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『最後の花嫁』の物語

作者: 那雲 華

ここクルヴィナ世界には大小様々な国があった。

その中でも頂点にあったのがクルヴィスト国だ。

この世界を作った神が、一番最初に作った人間を王位とした創世の国である。

神の国としてあるので永世中立国でもあった。

しかし他国の王家もクルヴィスト国王家の傍系にて成り立っている。

そう、つまりすべての国は親戚ということなのだ。

それは時代が進むにつれ民が増えていき、住む土地が広がり、様々な文化やコミュニティが形成されていった為、地形や文化の境目で分けていったのである。

しかしいくら親戚同士と言えども王家の、特に直系の血筋ともなると喉から手が出るほど魅惑的なものであって。

つまるところ世界のトップに立つことであるからだ。

であるからしてクルヴィスト国国王の代替わりや、婚姻になると各国で、血で血を洗うような熾烈な争いが起きた。

そのことに頭を痛めたとある時代の王太子は、神に祈った。

争いが起きない娘を与えてくれるように、と。

見事に次の日、神殿の泉から奇妙な服を着た娘が現れる。

話を聞くとどうも違う世界からきた異世界の娘のようで。

身寄りの無い娘は神から召され王太子に与えられた奇跡の花嫁として迎えられ、いつしか二人はお互いを思い合うようになった。

こうして最初の人間の子孫と異世界の花嫁が代々クルヴィスト国を治めていくこととなる。




「これがクルヴィスト国の簡単な歴史で、貴女が来られた理由です」


そう締め括っても娘――――年齢的には女性――――はただボンヤリと私を見つめるだけだった。






女性の名はシズク。

家名は知らないが、どうせ今後意味はなくなる。

年齢は二十歳だというが、やや幼さがあった。

しかし幼いといえど、もう少し年を重ねたらとても可愛らしい容姿になると予想できる。

今はこの状況に混乱していて無表情だが、笑えば魅力的になるのも間違いない。

まずは慣例に習ってゆっくりと慣れて頂かなければ。

バスティアン王太子と共に改めて誠心誠意尽くそうと誓った。






※※※※※






「シズク、気分はどうだ?」


代々の花嫁に与える専用の部屋に入れば、ドレスに身を包んだシズクと、将来俺の右腕になる宰相補佐ウィルス・コープナーが対面して座っていた。

今の現状を伝えるのは次期宰相の務め。

ちょうどいいタイミングのようだ。


「寒くはないか?泉の水は冷たいからな。もう少しで温かいお茶がくる。それともケープを先に持ってこさせようか」


未だボンヤリしているが、その利発そうな可愛らしい顔がとても愛しい。

この女性が私の妻になるのか。

悪くない。

早く笑顔を見せてほしいものだ。


「そんなの………いらない」


だがシズクは、私に




「元の世界に帰して。出来ないなら――――殺して」




涙を見せることしかなかった。






※※※※※






私は貴方を永遠に愛すことはない。

だって私にはすでに、心から愛している人がいるんだもの。

彼は社会人で、私が学校を卒業したら結婚する約束をしていた。

本当に愛し合っているの。

時間が違うからほんのちょっとでも会えるのが嬉しくて。

今日だって唯一、一日ずっと一緒にいられる日だったのに。

たまたま水溜まりに足を入れてしまったばっかりに、こんなとこに来てしまって。

あまつさえ見ず知らずの男と結婚ですって?

なんの冗談よ?

何て身勝手な世界なの。


愛せない

愛さない

そんなものくそくらえだわ


私の愛は彼だけのもの


帰して

帰りたい

帰してよ………


出来ないなら

無理なら


いっそ

殺してよ






※※※※※






あれから一ヶ月。

シズクは私とウィルスの前で嘆いて以降、一言も話さない。

世話役の女官長や侍女達でさえ、だ。

食事は一応喉を通してはいるようだが、細くなってきている。

なんてことだ。

私はもう、シズクのことを愛しているのに、伝えているのに全く響いていない。

それどころかますます悲しい顔をする。

どうしたらいいんだ?

