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一週間が過ぎ

 レティシアが帰還して一週間が経った。この一週間で両親は東奔西走し、誠が行方不明になっていた件の諸々の問題を片づけていったのだ。


 一度は一つになったかと思えた八角家は、父の誠の部屋来訪以来、再び緊張状態を強いられることになっていた。

 父は後ろめたさからレティシアとの距離を測りかねている。忙しさを言い訳にして、あれ以来碌にレティシアと会話が出来ていなかった。

 美保は兄だと認めたものの、本当のことを教えてもらえていないことがつっかえて、どうしても信用しきれなくなってしまっていた。

 母はそんな家族を見て、おろおろと悲しそうな目でいるだけである。生来あまり頭が良い方ではないため、彼女は娘になった息子をただ信じ待つことしかできなかった。

 レティシアこと誠は、そんなことはどこ吹く風と、食事以外は階下に降りてくることはなかった。

 

 よって誰一人、この一週間歩み寄りを行っていないのである。いや、唯一母のみが懸命に誠に話しかけてはいるが、いまだ感情を揺り動かすには至っていない。

 実質、誠が人間らしい感情を見せたのは、最初の日のみであった。今は生きた人形オートマタと呼ぶことこそがふさわしい。


 あの日以来、レティシアの姿は起こしに来る美保ですら見ていない。美保が扉に手を掛け、開く前にレティシアは誠の姿に変わるのだ。誠の姿を常にするという言葉に嘘はなかった。


 同時にそれは、レティシアの拒絶に他ならない。


・・・


 レティシアは強い落胆を感じざるを得なかった。どこかもしかすると、父になら受け止めてくれるのかもなんて、本人も意識していないほど淡く薄い期待を抱いていたのだ。

 はたしてそれは明確ではないものの拒絶された。

 父はわたしの憎しみの黒い炎に包まれる狂気を※(表現変更)、受け止めることが出来なかったのだ。復讐者であることが、この平和な日本に住む父には、どうしようもなく罪深く許し難い存在にわたしを見せるのかもしれない。

 それを責める気はない。いくら父がわたしの親だと言い張ろうと、所詮一般人にすぎなかったのだ。尋常ではないわたしの考えを理解しろという方が土台無理な話なのだ。

 わたしがただの人を理解できなくなってしまったのと同様に、彼らもわたしを理解できない。もはや別の文化を持つ、別の人種へと、わたしは成り果ててしまっていた。

 今も覚えている。父がわたしの過去を知り、わたしの瞳を見たとき、裂帛の強い煌めきを灯していた父の瞳が、弱々しい吹けば跳ぶような眼光しか映し出さない、一般人のそれと同じに化してしまった瞬間を。 


 つまらない。

 父がその程度だったことよりも、仄かに期待してしまっていた自分が。

 この後に及んで、未だ理解者を求める情けなく脆い自分が、度し難い存在に思えて仕方がなかった。


 わたしは独りだ。

 

 復讐者である自分が、仲間を求めてはいけない。 


 そんなことは勇者にでもやらせておけばいい。


 

 ――そんな時分である。誠の親友が八角家を訪ねてきたのは。

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