頂けたらと考えております。

 また、28部までは数年前に書き溜めたものを一切修正することなく投稿いたします。

 読み返すと恥ずかしい事この上ないのですが……。


 週一での投稿を予定しております。

 しかし、講義とバイトで予定通りにはならないかもしれないです。

 長い目で見て頂けたら幸いです。

 目の前に少女が現れた。


 彼女は、頭に乗っている黒いボーラーハットを右手で脱いで髪を整える素振りをした。

 茶色。少し赤みが強い様に感じる。

 栗色と表現したほうがいいだろうか。

 派手すぎず、地味すぎない。少女の髪はそんな色をしていた。

 瞳の色は、一切の光をも許さない黒点。

 髪の長さは、小さな肩に少しだけ掛かる程度。美しいその光沢で、天使の輪を作り出している。

 ベージュで薄生地のモモンガカーディガンの中には、英字で世界中の都市の名がプリントされた白地のティーシャツ。墨で染めた様な黒いデニムショートパンツを穿いている。

 夜空と同じ色の黒いハイソックスを身につけ、最後に、白とピンクのポップなスニーカ。

 彼女は再び黒いボーラーハットを被った。


 誰が見てもその辺を歩いている、極普通の女子高校生にしか見えない。

 彼女が特別な人間であるなどと、ホームズでも推理できないだろう。


――そう、こんな状況でなければ。


 このような状況ではなくて、通学の途中、駅前の道ですれ違った。だとか、ショッピングモールで見かけた。とか。

 それなら俺だってそこまで深く気に留めることもなかったはずだ。

 ただ、目に留まるほどの美しい女子高生とすれ違った。

 特別といえば特別だが、それでも日常のなんでもない出来事の一つだったはずなのである。

 しかし、今俺の置かれている状況が、『日常の何でもない』と称することを許さない。

 今置かれている状況こそがまごうことなき非日常なのだから当然だ。

 非日常の中で起きた日常は、討論の余地もなく非日常なのだ。


 俺の住んでいた世界は色彩豊かで、世界には絶景と呼ばれる場所があり、そこでは言葉を失う程の感動を得ることができた。

 透き通り、どこまでも続く海原。

 神の住まう神聖な寺院。

 古に創造され、風化した遺跡。

 巨大な山と流水による渓谷。

 歴史と文化の結晶である町並み。


 いずれも訪れたことは無いが、死ぬまでにはその機会もあるはずだ。

 そんな、思いを嘲笑うように、俺の視界に映り込んでいる世界は、水彩絵の具を極限まで水で薄めたようなひどく淡い色をしている。


 さて、この喩えで伝わっただろうか。


 他に例えるのなら、日光の当たる窓際に放置され、長い時間をかけて色落ちし、やがてセピア色になったカラーの写真ような色、と表現しよう。

 いや、なんとも言い表しづらい。

 しかし、大体のイメージは伝わっただろう。


 異常なのだ。


 自分と、その少女と、足元から拾い上げた右手の懐中時計とその近くに落ちていた血痕以外。


 この不思議な世界に立ち入るのは、二度目。

 以前、俺がよく似た懐中時計を開けた時にも同じ現象が起きた。

 ひょっとしたら同じ時計かもしれないが。


 その時は、暴漢と共に世界から色彩が消え、流れる水も風も、男の心臓すらも止まっていた。


 金髪の男と俺を除いて。


 しかし、拾った懐中時計の針達は今、立派な蓋で身を隠している。そのため、何が原因で周りの時間が停まっているのか。残念ながら理解できない。

 もっとも、懐中時計を開くことで時間が止まる仕組みも、理解など当然できていないのだが。


 一つだけはっきりしているのは、この空間で動くことができる彼女が、あの金髪の男と同様、ただの女子高生であるはずがないということだ。


 もしや、あの男の仲間か。


 彼女がこちらを振り向くと、当然目が合った。少女は少しだけ驚いたような顔して、美しい栗色の髪を揺らしながらその口を遠慮気味に開いた。彼女の澄んだ瞳には見慣れた自分の顔が写り込んでいる。

 そして「えっ、あなた……」と小さく一言だけ、やさしく呟いた。

 聞こえるか聞こえないか、ギリギリの音量で。

 彼女の視線はそのまま寸分振れず俺の双眼を捉えている。


 反応に困り、唖然としている俺に、彼女はもう一度その口を開いた。

「真っ赤な外套の男の人を見ませんでしたか? 金髪で、左目をアイパッチで隠している人ですっ」

 今度はしっかりと耳に届く声量で。元気で、明るい声と口調だ。それこそ正に、街を歩いている女学生の姿そのものだった。


 二年前、事件に巻き込まれて逝ってしまった妹。もし生きていれば彼女のような元気な少女になっていたのだろうか。


 いや、それよりも今、彼女は何と言っただろう?

 赤の外套を羽織り、金髪で、左目をアイパッチで隠している男。

……間違いない。あの男だ。

 この少女もアイツを探しているのだ。

 彼女も俺と同じなのだろうか?

 あるいは、また別の理由か。


 あの男と出会ったのは数時間前。

……いや、実際にはよく分からない。

 頭がおかしくなったのではない。……と思いたい。

 この訳のわからない感覚には大きな理由がある。

 それを説明するには俺の体感で、やはり数時間前に遡ることとなる。

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