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第1章

 「――うおおっ!?」


彼の杖の先からとんでもない勢いで飛び出てきた青白い光の球を、真希は死に物狂いで避けた。


「おや、これを躱すとは、やりますねぇ」


少年は意地の悪い笑みを浮かべ、その杖の先を再び真希に向けた。

真希の背筋に、得体のしれない恐怖が走る。


次の攻撃は、やはり真希のことなど待ってはくれない。

すぐにその細い杖の先端から、青白く発光する弾が、真希めがけて飛んできた。


「ちょ――待て! 話を聞け!!」


次々に飛んでくる弾丸をよけながら、真希は必死に叫ぶ。

アクション映画の主人公にでもなった気分だ。


「――む?」


此方からの反撃が無いことを疑問に思ったのか、青年はひょいと杖を下げ、真希の目を睨んだ。


「何を企んでいるんです? 一撃も反撃してこないとは……」


彼は何も見逃さんとでも言うように、その眼光を鋭く光らせ、真希を睨む。

そんな彼に真希は必死に、


「だから話を聞け! 私はただ通りすがっただけだ!」

「――はい?」


苦笑しながら、彼は再び杖を上げた。


「見苦しい言い訳は結構です。どうやら、魔力切れのようですね」


何を勘違いしたのか、青年は動けない此方を良いことに、杖の先を真希の額に押し付ける。


「これなら、避けられないでしょう?」


にんまりと、彼は笑った。

万事休す。

真希は、ギュッと固く、その眼を瞑った。


「それでは、この後まだ仕事もありますんで。――終わらせて頂きますね?」


その杖の先が、再び光を発し始めた。


――ああ、私、死ぬんだ。


そう彼女が思い始めた、その刹那。


――緋色の閃光が、彼の杖を弾き飛ばした。



「民間人に手を出すとは、名探偵が聞いて呆れるじゃないの」



それは、商店街のゲートの上に、優雅に腰かけていた。


 短く切りそろえられた黒髪に、露出の多い服。


「――人聞きの悪いことを言わないでくれます? 柚葵さん。あいつはそこの豚の仲間ですよ?」


青年は顔をしかめ、その女性を睨む。


「私には、そうは見えないけどね? とりあえず、そこの貴女」


女性の瞳の先が、突然此方に向いた。

思わず、真希は身を引き締める。


「そんなに怖がらなくていいわよ。――ちょっと、事務所まで来ていただけるかしら?」


そういって、柚葵はにこりと笑みを浮かべた。





 「まさか、本当に通りすがりだったとはね……」


‘所長’と書かれたプレートのある机に腰掛け、青年は偉そうに呟いた。

その反省の全く見えない態度に、真希は思わず、むっと顔をしかめる。


そんな‘所長’の代わりに謝罪をしてくれたのは、茶を入れている途中の柚葵だった。


「御免なさいね、ウチの所長が」


柚葵は苦笑混じりに、小さく頭を下げる。

その後ろにいる彼は、少し決まりが悪そうに、杖の手入れをしていた。


「あぁ、いえ。貴女は悪くないです」


そう言って、真希はじとっとした目で、突如として襲い掛かってきた青年を睨み付ける。

青年はふぅと嘆息し、


「そこに寝ている豚の仲間かと思ったんですよ」


彼が指差す先には、先ほど柚葵に縛られ、(何故か亀甲縛り)ピクリともしない男。


「私とこいつが仲間じゃないってことくらい、少し考えればわかると思うけど?」

「念には念を、です。……さて、柚葵さん」


彼はむすっとした顔で、杖を腰に着いたホルダーに仕舞う。


「あら、何?」

「その豚を引き渡す依頼人。……そろそろではないのですか?」


そういえば……と、柚葵は左手に着いた腕時計を見る。

細めのベルトが特徴の、高級そうな腕時計だ。


「十分も遅れてるわ。……少し、様子を見てくるわ」

「頼みます――さて」


彼女が事務所を出たのを見計らい、青年は、真希に話しかけた。


「先ほどは失礼いたしました」

「あ、いえ、どうも……」


あまりにもあっさりと謝罪をしてきた彼に、真希も思わず、頭を下げる。


「私はここ――『中野魔法探偵事務所』所長、中野ロキと申します」

「中野……ロキ?」


変わった名前だ。


「私は新野真希です」


本当は今すぐにでも目の前の白髪頭を殴り飛ばしたかったが、ここは行儀よく頭を下げておく。


「先ほどの女性は霧島柚葵。私の助手一号です」


一号ということは、他にもいるのだろうか。

そんな真希の疑問を透かしてか、


「実は、まだ一人だけなのですがね。これからも増やしていく予定です。一号、二号、ブイスリー……」


ロキは指を三本立て、ニヤリと笑う。

嫌な寒気が、彼女の背筋を撫でた。


「えっと……何が言いたいんで?」


「貴女……探偵に興味はありませんか?」



赤渕のメガネの奥を曇らせながら。


――――彼は、得意げな顔でそう言った。

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