このままではシズクが死んでしまう。

シズクが死んだら………?

また次の花嫁を迎えるのか?

過去に何度かあったようだが、私は嫌だ。

花嫁は替えのきかないものだ。

道具では無いのだから。


シズク、シズク


愛しているよ。

失いたくないんだ。

どうすれば………






※※※※※






今日、王妃様がきた。

私と同じようにここへきた人。

しかも日本から。

優しそうな人だった。


部屋に入ってきたとき、見回して訝しげな顔したけど、それはまあ仕方ないことだ。

あまりにも殺風景すぎたからね。

割れそうなものや、背の高いもの、重いもの、布製を一切なくしてしまった。

私が王太子の妻になってしまうまえに、この命を絶とうとするたびに没収されてしまったんだ。

何もなくなったにも関わらず、部屋には常時侍女がいるという状態にもなっていた。

窓にも鍵がかかってしまっている。

もう、八方塞がりもいいとこだ。


ところで、そう、王妃様のことだったかな。

なんか色々言ってきた。

自分も突然ここに来て、しばらく何もかもを拒絶していたけれど、当時の王太子を筆頭に周りの人が優しくしてくれてとても嬉しかったんだとか。

未来の王妃様だもの、優しくするのは義務でしょう?

何を言っているんだか。

だからと言って私が流されるとでも思っているんだろうか。

なら、お門違いも甚だしいことこの上ない。

婚約者がいると言っているのに結婚を強要させようとするのが優しい?

寝言は寝て言え。

好きにならない愛さないと言っても聞きゃしない。

耳はついてても機能してないんじゃない?


