窓越しに見える情景
高校2年生の秋、僕は視界の先300mの彼に恋をした。
初めて彼を見たのは10月の席替え後最初の火曜日の2限目。この日は先生が休みで、数学の勉強をするはずの時間は自主学習となっていた。
定期試験が迫っているわけでも、何かしらの行事が近づいているわけでもないこの時期に自主学習といわれてまともに勉学に励む者はおらず、皆与えられた自由な時間をだらだらと消費している。
勤勉とは言い難い性格である僕も大多数と同じように時間を持て余し、何も考えず無気力に窓の外を眺めていた。
窓の外に見える学校のグラウンドでは他のクラスが体育で長距離走を行っていた。
この寒い中大変だな、と傍観者気分でグラウンドを走り回る人間を観察していた時、彼が視界に入った。
綺麗だ、と思った。
彼の走りは運動とは無縁の僕から見ても美しいものだとわかるもので、僕の視界は一瞬で彼に埋めつくされる。
彼の走りは姿が美しいだけでなく速さも持ち合わせているようで、
先にスタートした集団をどんどん抜かしていく。
僕の後ろで他の男の子が彼の走りを賞賛し、女の子は黄色い歓声をあげている。その声を耳に入れながらも振り返ることはなく、授業終了のチャイムが鳴るまでただ彼を見ていた。
これが、彼と僕の一方的な出会いである。