とにもかくにも、ここは私にとって地獄でしかない。

だから、もしかしたら本当は私は死んでいて、地獄に落ちてしまったのかな。

落ちるようなことした覚えないんだけどなぁ………






※※※※※






走る、走る


暗い王城の中をひた走る。

見張りの侍女は暫く動けないはずだ。

鳩尾攻撃の上に夜にしか敷かないシーツを火事場の馬鹿力で引き裂いて口ぐつわと手足も縛ったもの。

しかもお互いに素人の急所は下手くそで、かなり痛い。

けど、運が悪かったってことにしよう。


とにかく


見回りの騎士を、息を殺してやり過ごし、泉へと向かう。

泉は願った人間の相手を連れてくる。

この国の王太子しかやったことはないようだけど、一応私は至極不本意ながらその相手だ。

その相手が願ったっておかしくはないはず。

藁にもすがる思いでひたすらに走った。






ずっと部屋にいたからか、運動不足が著しいが、これでも陸上部の長距離専門だった。

なんとか泉にたどり着くことが出来て、よかった。

泉へ近づけば、私でも空気が違うとわかる。

縁に腰かけて、右手を入れてみた。

さらさらとしていて、気持ちのよい温度。

優しく私を包む。


「い、つき」


久しぶりに声を出したから、掠れた声色になっていた。

好きだと言ってくれた声なのに。

でも、届いてほしい。


金属のすれる足音とかが沢山聞こえてきた。

すぐに見つかってしまうだろう。




「イツキ、会い、たいよ………愛してる」






右手首に何かが巻き付いた。

と同時に部屋の扉が開かれる。





















※※※※※






「「それでそれで?」」

「泉の中から出てきたのは「ディーネ!何を話してるのっ?」」


美しい黒髪を揺らしながら我が王妃様が、顔を真っ赤にしながら近づいていらっしゃった。

あらら、気づかれちゃいましたねぇ。


「有名な『最後の花嫁』ですよ」

「でもそれはっ」

「かあさまー、ディーネのおはなし、おもしろいのー」

「本にも書いてないこともあるんだよー」

「アカリ、カケル………そりゃねディーネ、ウンディーネは水の大精霊ですもの。水から伝わっているでしょう」


世界中の内情をすぐに把握したのも彼女だ。

まぁ今はさておき。


「さぁさ、もうすぐお茶の時間よ。お話はまた今度ね」

「えぇー」

「えー」

「今日は父様も一緒だから」

「「やったぁ!」」


私の手を引っ張る愛しい子供達。

場所はかけ離れているけれど、こうしていられることが出来るのは本当に奇跡なんだと実感する。




あの後――――






※※※※※






「………いつき?」


私を抱き締める逞しい身体、下を向くとサラリと揺れる黒髪、そして優しく微笑む端正な顔と、甘く見つめる夜空のような深い藍の瞳。

焦がれ求めた愛しい人。

ボロボロと私の目から涙が零れ落ちる。


「遅くなって、ごめんな」


嗚咽がつまって、首を沢山横に振った。


「こんなに痩せてやつれて………怖かったな、辛かったな」


来てくれた、抱き締めてくれた


もう十分だ。

このまま、離さないでいてくれれば、それで。


「シズクから離れろ」


だから、周りで刃を向ける王太子や騎士達なんて気にならない。


「何を馬鹿なことを。シズクから聞いているはずだ。婚約者だよ」


イツキの胸に頭を預ける。

そうすると優しく撫でてくれるのよ。


「婚約者だろうと、神が私に授けてくださった花嫁だ。関係ない!」

「ああ、それ。手違いだってよ」

「……………なに?」


ん、手違い?


「お前、本来儀式を行う年齢に至っていないにも関わらず泉に願っただろう。だから変に力が作動して、たまたま水溜まりに足を入れてしまったシズクが来てしまっただけだ。名前も水に関係しているからな」


なに、じゃあ私は本当はこなくてもよかったんじゃない。

花嫁なんかじゃなかったんだ!

本当に…………よかった。


「だが、それでも私はっ!」

「シズクを愛してるってか?いいぜ別に相手になっても。ただし…………」




こぽっ


ゴボ

ゴボゴボッ




「コイツらと俺に勝てたらな」


泉からは沢山の、本や伝記の挿し絵でしか見たことのない精霊が現れた。

騎士の大半は腰を抜かし、王太子や私は呆然。

なにこれ。


「俺たちの世界の神と、ここの世界の神がな、あんまりにも俺とシズクが哀れだからってな。俺をこの世界にやることにしてくれたんだ。ただ、」


そうしてイツキは語りだした。

イツキは私が消えてから酷く落ち込んで、また気づいてなかったけど人間の潜在能力が高かったらしく周囲に悪影響を及ぼし始めてしまったんだって。

だから元の世界だと、もし私が戻ってもコントロールが難しいだろうから、ここの世界に送ることにしたんだとか。

ついでに滅び逝く世界にいた精霊達も助けようってことにしたらしく、イツキは精霊王となってコントロールすることが出来たみたい。

後はこの世界で精霊が存在できるように、神様の事情で色々としててやっと、それが終わったんだって。


「シズクを取り戻すために元の世界を捨て、人間を捨てた。今は自然界の王だ。さらにお前は儀式を破って、あまつさえ結婚を拒否している女を追い詰めた。それでもかかってくるってんなら、いいぜ」


王太子は、ただ目をつぶるだけだった。






※※※※※






「シズク、どうした?」


下級の精霊達と戯れる子供達を視界のすみに入れながら、イツキは私の左頬に手を添えた。


「幸せだなぁって」

「そうか」






あれからすぐ、私とイツキは結婚し身を繋げ、私も精霊の身体になった。(実感はあまりないけど、そんなものだと言われた。)

王太子も、ちゃんと儀式の年齢になって改めて行ったようで、今は上手くいっているらしい。

今後、儀式はしないと聞いた。

争いになろうと、この世界のことはここの人間で始末していくそうだ。


そして私も


これから、普通の人間だったら気の遠くなるほどの長い年月をイツキと共に過ごしていく。


大丈夫


見守っていくから

この世界の行く末を――――






END

余談として

イツキ:樹 23歳ぐらい

シズク:雫 20歳

カケル:風 7歳ぐらい

アカリ:灯 3歳ぐらい


王太子:18歳(実は)



儀式は25歳で行うもの。

日本だと、ようやく一応社会人一人前かなぁと。

そろそろ大きな責任持たされる頃かなーなんて。



ここまで読んでいただき、お粗末様でしたm(__)m

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